第35話 レベッカ出撃
マービン電気の展示センター、今は、臨時休業が続いていて、誰もいない。
長い廊下をマービン、リーガン、カリバン、そしてレベッカが、早足で歩いている。
マービンがやさしく言い寄る。
「な、レベッカ、退院したばかりなのだから、まだ家で休んでいた方がいいと思うぞ、お父さんは」
リーガンもマービンに合わせる。
「そうですよ。ちょっと前までずっと寝ていらしたんですから、無理はしないほうが…。」
レベッカはしかし、ズンズン歩く速度を速めるだけだ。
「でも、元気になれたのは、親友のリタが励ましてくれたからなの。その親友が、行方不明だなんて、じっとしてはいられないわ。ね、そうでしょう。お父様」
「そうだ、そのとおりだ、レベッカ、おまえは本当に心の優しい子だ」
リーガンが止めに入る。
「社長、そうかもしれませんが、無人地域に行くのは危険すぎます」
しかし、レベッカもうまいことを言い出す。
「でも、リーガンさんのすばらしい発明品のセンサーやロボットのカリバンが、守ってくれると聞いたし、マービン電気の車にも、特別な仕掛けをしたそうじゃないですか」
「ええ、センサーはさらに改良しましたし、カリバンは、そりゃあ、すばらしいロボットですし、今度は電子知能を車に乗せて、近づく怪物をすぐに分析できるようにしたんですよ」
マービンも負けずにアピールする。
「ふふふ、わしもな、巨大生物から身を守る秘策をよういしてあるのさ。昔からの知恵を使ってな、いろいろ作戦をたてておるんじゃよ。」
「え、さすがお父様。頼もしいわ」
「そうじゃろ、そうじゃろ…」
レベッカは、少し甘えた声で続ける。
「さすがね、お父様も、リーガンさんも、すばらしいわ。それならきっと大丈夫だわ。ねえ、お父様お願い。リタを見つけるためにほんの少し力を貸してほしいの」
マービンはもう、メロメロである。
「わかった、わかった。でも、一回きりじゃぞ、レベッカ。…リーガン、車の整備はいいな」
「はい、社長に用意しろといわれたものは、すべて用意しました。完璧です」
「よし、出発じゃ」
「はい、お父様」
三人は、マービン電気のトラックに乗り込んで、無人地帯へと出発する。
ここは無人地帯・動物園の近くである。
眠っているリタ。夢の中で遠い日の思い出がよみがえる。
元気そうなパパとママ、キースは乳母車の中ですやすや眠っている。
今日は、家族でおでかけだ。
まだ小学生のリタが、時々乳母車を覗き込んで微笑む。
シティー動物園のゲートをくぐって行く。
オリの中を指差して笑うリタ。写真を撮りまくるパパ。大きなゾウやキリン。
ライオンをおそるおそるみるリタ
ママの手作りのサンドウィッチをみんなで食べる。
猿山の猿を見て大笑いするリタ。
「ねえ、パパ、あのお猿さん見て、おかしいのよ」
リタが振り向くと、そこにいるはずのパパもママもキースも誰もいない、無人の広場があるだけ。さらに、猿山で爆発が起きて、何か恐ろしいものが地の底から近づいてくる。
「パパ、ママ、キース!」
眠っているリタの瞳から涙がこぼれる。
やさしい女の人の声で目が覚める。
「リタ、リタ、聞こえる?聞こえたら応えて。リタ……」
「イネス?はい、リタよ。体があちこちズキズキする。ここはどこなの」
「よかった生きててくれて。本当によかった。あなたは、オランウータンの怪物ジャイアントにさらわれて、そのまま連れて行かれたのよ。あれから、丸一日半たっているわ」
「ジャイアント?ああ、っていうか、私、そのジャイアントの肩の上にいるみたい。今のところ命の危険は感じないけれど……」
イネスが状況を開設する。
「どうもジャイアントは、上下のつなぎを着たあなたを、飼育係と勘違いしているようね。その服を着ている限りしばらくは安全だわ。今、あなたを救出するために、シドとモリヤが向かっているわ。あなたの親友レベッカもそっちへ探しに行っているようだから、とにかくもう少しがんばっていれば、生きて帰れるわ」
「早く、なんとかなるといいけどね」
リタは、自分の来ている便利屋サムのつなぎをまじまじと見つめた。
「あれ、何かしら、黒い煙のようなものが近づいて来るわ。鳥の群れ?」
イネスが少しあわてた声を出す。
「気を付けて。それは、熱放射を放ちながら飛び回る、ハーピーという怪物よ。攻撃しようにも身軽に飛び回るし、下手に撃ち落せば、増殖細胞をまき散らしながら大爆発っていうやっかいなやつらよ」
「ええ?どうもそのハーピーらしいわ。なんとかがんばってみるわ」
数百羽のハーピーが、黒い煙のように押し寄せる。ジャイアントが威嚇のうなり声を上げても全く反応しない。何かに追われるように突っ込んでくる。リタはジャイアントの方の上で身をかがめた。
「…お猿さん、なんとかやっつけて…」
その声が聞こえたのかどうかはわからないが、ジャイアントは突然腕を振り上げ、体に力をこめ、そして両手を前方に振り下ろした。その瞬間、太い手首のあたりにある熱放射口から、高温のガスが噴き出した。
「ウオオオオーン」
雄たけびとともにハーピーたちは大パニックとなり、四方八方へ飛び去って行く。すごい一撃だ。
「すごいわ、お猿さん!」
危機は去り、ジャイアントはまた歩き出した。
「あら、ジャイアントがまた止まったわ。あれ何かしら、足元にデーモンがやってきたわ」
デーモンたちはあのマッシュルームや草などをドッサリ持ってきて足元に並べる。
ジャイアントは、立ち止まると、デーモンからそれを受け取って口に運ぶ。
まるで献上されたものを食べる王様のようである。
ところがどうしたのだろう、デーモンたちは、突然、次々去って行く。
「いったいどういうことなのかしら。あら、デーモンはもう行ってしまったわ。ちょっと、ちょっと待って。前から、とんでもないものが近づいて来るみたい。」
最初は、ズシンズシンと足音だけが響き渡った。
やがて立ち並ぶビルの奥に、ゆらりと大きな影が揺れる。
低いうなり声が聞こえ、あたりが静まり返る。
ジャイアントが警戒して雄たけびを上げる。だが、その怪物はまったく恐れることもなく、不敵に一歩また一歩と近づいて来る。
ワニのような分厚い革と鱗、ランランと光る眼、鋭い牙がズラリと並ぶ。
前から近づいてきた、小山のような怪物こそ、まさかのドラゴンだった。
ドラゴンは、低いうなり声を上げながら、じっとこちらをにらむ。
ジャイアントも、近くの岩陰にリタを置くと、剛毛を逆立て、威嚇ポーズをとる。
しばらくにらみ合いが続いたが、どちらも譲ろうとしない。うなり声と叫びが交錯する。決着はつきそうもない。
間合いがつまる。その瞬間がついに来た。大地が唸りを上げ、土煙が舞い上がる。
とびかかるドラゴン。地響きを立てて二大巨大生物のものすごい死闘が始まる。
ジャイアントの硬質化した爪と長い腕がたたきつける。ドラゴンのしなやかな尻尾がうなりをあげる。
「ウガアアアアオオ」
ドラゴンの低い位置から突き上げるような頭突き、ジャイアントの剛毛の体当たり、ドラゴンのカギ爪のついた四本の腕が、ジャイアントの変幻自在の長い腕がぶつかり合う。
ドラゴンの強力な顎が、ジャイアントの喉もとをねらう。鋭い腕と爪で、その顎をとらえ、引き裂こうとするジャイアント。
「チャンスだわ」
逃げようとあたりをうかがい、歩き出すリタ。だが、そこから離れるとすぐ近づいてくるものがある。
「いったい、何なの?」
デーモンが2匹、眼の前に躍り出てくる。
「きゃーあああああああ」
その声に、ドラゴンを突き飛ばし、助けようとするジャイアント、だが、ドラゴンの舌がカメレオンのように伸び、鞭のようにしなって、ジャイアントをぶちのめす。
とびかかるデーモン、だがそのとき、物陰からハンドが飛び出し、デーモンたちをソードハンドで切り刻む。
「ありがとうハンド。わ、わあああ」
ハンドと再開できたリタ。だが、その時巨大な手がスッと伸び、リタをつかまえて運び去る。ジャイアントが、戦いを放棄して、助けにやってきたのである。
さらに巨大な腕が、まわりのデーモンを追い払う。
ジャイアントは、ドラゴンをにらんで大きな声を上げると、さっさと去って行く。
「お猿さん、あんた私をわざわざ助けてくれたんだ。なかなかいいとこあるじゃない」
ハンド、そのあとを、ゆっくりついて行く。
ドラゴンがゆっくり近づいて、デーモンをにらむ。デーモンは、先ほどジャイアントにやったように、すぐにドラゴンに餌を渡す。
ドラゴンは、デーモンを襲うことなく、その場を離れて行く。その後ろをついていく、デーモンの群れ…。
アレックス・ラボの工場で多くの人々が忙しそうに働いている。
リタを目の前で連れ去られた隊員たちは、悲壮な表情で集まってくる。
ケン、ルーク、そしてまだ腕に包帯をしているロビンが顔をそろえる。
アレックス博士が、モニター画面を説明する。
「君たちも仲間を連れ去られ、すぐにでも出撃したいだろう」
ケンが握りこぶしにぐっと力を入れて答える。
「はい、ドリルボットもタロスもやられてしまい,断腸の思いであります」
モニター画面に、先ほどの怪物ジャイアントが映る。
「だが、先ほど届いたサキシマ指令からの情報では、ドラゴン、ミノタウロスといった、さらに強大な怪物が確認されたということだ」
年長のルークが慎重にたずねる。
「もっとすごいのがまた出たんですか。」
「ああ、現状はかなり厳しい。そこで次世代機の開発を急ぎ、試作機の段階で実践に配備することとなった。」
ルークがさらに質問する。
「しかし、まだ傷が完治していないロビンも一緒に召集というのは…。」
利発なロビンが腕を振って見せる。
「いや、もうほとんど回復しているんだ。実戦に戻れるよ」
「しかし、それにしても…」
「それは承知だ。無理をすることはない。だが三人一緒で訓練を始める必要があるのだ」
「はい?」
「三人で同時に操縦する、三本の竜の首を持つ、メタルタイタン、テュホンだ」
シャッターが開き、三本首の巨大ロボットが姿を現す。
「おお、こ、これは…。」
どよめきが起きる。タロスよりずっと大型の二足歩行する巨竜が姿を現す。足元に新型のアンドロイドも並んでいる。
「三本の首は頑丈でどの方向にも自在に可動し、口には強力な破砕機とドリルがついている」
体の前面には、いろいろな特殊弾を打ち出せる砲門や、サポートアンドロイドヘラクレスの専用ゲートも用意してある。
ケンがサポートアンドロイドに注目する。
「ヘラクレス?そういえば、ひとまわり大きいぞ」
「こちらもアキレスの次世代機だ。急な開発なので、電子頭脳はほぼそのままだが、怪物のセンサーを内蔵しており、さらに電撃ムチやスライサーなどを装備し、戦闘能力は格段にアップした。すぐに操縦訓練に入り、用意が出来次第、出撃だ」
三人は声をそろえた。
「了解」
無人地域
マービン電気の大型トラックが行く。
拡声器で、カントリーミュージックを流しながら走っている。
レベッカが尋ねる。
「お父様、この音楽は?」
マービンが偉そうに説明する。
「ああ、お父さんの田舎ではなあ、熊が来ないように、大きな音を流しながら歩くという暮らしの知恵があってのう」
「怪物に通じるのかしら。じゃあ、このくず野菜も?」
「ああ、そうだとも。熊にあったら餌をまいてな、そっちに気をそらして、そのすきに逃げるのじゃ」
レベッカは車に持ち込まれた大きなライトを指差した。
「このライトは?」
するとリーガンが説明しだす。
「怪物の中に空飛ぶハーピーというやっかいなやつがいるんですが、そいつら、どうも点滅する光に誘われる性質があるみたいなんですよ。前にこのトラックについていたマービン電気の電飾に集まってきて大変だったんです。このライトはその電飾と同じ点滅パターンで光るように調整してあるんです。万が一の時は、これでハーピーを引き付けられないかと思いましてね。」
「すごいわ、お父様もリーガンさんも!」
「こんな危険なところにお前を連れて行くのだから、お父さんも、いろいろ知恵をしぼってだなあ。平気だよな、なあリーガン」
リーガンが苦笑いする。
「はは、その方法が有効かどうかすぐわかりそうです」
「え、そりゃあ、どういうことじゃ」
「はは、巨大な生物が接近中です」
地響きがして、ビルの陰から、姿をあらわしたのは、なんとミノタウロスであった。
「ギョエー、黒い牛が二本足で立っておるぞ」
「で、でっかい、こんなやつは初めてです。」
「なんてこと!リタはこんなやつらと戦っていたの?」
「おいリーガン、どんな怪物なのかわからないのか!」
「はいはい、ただいま…。あ、これは牛と昆虫の遺伝子を持つミノタウロスという最大級の怪物の一つです」
レベッカが冷静に観察する。
「音楽が流れてるけど、逃げないわ」
マービンもあわてる。
「カントリーミュージックはどうもだめか。では次の作戦だ。。おい、カリバン、餌まき作戦だ」
カリバンがさっと動き出す。
「お任せください」
トラックの後ろから、大きなくず野菜を入れた袋を担いだカリバンが登場。
それを見守る三人組。
レベッカが心配そうに見守る。
「カリバンさん平気かしら」
リーガンが不安そうに言う。
「なんか、やな予感がするんですが」
マービンは腕を組んでじっと見守る。
「まあ、黙って見ておれ」
カリバンは、くず野菜の袋をあけ、ミノタウロスに近づく。
ミノタウロスは、巨大なハサミを近づける。
カリバンは丁寧に餌を差し出す。
ミノタウロスはそれをじっと見つめる。
ミノタウロスはそっと餌を受け取り、一口で、それを食べてしまう。
そして、ミノタウロスはさらに餌を受け取ると、すっかりおとなしくなってしまう。
マービンがどや顔で視線を送る。
「どうじゃい。お父さんの言ったとおりになったろうが」
「すごいわ。お父さま。それにカリバンさんって、本当にすごい。すごいわリーガンさん」
「いやあ、そうですか。カリバンのやつ、本当によくできたやつでして……」
だが、その時、ビルの陰から、大きなワームが出て、カリバンに襲いかかる。
レベッカが立ち上がる。
「ああ、危ない、カリバンさん」
しかも、ミノタウロスも、それを見て、獰猛なうなり声を上げる。
リーガンが残念そうにつぶやく。
「ああ、何てことだ、せっかく、おとなしくなっていたのに……」
、ミノタウロスが長い槍のような腕を突き上げて、突然、カリバンの方へ襲い掛かる。
マービンも見ていられない。
「うひゃあ。お、おたすけ」
だが、ミノタウロスが突き刺したのはワームのほうだった。熱放射がおさまると、ミノタウロスはまたおとなしく、ワームを食べ始める
マービンがまたえらそうにしゃべりだす。
「ほれほれ、どうだい。こいつは、我々を守ってくれるぞ」
リーガンもうなずく。
「もしかすると、こいつと一緒に移動すれば、、安全ですよ」
「でも、リタをさらったという猿みたいな巨大生物はどこにいるのかしら」
「ふむ、お任せください」
リーガンは、後ろに積まれたカエサリオンのところに行き、何か操作をする。
「これでよし、巨大生物の位置を分析せよ」
カエサリオンは即座に答える。
「今出会った怪物と同じくらいの反応が、この周辺に5体、巨大なロボット反応が1体、そしてさらに大きな反応が、北ブロックのゴミ集積場のあたりにいくつも確認できます」
「ええ、もっと大きなやつも、おるのかいのう」
「その中の1体とリタさんは一緒にいるわけですね」
レベッカは画面を見て凛として言い放った。
「じゃあ、さっそく行きましょう。リタ、待っていてね」
マービンたち、ミノタウロスとともに,街の奥へと進んで行く。
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