第82話 隣街3

 最終的に店にある、釣り竿と釣り糸、釣針を全て購入した。

 川魚の泥抜きを覚えれば、高騰すると思うけど、まだ先だな。それと、海釣りはできそうにないし。


「俺が欲しいのは、こんな所です。後は、セリカさんの欲しい物を購入してください」


「……案外少ないのね」


 その後、調理器具と農具を購入して、残りの資金で食べ物を購入した。

 特に、穀物だ。芋が多いな。

 それと、追加で高価なアルコールも購入した。これは、エルフ族用だ。贈答品にしようと思う。

 途中で、布と糸も購入する。量は少なめだ。


 荷物は、馬車一杯とは行かなかったけど、十分な量かな。


「こんなところかな。遅くなる前に帰りましょう」


 こうして、帰路に着こうとした時だった。

 フードを被って顔を見せない子供が、袋を差し出して来た。


「……物乞い?」


 セリカさんを見る。


「好きにすれば? でも、開拓村の資金は渡せないの。これは、私達の汗と血なのだから」


 銀貨を一枚袋に入れる。金額が高すぎるかもしれないけど、俺には不要な物なんだ。有効に使って生き延びて貰いたい。


「……ありがとうございます」


 子供が、顔を上げた。

 驚いてしまった。自分の口を押える。


『……廃墟で会った、そう、シーナだ』


 旧都市と思った廃墟で出会った少女……。

 そのシーナが、少し微笑む。なにかのサイン?

 だけどシーナは、そのまま遠ざかって行く。

 俺だとは、気が付かれなかった?


「あの子を知っているの?」


「いえ……。出発しましょう」


 シーナの意図を知ることは、できないと思う。偶然かもしれないし。

 だけど、思い当たること……。


『亜人族との戦争……』





 適当な雑談をして馬車を進ませる。

 まず、セリーヌ様だ。王族に嫁いで、王城の仕事を仕切り出したらしい。

 それと、侍女を減らして自分で仕事を行っているのだとか。

 何度目か分からないけど、この世界の貴族のイメージが異なるな。


 そして、セリーヌ様の配下だった労働者の話になって行く。


「30人くらい来そうなんですか?」


「有能な技能を持っている人材を厳選したらしいの。それで、もうすぐ来てくれるわよ。冬前に帰るだろうけど、手伝ってね」


「……雨風を凌げる程度の家を増やしておきますか。まあ、簡単なあばら家ですけど」


「それは、少し待ってね。それよりも、トールさんに依頼があったわ。木材の水分を抜いて欲しいとのことらしいの。理解できる?」


 聞いたことはあるな。どこかの五重塔の話だったかな。

 100年間とか、日陰で木材を置いてから、加工するとか。

 でも、それを俺に依頼して来るのか……。

 俺の強みは、その特殊性なんだけどな。その特殊な収納魔法の使い方を考えられている。

 この先、大丈夫なんだろうか。

 治水工事では、襲われたりしたんだけどな……。

 まあ、今は結構有用なモノを"収納"してある。大丈夫……かな。


「どうなるか分からないので、数本試してみます。建築士? に聞いてみて合格を頂いたら全部行う方向で」


「そう? お願いね」


 木材の歪みに関係するんだろうな。膨張していた木材が、引き締まる?

 まあ、試してみよう。


「それと、本音を言うとね、妨害にあっているみたいなの。旧王都を優先して復興すべきだって、意見もあるらしくて……。ダニエル様も腐心しているらしいわ」


 ため息しか出ない。

 王都の混乱……。権力争いを先に鎮めた方がいいんじゃないか?





 日が暮れてしまったけど、開拓村に着いた。ランプの光で合図を送ると、開拓村の扉が開く。

 ヴォイド様が、出迎えてくれた。


「遅くなりました。でも、道中はなにもありませんでしたね」


「お帰り。しかし……、セリカにしては、珍しいね。何時も日暮れ前に帰って来るのに」


「トールさんの長考が、多くて……」


 ヴォイド様が俺を見る。


「トールは護衛としては、優秀かもしれないが、次からは気を付けてくれ。セリカも女性なのだ」


「すいません。分かりました」


 ……慣れないというか、分らなかったな。

 日暮れ前に戻ってくる予定なら、言って欲しかった。集合時間も遅かったし。それと、『長考』か……。


 その後、何時もの入浴だ。今回は、女性陣にボディーソープを渡す。

 結果的に喜んでくれた。

 全員の入浴が終わったので、エレナさんに聞いてみる。


「ボディーソープの感想を聞かせて欲しいのですが」


「……良かったです」


 一本だけ、エレナさんに渡す。


「個人で使ってください」


「そう……。ありがとう」


 今回のプレゼント攻撃は、失敗だったかな……。でも受け取ってはくれた。

 まあ、少しずつ会話を増やして行こう。



 その後、シュナイダーさんに数種類の種と苗木を渡す。


「これを育てればいいのだね。う~ん。温室が欲しくなって来たが、なんとかしてみせるよ」


「お願いします」


 信頼できる人がいると、楽だな……。





 数日後、新しい村民が来た。30人くらいかな。意外と多かった。

 それと、物資を大量に持って来たな。特に、石灰を持って来たんだそうだ。

 俺には、使い方が分からない。まあ、有用なモノなんだろうな。


 挨拶を行う。

 班長は、イクスさんだそうだ。何時もの7人と同じ責任者に入るんだと思う。

 そして、全員を引き連れて、開拓村を案内する。

 何故か、案内役は、俺だった。


「食は間に合っているが、住居が雑過ぎるな。これでは、冬場はなにもできまい。住居整備と、井戸掘りから始めるか……」


 住居はいいのだけど、井戸には疑問があると思う。聞いてみるか。


「元々、湿地帯だったのです。水は汚染されていませんか? わざわざ、2キロメートル先の川まで、毎日水を求めているのだし」


「薪が大量にあると聞いている。煮沸消毒させてもいいし、植物を混ぜて殺菌する方法もある。不確実だが、日光に晒すのもいいらしい。異世界召喚者の知識だが、常識になりつつあるよ」


 イクスさんは、博識だな。

 俺の知識では、水道水を飲めるのは日本を含めた数ヵ国だけってことくらいだ。確か、塩素で殺菌していたと思う。

 外国では、飲み水を買うとか聞いたな。でも、発展途上国ではどうしてたんだろう?

 いや、江戸時代とか……。

 それと、戦争になると放棄する井戸には、汚物で汚染させるとか聞いたことある。

 ……殺菌の知識。機会があったら調べてみよう。


「色々と知識があるんですね。手伝いますので指示をください」


「君が噂のトール殿なのだろう? こちらこそよろしく頼むよ」


 どうやら、頼もしい人が来たようだ。

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