第31話 特殊機動隊

裏通りのコンビニから、カノウが出てくる。手に缶コーヒーと、スナック菓子などを持っている。缶コーヒーを開けて飲み干す。

「ふー、しみるぜ。ここいらの店はグールに荒らされてないし、冷蔵庫も冷えてるし、来てよかったぜ」

しばらく歩いていると、遠くから何かが近づいてくる気配。

「や、やばい、デーモンだ」

カノウは裏通りをよく知っているとばかりに駆け抜け、マンションの方へと走っていく。

後ろから3匹のデーモンが追いかけていく。

「角を曲がっていくと行き止まりだ」

3匹のデーモンがすぐそばまで近づいてくる。

なぜか、襲い掛かるのではなく、静かに距離を縮めてくる。カノウ、行き止まりに立ち尽くす。

「フハハハハハハハ」

迫りくるデーモン、だがその時、壁の向こうから、巨大な影が飛び出してくる。ヒドラだ。あっという間に巻き付かれ、引き裂かれ、噛み砕かれ、熱放射を撒き散らしながら、飲み込まれるデーモン。

「ハハ、今日の餌は生きがいいだろう」

その様子を遠くから、別のデーモンが見ている。

カノウはマンションの中に入っていく。自室の中に入り、パソコンのスイッチを入れると、何とツァイスの裏サイトとつながっている。

画面に怪しい人影が映る。

覆面を付けたエージェントが、画面の向こうでささやく。

「カノウ君といったね。君はボムモンスターに襲われない特異体質じゃなかったのかね」

「見てたのか、あんたらどこに監視カメラを持ってるんだよ。ああ、デーモンは別だ。他のボムモンスターは、みんな、餌付けしてある程度言うことを聞かせることもできる。ところが、デーモン、やつらは知能がすげえ高くて、自分たちの仲間を増やすために、他の怪物を襲うんだ」

「仲間を増やすために、襲う?」

「ああ、俺が遊びで撮った動画ファイルがある。今転送するぜ。」

「ほほう、これも高く売れそうだね。」

デーモンが、ゴミをあさるグールを襲い、体に管を刺す場面が映る。

「のろまなグールかなんかをとっ捕まえて、自分たちの細胞を体内に打ち込むんだ。そうすると、そのグールも知能が高くなって、デーモンの仲間になるってわけだ。いまだきちんとした生殖機能をもっていないデーモンは、そうやって仲間を増やしてる。」

「なるほど、詳しいな。ところで、状況も変化しているが、あとどのくらいここにいられそうかね」

「いやあ、怪物同士や怪物と兵器をけしかけて戦わせるだけで、莫大な金が俺の口座に振り込まれるんだからやめられないよな。どいつが一番なのか、見ているだけでけっこう面白いしな。そうだな、あと半月はここにいてもいいかな」

「なら助かるねえ。生物兵器としてのクリーチャーボムの実践データが高く売れるのでね。これから、軍が乗り出してくるから、さらにデータ料がつり上がるのさ。よろしく頼むよ」


会議室

市長をはじめ、いつものメンバーが揃っている。

市長が口火を切る。

「今日早速お集まり願ったのは、先日逃亡した巨大生物らしきへの対応についてです。サキシマ特殊処理班指令、お願いします」

サキシマ、モニター画面の赤い点を指し示す。

「今日、午前9時15分ごろ、北ブロックをパトロール中の第七小隊が、巨大生物の手によって、全滅しました。装甲車両も、戦車も破壊され、死傷者21人に及ぶ被害が出ました」

惨状がモニター画面に出る。ざわめく室内。

市長が確認する。

「この間のテロリストが持ち込んだボムモンスターの仕業ですか」

「まだ分析中ではっきりとは言えませんが、逃げ出した二匹のうちの一匹である可能性は非常に高いと言えます」

市長がつぶやく。

「二匹のうちの一匹か…、こんな破壊力を持ったものがまだ他にもいるというのか……」

すると警察署長がスッと立ち上がり、ある提案を始めた。

「そこで、わが警察庁特殊処理班と軍の精鋭部隊を再編成し、対巨大生物特殊機動隊を組織することをここに提案したい。時間がないので、至急検討の上、ぜひ、ご了承願いたい」

市長が尋ねる。

「特殊機動隊とは、どのような組織なのですか」

軍の指令が解説を始める。

「対巨大生物用の大型ロボット、最新鋭のタロスが主力武器となります。これに、ドリルボットと冷凍弾や殺菌弾を装備した最新鋭の戦車部隊が加わります」

市長がさらに質問する。

「殺菌弾や冷凍弾を使う戦車部隊…なるほど、それはわかりましたが、巨大生物の大爆発にどう対処するのですか」

「北ブロックには、今は使われていない採石場やゴミの最終処理場があり、その周辺には、ほとんど住宅や公共の施設もありません。そこに巨大生物を誘い出して、爆破するのです」

サキシマが、モニター画面のマップを示す。

中央ブロックの総合市民体育センターを一時的に特殊機動隊の前線基地とします。ここは、北ブロックにも近く、前線地区として最適です。、スタジアムや体育館、スポーツジム、宿泊施設が一体となった建物で、大型の兵器も、兵隊も、そのまま収容できる場所です。この地域のボムモンスターの処理率は92パーセント、しかも、周囲にボムセンサーの配置が終わっており、比較的安全が確認されています。」

参加者、みんなうなずいて説明を聞く。


総合市民体育センター

スタジアムに、特殊戦車、宿泊施設に装甲車両が乗り付けていく。

市民体育館に特殊機動隊本部が設置されている。

本部前に、特殊機動隊の兵士40人が並んで隊長の話を聞いている。

「私が特殊機動隊を指揮することになったクロード大佐である。君たちは、特殊車両や爆弾処理、生物兵器のエキスパートとして選ばれた精鋭である。相手は未知の怪物だが、恐れることはない。明日の早朝、メタルタイタンとドリルボットが合流、午後からは北ブロックに進軍する。今日は機体の点検を行い、十分に休息をとるように。以上」

全員、敬礼して、各持ち場に走っていく。


スタジアムの戦車ドック

数人の兵士が、戦車の点検をしている。

整備兵の一人が立ち上がる。

「じゃあ、おれはこれであがる。お先に失礼します」

するともう一人がハッチから顔を出す。

「おれもそろそろあがろうかな」

隣の戦車の後ろから、もう一人が出て来る。

「そうだな、明日に備えてそろそろ休むか。俺も行くから待っててくれ」

ハッチから顔をのぞかせていた整備兵の様子がおかしい。

「うぉっ!」

その時、その整備兵が、誰かに引き込まれるように戦車の中に消えていく。周りは誰もそれに気づかない。

最後に出てきた整備兵がぼやく。

「あれ、ダン、もう行っちっまったのか。現金なやつだ」

ダンの戦車の中からは、不気味な音が響いてくる。


特殊機動隊本部

クロード大佐と幹部が作戦会議をしている。すると、電気が点滅し、しばらく暗くなったのち、また元に戻る。

クロード大佐が訝しむ。

「これで電気系統のトラブルが3回目だなあ。ジャック、どう思う」

副官のジャックがわからないと首を振る。

「ここの電力系統はまったく正常なはずです。誰かが送電線か地下の配電室を意図的にいじっているとしか考えられません」

情報官のロジャーが何かを思い出す。

「そういえば、地下室で、物音を聞いたという報告があったかと……」

クロード大佐が立ち上がる。

「地下の配電室?怪物がまぎれこんでいるか。この体育センター周辺のセンサー反応はどうなってる!」

ロジャーがモニター画面を確認する。

「先ほどまではゼロでしたが……。おや、電力不足できちんと作動していません」

副官のジャックも立ち上がる。

「確認が必要だと思われます」

「よし、腕利きを3名、武器を持たせて地下室に偵察にやれ。すぐだ」

「了解」


宿泊施設

兵士たちが休んでいる。

さきほどの整備兵たちが話をしている鵜。

「いやあ、ここは快適な部屋だねえ」

「ハハハ、オリンピックの選手も泊まったところだぜ」

「どおりでいいはずだ。久しぶりにぐっすり眠れそうだ」

誰かがドアをノックする。

「誰だ、今ごろ」

ドアが開いて、整備兵の仲間が眠そうな顔をして入ってくる。

「悪いな、こっちにダンが来てないか」

「来てないよ。おまえたち一緒じゃなかったの」

「悪かったなあ。もう一度、スタジアムを見てくるよ」

整備兵が、長い廊下をもどっていくとスポーツジムのようなところに出る。

突然、上のほうから、長い紐のようなものが伸びてきて、整備兵の首に巻きつく。

「う、ぐ、これは……」

整備兵は、そのまま上に、引っ張り上げられ、暗闇の中に消えていく。


特殊機動隊本部では、あわただしく兵士たちが動き回っている。

副官のジャックがあわてて走り寄る。

「クロード大佐、大変です。先ほどの偵察隊3名から、連絡が途絶えました」

「なんだと、まだこれからだというのに……。すぐ軍の本部と警察に事件の内容を連絡し、これから総力をあげて事件を解明すると伝えよ。緊急招集だ」

「了解」

本部の周りをたくさんの兵士が走って集まってくる。


夜の総合体育センターの遠景

遠くのビルの陰から、巨大な影が、ゆっくりと近づいていく。


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