第19話 宣戦布告

それから数日後、中央情報局広報室

たくさんのマスコミが押しかけ、フラッシュの嵐の中、情報局長、警察署長、市長、司令官、アレックス博士などが入場する。

情報局長がマイクの前に毅然として立つ。

「市民生活を無差別に、理不尽に破壊し命を奪うテロリズムに、断固宣戦を布告する。今、皆さんに提示した十六の対抗措置を、すぐに行うことを宣言します」

拍手とどよめきがおこる。

その様子をテレビで見る、街頭の人々。

テレサやレベッカ、イネス、取調べ中のリタ、みんな真剣な顔で聞いている。

リーガンも、作業しながらテレビを見ている。そこへマービンがやってくる。

「おいおい、テレビ見てるか、これでまたマービンシェパードの量産だぞ」

リーガンがあわてて振り向く。

「ええ、もう増産ですか。今、ネットの構築の最終調整をやっているんですが、間に合うかな」

「ネットの構築?そんなものは二の次でいい。いつまで売れるか分からん代物なんだから、ともかくだな……」

その時、リーガンがモニターの点滅に気付く。

「ちょっと待ってください。昨日までの出荷分4500個のセンサーの集計がもうすぐ出ますから……」

「集計?そんなことはお役所にまかせておけばいいんだよ」

ところが、リーガンが急にあわてふためいた。

「ええ、何だこりゃ、大変だ」

「なんだ、あわてて」

「すごい、すごい数です」

「どうした、え?何が起きたんだ」

リーガンがモニター画面のマップを指差した。

「市内数千箇所に設置されたクリーチャーボムのセンサーが、あっちでも、こっちでも反応しているんです」

マービンが身を乗り出した。

「なんだって、爆弾があちこちにあるのか?」

「北側の住宅地を中心に、数十から数百以上も反応しています。いったい、いつの間に…。どんな手を使ったんだ…。」

マービン、モニターのマップを見つめ、震え出す。

「ま、まちがいじゃないな。かあさん、レベッカ、おい、すぐに連絡を」

黄昏の街、片隅のゴミ箱の横をネズミが駆け抜けていく。体の右側に不気味なキノコがくっついている。そして下水道に逃げ込む。下水道には数えきれない光る眼。増殖したネズミがうごめいている。下水道から次の下水道へ、そして街中へ…。


公園

その時、散歩している犬が突然苦しみ暴れ出す。

「どうしたの?大丈夫?きゃーあ」

肩のあたりにみるみるキノコ状のかたまりが……。

カノウの部屋、カノウが大きな水槽に生肉のような餌をやっている。

「おまえよく食うな。ほれほれ、もっとやるぞ」

水槽の中には、ヤモリやヘビと合体した大きなキノコ状のかたまりが動いている。

「ハハハ、いいぞ、いいぞ、もっと大きくなれ」


市の動物園

飼育係が小屋の掃除をしている。

隣のおりでは、オランウータンの大きな雄が、憂鬱そうに部屋の隅にうずくまっている。

「おい、マックどうした、今日はご機嫌ななめかい」

おりに近づく飼育係、オランウータンが振り向くと、その体にキノコ状のかたまりが……。

「うわー、た、大変だ」

下水道の中、ネズミが走り回っている。

一回り大きなものが近寄ってきて、ネズミを飲み込む。ワーム状のボムモンスターである。

警察署から出てくるリタ。取調べが終わってホッとした様子である。ところが、出てきたとたんフラッシュの嵐。思いもしなかったマスコミである。

記者が食らいついてくる。

「リタ・ラウリーさんですね。市民の命を救ったご感想は?」

「ハ、ハイ、取材ですか」

別の記者がマイクを突き付ける。

「あの大きなクリーチャーボムに向かっていった時、怖くはなかったんですか」

リタは困惑して歩き続ける。

「いえ、その、こういうことは初めてで……」

今度の記者は、前方に立ちふさがる。

「いろいろな免許を持っているそうですが、操縦は難しくなかったですか?」

リタは顔を伏せながら通り抜ける。

「ごめんなさい、急いでいるので」

かけ足で抜け出そうとすると、見知らぬ婦人が花束をサッと渡す。

絶妙のタイミング、つい受け取ってしまうリタ。

謎の婦人が声をかける。

「おめでとうございます。メッセージをどうぞ、いきのいいお姉さん…。」

「え?ありがとう、きれいなお花」

だが、急ぎながら何気なしに花に添えられたメッセージに目を通して、リタは驚き、立ち止まる。

「ちょっと誰か、今の人をつかまえて!え、もうどこにもいない?」

記者たちが駆け寄って、リタからメッセージを受け取る。

一人の記者が素っ頓狂な声を上げる。

「た、大変だ。警察を」

「いったい何が起きたんだ」

メッセージを手にした記者が読み上げる。

「今回のツァイスに対する制裁措置をすぐにやめないと、今日の午後9時に情報局長を狙撃する…チーム・ファルコン……」

そこにシドが乗った四駆が乗りつける。飛び乗るリタ。すぐに全速力で走り去る。


便利屋サムの事務所

リタとシドが駆け込んでくる。

リタがさっそくソロモン博士に詰め寄る。

「お知らせしたとおりです。ファルコンって何ですか」

「ツァイスの闇の組織には、三つのチームが大幹部として君臨しているという。策略を得意とすチームナイトメア、情報収集や狙撃を得意とするチームファルコン、暗殺を専門に行うチームパヒュームじゃ。だが、やつらの能力や姿かたちはまったく謎の扉に閉ざされておる」

「でもいくらそんなやつらでも、時間と相手を指定しての狙撃なんて無理ですよね」

ソロモン博士は首を傾げた。

「わからない。ただ、チームファルコンは、今まで、予告をおこなった事件で失敗したことがないという。はったりとは思えんが」

リタが大きな声を出す。

「ま、まさか、そんな」

そこにイネスが出てくる。

「ひとこと言っていいかしら」

「はい、何でしょう」

イネスはやさしく声をかけながら手を差し伸べた。

「おかえりなさい。ここはもうあなたの家なんだから」

リタは目を丸くして、そっと手を握った。

「私ったら、すっかり頭に血がのぼっちゃって…。言うのを忘れていたわ。ただいま!」

イネスが微笑んだ。

「もう一度言わせて。おかえりなさい。心配したのよ。本当に……」

リタ、イネスに抱きついて目を潤ませる。

リタはしかし、まだあきらめていない。

「博士、なんとか狙撃を止められないの?」

「狙撃手がアンドロイドなら、電子知能センサーで位置をあぶりだすことだけはできると思うが……」

リタが身を乗り出す。

「それで十分、そのセンサーを私に貸してください」

「わかった、おまえもせっかちじゃのう。そうだ、持ち運べるよう、ハンドのセンサーハンドにプログラムを移植しよう。何、ものの二十分もあればできるじゃろう」

「ありがとう、博士っていつも仕事が早くて大好き!」

イネスも前に出る。

「無理はしちゃあだめよ。ってあなたに言っても無駄かしら。まあ、サポートはするけど、あんまり派手に動きまわると、また捕まるわよ」

「ありがとう、いつも心配ばかりかけてごめんなさい」

ソロモンが腕を組みながらほほ笑む。

「まったく、台風みたいな娘じゃのう」

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