第75話 再始動5

「これも食べられる野草だね。苦味があるので、水に晒してから火を通すと食べられると言っていたな」


 今俺は、シュナイダーさんと山を散策している。

 シュナイダーさんは、人族が食べられる野草を覚えているんだそうだ。

 俺は、指示された野草を摘んで行く。

 確認は、村民に頼めばいいと思う。

 最悪は……、毒見かな。お腹が痛くなったら……、収納魔法で〈毒のみ〉を……。

 あまりいい手段じゃないかな……。


「お、あれは……」


「ん? なにかありました?」


「……実のなる樹だな。どうするか」


 シュナイダーさんに着いて行く。

 シュナイダーさんは、樹を調べ出した。俺には分からないな。


「枝を一本でも持ち帰りますか?」


「……これは、一年の内に一時期にしか実を成さない種類だな。原種に近い。それと、栄養価も低そうだ。品種改良しなければならないので、手間がかかる。今日は採らないで良いよ」


 全然、分からない。

 でも、エルフが育てていた果樹園は、一年中実が成るんだったな。

 品種改良の成果なのかもしれない。

 でも、一年中実のなる樹か。

 そんなの、前の世界でもなかった気がする。狂い咲き?

 魔法によるのかな?


「科学より優れた魔法か……」


 まあ、前の世界でも、林檎は一年中食べられた。

 保管方法が確立されれば、もぎたてでなくても量を得ることはできるはずだ。


「異世界定番だけど、『缶詰』でも作ってみるかな」


「……人族は、錆びない金属を持っていない。もう少し先の話になるね」


 シュナイダーさんが、俺の独り言に反応した。


「『缶詰』が分かるのですか? 誰かが作った?」


「ドワーフ領では、アルミニウムなる物を産出しているらしい。時々売りに来ていたよ」


 アルミ製品があるのか……。

 缶詰は、ステンレスだった気がするけど、アルミニウムでも作れるんだな。


「オリハルコンでできた工具を見せられた時は、流石にエルフ族も驚いたのを覚えているよ」


 ……オリハルコン?


「それ……、金属でした?」


「ああ、魔力を帯びており、眩い光を放っていたよ」


 興味あるな。アルミニウム合金にオリハルコンか……。

 採掘に向いている俺の収納魔法であれば、作れるかもしれない。

 開拓村は、農具を他領より購入していた。付与を行って修復できるようになっているけど、元々の質は悪いと思う。

 もし、自作できるようになれば……。


「鍛冶か……。材料が見つかれば、いいかもしれない。そうなると、地質学や材料工学の知識が必要だな」


「また、考えているのだね。なんと言うか、トール殿は、頭の回転が速いのだね」


「……俺には、それしかありませんから」



 更に森の奥へ進んで行く。

 俺の一番の希望は、『唐辛子』なんだけど、シュナイダーさんは探してくれているのかな?

 ここで、日が真上に上がったのを確認した。


「シュナイダーさん。一度、開拓村へ戻りましょう」


「おっと、そうだったね。定期報告が必要なんだったね」


 袋一杯の収穫物もある。この後、開拓村で一休みしてから、他の方向へ再度散策に行くのもいいよな。

 こうして、一度戻ることにした。





「エレナさん。戻りました」


「お帰りなさい……。随分な収穫量ですね?」


「俺では、毒見しかできないので、調理のできる人に選別を頼んで貰ってもいいですか?」


「……私ではダメだと?」


 う……。それもそうか、エレナさんに野草の知識がないわけがない。

 でも、村民の指揮はいいのかな? まあ、任せよう。


「お願いします」


「了解です」



 その後、昼食を頂く。村民で、火を囲んで歓談だ。

 シュナイダーさんは、海藻のペーストを作りに行ってしまった。食事が異なるというのは、面倒だな。何とかしてあげたいけど、知識量は、シュナイダーさんの方が上だ。任せた方がいいよな。

 ここで、テトラさんを見かけた。昼食時でも一人で忙しく働いている。怪我人が出たのかもしれないな。

 いや、怪我人なら、俺に来るか。そうなると、病人かな?

 そして、思い出した。


「そうだった。テトラさんから預かっている本……」


 俺は、あばら家に戻って本を取って来た。それを、シュナイダーさんに見て貰う。


「薬の材料になるみたいです。これらの採集もお願いできますか?」


 シュナイダーさんが、頁を捲って行く。


「これらは、今の時期には収穫できないね。もう少し温かくなってから、遠くの温暖な土地で探した方がいいな。それにしても、これを薬に変えるのか……」


「問題がありますか?」


「……痺れる毒草も入っているよ」


 麻酔用かな? 使い方次第だと思う。


「信頼している人なので、悪用はしないと思いますよ?」


「……ふむ。まあ、従おう。食べるのではなさそうだしね」


 さて、もう一度、森に入るか。

 そう思った時だった。

 ヴォイド様とセリカさんが来た。


「トール。これから私達は、王都へ向かう。決して無理をせずに、エレナに従って過ごしてくれ」


 おや? もう出発か。

 慌て過ぎじゃないかな? そんなに重要だった?


「分かりました。ヴォイド様も道中気を付けてください」


 村民全員で見送りを行う。

 さて、俺達はまた散策だ。


「シュナイダーさん。行きましょう」

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