ザ・ハンドクライシス ノベルス
セイン葉山
第1話 レベル9
高レベル緊急サイレンが鳴り響いた。ここはアメリカ情報局、センタービルの最上階。司令室に情報局の局長が詰め寄った。
「何事だ。またテロ組織が動き出したか」
指令室の警備隊員は浮足立っていた。
「いいえ侵入者です。しかもありえないことですが、中央セクションのレベル9からの警報です」
「レベル9? あのセキュリティを破ることは不可能だ。何かのまちがいか? すぐに異常を確認しろ」
だが、もしやと思いを巡らせた局長の顔はとまどいの色を隠せない。
「それとも、まさか……。あいつらか?」
ここは高機密保管セクションレベル9、最深部である。大金庫の前に、謎の男が立っている。警報が鳴っている。
「今頃気づいたか。もう遅い」
ものすごいスピードでパスワードを打ち込む男の瞳の色が、人相さえもがくるくると変わっていく。手のひらをパネルに合わせる男。機械音が応答する。
「人相及び虹彩認証終了。IDパスワード確認。DNA認識番号016。ゲートオープン」
謎の男、たやすく大金庫の奥へと入って行く。高レベルセクション用のセキュリティが発動。サイレンの音とともに、長い廊下をアンドロイドの警備兵アキレスが数人で走って行く。警備隊員の声が重なる。
「対アンドロイド兵アキレス301部隊、レベル9に急行せよ」
迫りくる足音、だが謎の男は微笑んで、天井に向かってささやく。
「さっそくおでましになったな。相棒、足止めを頼む」
「任せろ」
どこからともなく聞こえる声。すると、金庫室の入り口のコンピュータが異常な光り方をする。突然前方の隔壁が閉まり、立ち往生するアキレスたち。
指令室のモニター画面にはレベル9のセキュリティマップが映し出され、あちこちが赤く点滅している。
「レベル5からレベル9までの隔壁がこちらの命令なしに次々と閉まっていく。いったい何が起こっているのだ」
レベル9の大金庫の中から、先ほどの謎の男が出てくる。すぐ後ろの天井から、逆さのまま精巧なアンドロイドの上半身が現れる。アンドロイドの体からはハッキング用のコードが何本も出ている。
「脱出時間は35秒間ある。味方の戦闘アンドロイドも到着した。さ、こっちだ」
謎の男、アンドロイドとともに天井の空間に消えて行く。手には銀色のアタッシュケースが握られている。
中央セクションの大きなビルの前が大変な騒ぎになっている。
警備隊の車が数台集まってくる。盾と銃をかまえた重装備の警備兵オリオンが身構えている。警備隊長の号令が響き渡る。
「犯行を行ったアンドロイドは、通気口を抜け、この一階のダクトホール付近に現れるはずだ。急げ、ここから一歩たりとも外に出すな」
その時裏口を守っていた警備隊の悲鳴が聞こえた。ビルの前で人の形に空間が一瞬ゆがむ。光が瞬き車両が一台燃え上がる。
「光学迷彩か? 気をつけろ、別の戦闘アンドロイドがすでに来ているぞ」
ビルの入口が突然爆発、噴き出す炎、煙の中にうごめく黒い影。数体のアンドロイドが、煙の中を、高速で襲ってくる。警備車両が燃え上がり、隊員たちの悲鳴が響き渡る。
情報局の最上階では、爆音に驚いた局長が立ち上がり、前に詰め寄っていた。すぐそばのモニターが光り、警備隊員からの緊急報告が入る。
「局長、例のDNA情報と細胞のサンプルプロ・メタ・αが持ち去られました。さらに、負傷者十数名にのぼるかと……」
「まさか、あれを持ち去るとは……、早く手を打たねば。このままではこの町から平和な日々が消えてなくなる……」
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