第81話 隣街2

 街は、露店が並んでいた。

 もうすぐ日暮れだ。もしかすると、店をたたんでしまうかもしれない。

 人の流れはあるけど、何時途切れるかも分からない。急がないとな。


「お土産は、なにがいいかな……」


 前回は、宝石のついた装飾品にした。

 バレッタは、毎日付けて入れてくれていたな。


「他の物がいいよな……」


 迷ったけど最終的に、石鹸とした。いや、液状のボディーソープかな。

 いい匂いがしたので、これに決めた。

 俺に化粧品とかは分からないけど、喜ばれる物を考えた結果だった。

 値段は、それほどでもない。金貨を出したら、お釣りが多過ぎると言うことなので、余っている銀貨で足りる値段でもあった。だけど、露天商を回って、これが一番喜ばれると思案した結果だ。

 石鹸しかない開拓村。エレナさんに知識があるのかは分からない。でも……、喜んで欲しいな。


「宝石とか花とかは、俺には理解できない。実用性のある物を選んだけど、セリカさんに相談すべきだったかな……」


 まあ、今更だ。

 とりあえず、自己満足して、宿屋に向かった。

 そして、柔らかいベットで眠りに就いた。





 次の日の朝、朝食を済ませて、馬車へ向かった。

 宿屋は、カウンターで鍵を返せば、支払いを要求されることはなかった。セリカさんが事前に済ませてくれていたみたいだ。

 セリカさんを見つけると、馬の世話をしていた。


「おはようございます」


「おはよう。少し遅いわね」


 この世界は、時間の概念が曖昧過ぎる。時計が欲しいな。


「なにを買って帰るのですか?」


「私は、布と糸がほしいのだけど、トールさんは、なにが必要だと思うの?」


「えっ? もしかして、決めていないのですか?」


「……任されていると言って欲しいわね」


 驚いてしまう。ヴォイド様は、貴重な資金を侍女に一任している?


「以前はね、食べ物だけだったの。そんなに選択肢もなかったから、買い出しはザレドさん達が、主に担当していたのよ」


 分からなくもないけど。

 まあ、買う物が決まっているのであれば、わざわざヴォイド様が来る意味はないか。

 それよりも、護衛の方が重要だよな。盗賊とか出たら、大損害だし。


 さて……、余計な思考を止めて、考えるか。

 この数ヵ月の開拓村の変化……。


「果物……。それと、釣り竿と網……。アルコールは、樽で欲しいな。穀物は、麦だけじゃなくて、芋とか米、トウモロコシを畑で育てて、植物の病気の蔓延を防ぐ……。それと、薬かな。テトラさんに聞いて来れば良かったな」


 セリカさんが、微笑んだ。


「連れて来て正解だったみたいね。値段の交渉は、私がするわ。欲しい物を教えてね」



 まず、俺は釣具を探した。

 川沿いの街なんだ、あるはずだ。雑貨屋を巡って行く。

 途中で薬屋があったので、解熱剤を購入した。そして、気が付いた。


「お茶の匂い……?」


 間違いない。茶葉だ。紅茶の匂い。

 聞いてみるか。


「これって……、苗木はありますか?」


 店員が答える。


「お目が高いね。最近なんだけど、仕入れられた物なんだ。お湯に溶かすらしんだけど、正直味がしないので人気がないんだ。まあ、いい匂いがするのは分かるんだけどね」


 ……アルコールが先にあり、お茶が普及していない世界。

 カフェインの重要性が、理解されていないのか……。

 珈琲やお茶を楽しむのは、当分先かな。飲み物は、果汁とか家畜のミルクが多いし。


「栄養価を重視しているんだな。衣食住の充実。そして、争いのない世界の実現……。そうすれば、文化も花開くか」


 そして、もっと重要な事。


『お茶の樹を探し出した人がいる。多分、異世界召喚者だよな』


「なにを考えているの?」


「匂いはいいけど、味がしなく栄養価の低い飲み物ってどう思いますか? 少し意識がハッキリする効果は望めますけど」


「……異世界の知識なのね。重要なの?」


「時間が経てば、重要視されると思います。いや……、王都ではもう普及していてもおかしくないですね」


「……苗木が欲しいのね。ちょっと待ってね。交渉してみるわ」


 その後、別な仕入れ先で、苗木を得られた。

 これは、思わぬ収穫だ。

 それと、そこで果物を数種類購入することもできた。もちろん、種のある果実だ。ブドウは大きいかもしれない。

 ちなみに、イチゴは苗だった。味見をしてみると、甘味がほとんどない。それと枯らしそうだったので、今回は購入を控える。


「イチゴ酒ってあるのかもしれないけど、量の生産は無理がありそうだしな」


 酒は、10樽ほど買った。数日でなくなりそうだけど、村民にも喜んで貰いたい。

 それと、他の店を回って行く。すると、それが目に付いた。


「カーボンファイバー製の釣り竿? 釣り糸と釣り針もある? これ……、ナイロンの糸か?」


「兄さん。異世界召喚者かい? この街では売れなくてな。格安でいいので買って行ってくれないかい?」


 魚の泥抜きくらい、思いつかないのかな?

 高度な道具がいきなり流入して来て、理解が追い付いていない?


「……急激な技術の進展。それをまだ理解されていない世界。こうなると、俺の時代より先の人が異世界召喚されている可能性もあるよな。電気とか半導体が作られれば、一気に世界が変わる。いや、その前に機械技術と回転力……エンジンかな?」


「ねえ、思索にふけるのもいいけど、買わないの?」


 俺は、セリカさんを見た。

 考える時間くらいは、欲しいんですけど……。

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