第30話 新たなる影
マービン電気研究所。
リーガンとマービンがカリバンを前にいろいろ働いている。
「分析完了。ええ、まったく異常なしです。すごいやつだなあ、おまえ。社長、あれだけの衝撃をうけて、カリバンはダメージがまったくありませんよ」
マービンもニコニコ顔だ。
「そうか。奇跡のロボットとして、テレビ局に売り込むか」
しかし、リーガンが注意深くつぶやく。
「ただ、ひとつだけ気になることがありましてね……」
その時、マービンの携帯がなる。
「おお、わしだ、テレサか。ええ、ああ、レベッカが!そうだと思ったよ。うんうん、夕方には今日も必ず行くから。うん、うん、じゃあ」
「え、奥様からですか。もしかして……」
「そうさ、レベッカが峠を越したそうだ。さっそく後で見舞いに行かなくちゃなあ」
リーガンもテンションがさらに上がる。
「良かったですねえ、いろいろいいことばっかりだ」
その時、アラームが鳴り、カエサリオンの目が光る。
「本日のボムセンサーの結果が出ました。報告いたします」
「おや、センサーの集約方法が変わったのかい」
「はいはい、集約と分析をこのアンドロイドの頭脳に任せたんです。すごい分析能力ですよ」
「…封鎖地域の周辺部、西部・南部地区では、処理部隊の活躍により、クリーチャーボムはほとんど根絶に近い状態です。推定処理度98.7パーセント。あと、少しで、避難命令の解除も可能と思われます。でも、問題なのは、封鎖地域の北部ブロックです。ここは、センサーの反応が日に日に増加し、強烈な反応も見られます。つまり、増殖や大型固体の出現が考えられます。特にゴミ処理場周辺、下水処理場周辺、その周囲の山林は要注意です。増殖の原因を早く確定し,早急に手を打つ必要があります」
マービンが目を丸くする。
「へえー、大したもんだねこりゃあ。でも北ブロックで増殖か。また金のもとにならんかなあ。そういえばリーガン、おまえカリバンのことでひとつ気になることがあるって言わなかったっけ」
「そうそう、カリバンのこの頑丈なボディの中には、大きなものがしまい込まれているんですよ。それが、いったい何なのか、どうやって開けるのか、まったくわからないんですよ」
「頑丈で開けられないって、金庫みたいなロボットだな。道理で寸胴だ。」
「でもよかった、レベッカさんが正気に戻られて。私も面会に行ってもいいですかねえ」
便利屋サムの事務所で、シドとモリヤが、浮かない顔で座っている。
イネスが、お茶とケーキをもってくる。
「ほらほら、元気を出しなさいよ。テロリストの実行犯もばっちり捕まえたんでしょ。大サービスの手作りミルクレープよ。元気出して」
シドがぼやく。
「へたうっちまったなあ。ああ、リタに合わす顔がねえや」
モリヤはもう、前向きにミルクレープに食らいつく。
「ふう、この次にきっと取り返します。おお、このミル何とか、いける」
シドもちょっと心が動く。
「そんなにうまいのかい。う、うん、これは、うまい。コーヒーともベストマッチングだ」
窓の外、バリケードの向こうで銃弾の音が聞こえる。
ソロモン博士が窓の外に目をやる。
「おや、なんだ、銃声が派手に聞こえてくるぞ」
シドがミルクレープをほおばりながら、説明する。
「ああ、今度は軍が小さなボムモンスターに限り攻撃できるようになったんで、さっそく動き出したみたいですねえ」
モリヤが付け加える。
「凶悪で危険なデーモンを一掃する作戦だと言ってましたよ」
ソロモン博士がいぶかしげに音の聞こえてくる方を見やる。
「軍が町の中で武器を使うのか。戦いが泥沼化せねばよいのだが」
デーモンの集団が立てこもるマンション、そこに向かって、軍の部隊が進んでいく。戦車と装甲車両を中心に、歩兵がマンションを取り囲むように近づいて行く。
マンションのひときわ高いところから、ボスらしいデーモンがそれをじっと見ている。
軍の兵士がある程度まで近づくと、ボスが気勢を上げる。
それを合図に、物陰からデーモンたちが、熱放射弾を討ち始める。射程は大したことはないが、先頭にいた数人の兵士は直撃を食って倒れる。隊長が叫ぶ。
「物陰に退避せよ。こちらも銃撃で応戦する。」
銃撃戦になる。みじかいこう着状態のあと、デーモンたちの身を隠すマンションの外壁にロケットランチャーが撃ち込まれる。大きな爆発が起こり、デーモンたちはちりぢりになる。その機を逃さず、兵士たちが突進する。
するとあちこちのもの影から、デーモンたちが襲いかかる。
鋭い牙と爪、そして熱放射弾、先頭にいた数人の兵士が餌食になる。
隊長が叫ぶ。
「ひるむな、銃を使え」
兵士たちが、一斉に銃を撃ちはじめる。飛びかかろうとした2匹のデーモンが吹き飛ぶ、ものすごい爆風で、近くにいた兵士も吹き飛ぶ。
隊長が待ての合図をおくる。
「これほどの爆発力とは!接近戦は圧倒的に不利だ。極力さけろ。戦車でやつらをけちらせ」
戦車が、小銃を撃ちながら、突っ込み、兵士を襲っていた2匹のデーモンをこっぱ微塵にする。
兵士たち、物陰に隠れて、銃撃戦に徹する。
さらに3体のデーモンが爆発し、土煙が上がる。
デーモンのボスが大きく叫ぶ、すると、デーモンたちはさっと動きだし、撤退を始める。
「追え、逃がすな」
若い兵士が2名、物陰づたいにマンションに近づく。だが、正面に飛び出したとたん、熱放射弾の一斉攻撃を受け、倒れる。
また、ボスが気勢を上げる。するとデーモンたちが、猛スピードでマンションを離れて逃げて行く。
隊長が愕然とする。
「互いの被害者が、きっちり9名ずつ……。これではまるで……」
建物に近づいていった若い兵士が隊長に報告する。
「もう、建物の中には一匹も残っていないようです。逃げ足の速いやつらですね」
「逃げ足のはやい……。はたして、それだけかな」
軍隊の様子を少し離れたビルの上から、眺めるボス。戦車に向かって牙をむくと、しばらくそれを見つめている。そうだ、俺たちにも、強力な戦力があれば…。そしてボスは、何かを思いつくと、闇の中へとすがたを消していく。
封鎖地域(北ブロックを軍の車両、装甲車2台と戦車1台が、パトロールをしている。
兵士の一人がボムセンサーのモニター画面を見ながら報告する。
「このあたりに、強力なモンスター反応があります」
もう一人が答える。
「見渡したところがれきの山しか見えないなあ。がれきの下に、マッシュルームでも、埋まっているかなあ」
その時、地面がぐらぐらゆれ、兵士たちは車両へと駆けよる。
「うわ、なんだあれは!」
がれきの下から、何か大きなものが立ち上がる。よく見えないが、巨大なトカゲのような…。
「うぉー、た、助けてくれー」
巨大な爪が、巨大な足が装甲車をけちらし、戦車をひっくり返す。
本部からの通信がむなしく響く。
「どうした第七小隊、何があったんだ……」
答える者は誰もいない。無残に転がる軍隊の車両、何か巨大なものが去って行く。
リタとルークのドリルボット、ケンのタロスとともに、ビル街に突き進んで行く。
「いたわ、トロルが2体、奥にゴーレムとワームが一体ずつ」
ルークが目標を確認する。
「あのトロルはすごい体をしてるなあ。まるでロックトロールだ?」
ケンのタロスが進み出る。
「トロルはこのタロスにまかせろ」
「よし、リタ、俺たちで、ゴーレムとワームをやる」
「了解」
ソードを構え、突進するタロス。型のランチャーから冷凍弾を撃ち出し、さらにボウガンで一匹の動きを止める。
「もらった」
巨大なソードがひるがえり、トロルは2体とも熱放射を撒き散らしながら、粉々になって行く。
ルークがゴーレムを粉砕し、ハンドとエルンストがワームの群れをあっという間に倒して行く。
ケンが合流する。
「やった。あれほど危険だったトロールをいっぺんに2体、粉砕だ」
ルークもほほえむ。
「タロスはいけるぞ。ヒドラやジャイアント、正体不明の巨大生物ともやりあえるかもしれない。あの正体の分からん不審人物を、今度こそ追い詰めてやる」
その時、緊急コールがなる。
「こちら本部、特殊処理班特別部隊、緊急招集だ」
ケンがぼやく。
「なんだ今頃。何か問題があったか」
「いったいなにかしら」
事態は大きくうねりだしたのだった…。
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