第81話 隣街2
街は、露店が並んでいた。
もうすぐ日暮れだ。もしかすると、店をたたんでしまうかもしれない。
人の流れはあるけど、何時途切れるかも分からない。急がないとな。
「お土産は、なにがいいかな……」
前回は、宝石のついた装飾品にした。
バレッタは、毎日付けて入れてくれていたな。
「他の物がいいよな……」
迷ったけど最終的に、石鹸とした。いや、液状のボディーソープかな。
いい匂いがしたので、これに決めた。
俺に化粧品とかは分からないけど、喜ばれる物を考えた結果だった。
値段は、それほどでもない。金貨を出したら、お釣りが多過ぎると言うことなので、余っている銀貨で足りる値段でもあった。だけど、露天商を回って、これが一番喜ばれると思案した結果だ。
石鹸しかない開拓村。エレナさんに知識があるのかは分からない。でも……、喜んで欲しいな。
「宝石とか花とかは、俺には理解できない。実用性のある物を選んだけど、セリカさんに相談すべきだったかな……」
まあ、今更だ。
とりあえず、自己満足して、宿屋に向かった。
そして、柔らかいベットで眠りに就いた。
◇
次の日の朝、朝食を済ませて、馬車へ向かった。
宿屋は、カウンターで鍵を返せば、支払いを要求されることはなかった。セリカさんが事前に済ませてくれていたみたいだ。
セリカさんを見つけると、馬の世話をしていた。
「おはようございます」
「おはよう。少し遅いわね」
この世界は、時間の概念が曖昧過ぎる。時計が欲しいな。
「なにを買って帰るのですか?」
「私は、布と糸がほしいのだけど、トールさんは、なにが必要だと思うの?」
「えっ? もしかして、決めていないのですか?」
「……任されていると言って欲しいわね」
驚いてしまう。ヴォイド様は、貴重な資金を侍女に一任している?
「以前はね、食べ物だけだったの。そんなに選択肢もなかったから、買い出しはザレドさん達が、主に担当していたのよ」
分からなくもないけど。
まあ、買う物が決まっているのであれば、わざわざヴォイド様が来る意味はないか。
それよりも、護衛の方が重要だよな。盗賊とか出たら、大損害だし。
さて……、余計な思考を止めて、考えるか。
この数ヵ月の開拓村の変化……。
「果物……。それと、釣り竿と網……。アルコールは、樽で欲しいな。穀物は、麦だけじゃなくて、芋とか米、トウモロコシを畑で育てて、植物の病気の蔓延を防ぐ……。それと、薬かな。テトラさんに聞いて来れば良かったな」
セリカさんが、微笑んだ。
「連れて来て正解だったみたいね。値段の交渉は、私がするわ。欲しい物を教えてね」
まず、俺は釣具を探した。
川沿いの街なんだ、あるはずだ。雑貨屋を巡って行く。
途中で薬屋があったので、解熱剤を購入した。そして、気が付いた。
「お茶の匂い……?」
間違いない。茶葉だ。紅茶の匂い。
聞いてみるか。
「これって……、苗木はありますか?」
店員が答える。
「お目が高いね。最近なんだけど、仕入れられた物なんだ。お湯に溶かすらしんだけど、正直味がしないので人気がないんだ。まあ、いい匂いがするのは分かるんだけどね」
……アルコールが先にあり、お茶が普及していない世界。
カフェインの重要性が、理解されていないのか……。
珈琲やお茶を楽しむのは、当分先かな。飲み物は、果汁とか家畜のミルクが多いし。
「栄養価を重視しているんだな。衣食住の充実。そして、争いのない世界の実現……。そうすれば、文化も花開くか」
そして、もっと重要な事。
『お茶の樹を探し出した人がいる。多分、異世界召喚者だよな』
「なにを考えているの?」
「匂いはいいけど、味がしなく栄養価の低い飲み物ってどう思いますか? 少し意識がハッキリする効果は望めますけど」
「……異世界の知識なのね。重要なの?」
「時間が経てば、重要視されると思います。いや……、王都ではもう普及していてもおかしくないですね」
「……苗木が欲しいのね。ちょっと待ってね。交渉してみるわ」
その後、別な仕入れ先で、苗木を得られた。
これは、思わぬ収穫だ。
それと、そこで果物を数種類購入することもできた。もちろん、種のある果実だ。ブドウは大きいかもしれない。
ちなみに、イチゴは苗だった。味見をしてみると、甘味がほとんどない。それと枯らしそうだったので、今回は購入を控える。
「イチゴ酒ってあるのかもしれないけど、量の生産は無理がありそうだしな」
酒は、10樽ほど買った。数日でなくなりそうだけど、村民にも喜んで貰いたい。
それと、他の店を回って行く。すると、それが目に付いた。
「カーボンファイバー製の釣り竿? 釣り糸と釣り針もある? これ……、ナイロンの糸か?」
「兄さん。異世界召喚者かい? この街では売れなくてな。格安でいいので買って行ってくれないかい?」
魚の泥抜きくらい、思いつかないのかな?
高度な道具がいきなり流入して来て、理解が追い付いていない?
「……急激な技術の進展。それをまだ理解されていない世界。こうなると、俺の時代より先の人が異世界召喚されている可能性もあるよな。電気とか半導体が作られれば、一気に世界が変わる。いや、その前に機械技術と回転力……エンジンかな?」
「ねえ、思索にふけるのもいいけど、買わないの?」
俺は、セリカさんを見た。
考える時間くらいは、欲しいんですけど……。
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