第37話 ナイトメア

カノウの部屋で、カノウがパソコンをいじって、何かボソボソ言っている。

「ツァイスの裏サイトの力はすごいなあ、巨大生物や巨大ロボットの位置が手に取るようにわかるぜ。でも、このままじゃ、つまらないな」

すると、そうささやいた途端、画面にツァイスのエージェントが映る。

「つまらない?それはどういうことだね」

「はあ、あんたら、いったいどこに監視カメラや盗聴器を仕掛けてんの? なんでつまらないかって、特殊処理隊のやり方は想像がつく。このままじゃ、巨大生物は採石場あたりに一体ずつ呼び出されて、爆発を抑えながら処理されちまうよ。巨大生物同士の戦いも、派手な爆発も見られないね、このままじゃ」

「でもそうさせないために君が働いてくれるんじゃないのかね」

「ああ、こっちにはまだ3枚以上の手札がある。でも今封鎖地域にやってきたやつらには、面倒くさいサポートアンドロイドや、武器があるからなあ。俺、今度見つかったら、撃ち殺されちまうかもしれないし……。そうだ、贅沢は言わない。ただ、怪物や巨大ロボットを戦わすために、俺にもアンドロイドをしばらく貸しちゃくれないか」

「ふふふ、なるほど。それはいろいろな意味で名案かもしれないねえ。君の役に立てるかどうかはわからないが、腕利きを一人貸すことにしよう。とりあえずレンタル代は無料だ。今からちょうど1時間後に、君の部屋のドアを誰かが叩くだろう。仲良く頼むよ」



廃材置き場で、リタががれきの上にあきれたような顔をして座っている。

イネスの通信がはいる。

「ハイ、リタ、どう、大きな彼氏とはうまくいっているの?」

「教えてもらった廃材置き場にうまく来られたわ。そう、彼、とても頭がよくてね、身振り手振りがけっこう通じるのよ。あ、それでね、この廃材置き場に来たら、いやあ驚いたわ。電信柱や古い柱をばりばりとすごい勢いで食べているわ。とても幸せそうよ」

「ソロモン博士が、植物質なら何でも食べるって言ってたけど、さすがね。その隙にサーッと逃げられないの」

「それがよっぽど好かれたみたいで、こうしている間も、じーっとこっちを見つめているわ。それより、シドとモリヤはそろそろ来てもいいんじゃない? いったい、何をしているの」

「それが、ちょっと前に連絡が入ってね。生存者が残した手紙を見つけたから、一応確認してからそっちに行くって。あなたも知っている、中央公園のほうよ」

急に立ち上がるリタ。顔がゆがむ。

「やつだ。イネス、ワナよ。ああ、教えておけばよかった。私もあの公園で怪物を操る怪しいやつに、とんでもない目に遭わされたのよ」

「そう、じゃあ念のために増援部隊を送っておくわ」

「私も、こうしちゃあいられないわ」

リタは、身振り手振りで、ジャイアントに出発を伝える。

ジャイアントがリタをのせてゆっくり歩き始める。

「ハンド、出発するわよ。遅れないで、付いて来て!」

動き出したジャイアントの後ろをハンドがゆっくり付いて行く。


無人地帯

ミノタウロスについて道路を走る、マービンの車両

車の中で、リーガンやレベッカが相談している。

「あれ、ミノタウロスが止まったわ。何かしら」

マービンがのんきに答える。

「おおかた腹でも減ったんじゃろ」

リーガンが確認する。

「ふうむ、どうやら、前方の建物を警戒しているようですね」

「あ、ここ知っているわ。総合体育センターでしょ」

リーガンがはたとひざを打つ。

「戦車が難題も周りを囲んでいる…?あ、そうだ。確かリタさんがさらわれた場所ですよ」

それを聞いたレベッカが、急に目を輝かせる。

「何とか降りられないの、ちょっとだけでも行ってみたいわ」

マービンがどんと胸を打つ。

「わかった、パパが何とか交渉してみるか。よっしゃ、まかせとけ」

警戒して前に進まないミノタウロスを追い越し、静かに体育センターに向かうマービンたち。

車両が止まると、見張りが、上官の兵士とともに近づいてくる。

マービンたち、車を降りて、挨拶をする。

マービンが封鎖地帯の許可証を出しながら話始める。

「民間のセンサーメンテナンス班のものです」

「民間の? それは大変なお仕事で。今日は点検ですか」

マービンはしめたという表情でリーガンに目配せしながら話し出す。

「はい、この付近では、何か大きな事件があったそうで、センサーの再点検を行っております。お、おいリーガン」

リーガンも、うまく話を合わせる。

「この体育センターの周りには6箇所センサーがあるのですが、ジャイアントが出現したというホールの近くのセンサーに異常があるようです。これでは、怪物が近づいてもきちんと反応しない恐れが……」

一緒についてきていた上官が入ってくる。

「それは大変だ。あんな事件があったばかりで、特殊機動隊は撤収、今ここにいるのは事件の後始末のための作業部隊だけなんです。巨大生物と戦えるエキスパートも戦力もありません。協力いたします。こちらへどうぞ」

上官が、三人をホールに招き入れる。長い廊下を歩いて行く

マービンが周囲を確認する。

「もうあたりは、きれいにかたづけてあるようですな」

「ああ、まだ全部終わったわけじゃないんですが、だいたい片付きました。でも、今回は、死傷者が25名にものぼり、現場周辺は、そりゃあ、ひどいもんでした」

リーガンが小さな声で聞く。

「それで、その後、怪物たちは?」

「デーモンたちはやるだけやったあと、次の朝すべてどこかへ消え去ってそれっきりです。特殊機動隊は、動き出す前に壊滅。まだ建て直しは進んでいません」

ドアが開いて、事件があったホールが姿を現す。

もうすっかり片付けられているが、後ろの壁には大きな穴がそのままで痛々しい。

「ここで、リタがさらわれたのね」

レベッカが辺りを点検し始める。それを見てリーガンが動き出す。

「では、しばらくセンサーの点検を行います」

「わしもちょっと行ってくる。すぐ来るからの。」

レベッカは近くの兵士に話を聞く。

「特殊処理班のリタ・ラウリー隊員の捜索依頼も受けているのですが、お話を聞いてもよろしいですか」

若い真面目な兵士が進み出る。

「はい、なんでも協力しろとの指示を受けております。何なりとおっしゃってください」

「この後ろの壁が崩れているのは、一体…」

それはオランウータンの怪物ジャイアントが壊したと聞いてゾクっとした。さらにリタの連れてきた二体のアンドロイドも簡単にやられ、そのうち一体は戦闘不能になったのだという。そして最後には巨大な手につかまれて、リタは連れ去られた…。

やがて、リーガンとマービンが戻ってくる。

「配線が引きちぎられておりましたので、新しいユニットと交換しました。もう正常に動作します」

「これが、点検完了の書類となります。ええ、サインをここにお願いします。…どうだい、レベッカ、なにかわかったかい。そろそろジャイアントに追いつくぞ」

マービンがジャイアントの話をすると、今の兵士が地図を取り出す。

「ジャイアントをお探しですか。ジャイアントは、ここから北に5キロいったところで、ついさっき目撃されたそうですよ。ほら、ここです。」

リーガンが地図を見ながら首を傾げる。

「あれ、予想した方向と逆じゃないかなあ」

兵士はニコニコしながら答える。

「だったらなおさら良かった、私もこの方向でさっきそれらしい怪物を見たばかりなんですよ。急げばすぐ追いつきます。」

「本当ですか。すぐそばじゃない。行きましょう、お父様」

「よっしゃあ。出発だ。」

歩き出す三人。だが、その時、兵士の首元に小さな昆虫型のメカがついている?!


無人地帯のハイウェイ、カノウ、見知らぬ帽子の男と自動車に乗っている。

誰もいない無人の町を気持ち良さそうに走っている。

カノウが、黒い帽子の男に話しかける。

「ええっと、ナイトメアさんだっけ。鍵のかかっている自動車を簡単に開けて、普通にエンジンを動かして運転しちまうなんて、これもあんたの能力かい」

「いいや、仲間の仕事だ。我々の組織は、この無人地帯にもう何体か入り込んでいる。私の能力はさっき見せたとおりだ」

ナイトメアはそういって手のひらを広げる。そこには精巧な昆虫型のメカが動いている。

カノウがほくそえむ。」

「その能力があれば無敵だぜ。おうや、到着だ。確か、ここに最強の一匹がいるのよ」

車が止まる。ナイトメアは帽子をかぶりなおす。

「じゃあ、打ち合わせどおりC地点で作戦を実行する。終了後は、すぐ戻るぜ」

「よろしく頼む、はあ、もういない。さあ、俺も行くか。ええっと餌、餌……」

カノウ、生肉の塊を持って、大きな門の中へと入って行く。

門には、「シティー動物園」の看板が傾いてかかっている。

やがて、カノウの消えた門の奥で、すごいうなり声が聞こえる。

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