第74話 再始動4

「『にがり』……ですか?」


 開拓村に戻って、塩を袋詰めしている時に言われた。


「うむ。人族では、料理に使うと聞いている。料理以外にも使い道があるとも聞いたな」


「シュナイダーさんは、なぜ知っているのですか?」


「エルフ族の中でも、少数の人族は生活していたのだよ。たまにだが、他種族を保護しては、自立できるまで面倒を見ることもある。まあ、相手次第だがね。以前トール殿がエルフの里にいた時は、接触がないようにされたみたいだ」


 ほう……。そんなこともするんだ。

 他種族の保護か。

 そういえば、こないだエルフの里へ行く途中に出会った〈ハグレのオーク〉も殺さなかったな……。〈ハグレ〉の対応は、種族によって異なるのかもしれないな。

 俺は……、問答無用で"収納"しちゃったし。だけど、あの時は交渉などできそうになかった。

 話し合いで済む世界……。他種族の保護……。余裕があるかどうかなのかもしれないな。今の人族は、追い詰められているんだし。

 あっ……。戦争ってどうなるんだろう? 命と資源の無駄にならなければ、いいのだけど。


「戻って来たのね。お帰りなさい」


 ここで、セリカさんが来た。


「ただいま戻りました。塩は、2袋で50キログラム程度作っておきます。もう少し待ってください」


「丁度いいわ。馬車に積み込んで貰えるかしら?」


「はい」


 そのまま、馬車の停留所まで移動した。

 馬車に塩の袋を納める。


「助かったわ。これで、ヴォイド様の面目も立つわね」


 機嫌良さそうだし、聞いてみるか。


「セリカさんは、『にがり』って聞いたことあります?」


「えっ? まあ、料理に使っているのだけど? 作れるの?」


「作れるみたいです。現物を見せて貰えますか?」


 セリカさんが、走って行ってしまった。

 シュナイダーさんを見る。


「……調味料は、重要だよ? 特に、人族のように食文化を持っているのならね」


 分からなくはない。

 ここで、セリカさんが戻って来た。

 瓶を渡される。


「ドロドロした液体なんですね……」


「料理に深みが生れるのよ。作れるのなら、お願い」


「ちょっと実験してみます」





 エレナさんは、村民の指揮を執っていた。

 シュナイダーさんは、その輪に入って行く。

 俺は、今日のノルマは熟したし、晩御飯まで実験をしようかな。

 ここで、エレナさんと視線が合った。


「ただいま戻りました」


「……お帰りなさい。塩は?」


「セリカさんに渡してあります」


「それでは、他の仕事の手伝いをしてくださいね」


「……分かりました」


 ふぅ~。まだ機嫌は悪そうだな。以前のような、満面の笑みはまだ見せてくれない。


 まず、俺は瓶を探した。開拓村は、なんでも再利用する。エコな村なんだ。まあ、土器でもいいんだけど、粘度を確認したいので、透明な瓶を探した。

 そして、見つけた。


「この瓶を借りてもいいですか?」


 洗い物をしている村民に聞いてみる。


「割らないで下さいね」


 それだけ言って、渡してくれた。

 さて……、実験だ。


「不純物と真水を混ぜても溶けないな……。沸騰させてみるか?」


 〈熱量〉を加えて、沸騰させてみる。それと、棒でかき混ぜてみた。

 全部は溶けなかったけど、ドロドロとした液体ができ上がった。

 不純物は溶けきれてもいない。配合も考えないとな。

 試しに、少し舐めてみる。


「……不味いな。それと、セリカさんに貰った物とは味が少し異なるけど、これでいいのかな? 確認して貰おうか」


 俺はでき上がった物を持って、村長宅へ向かった。


 セリカさんに味を見てもらうと、合格を頂た。そして、量産するように指示を受ける。これならいくらでも作れるから、仕事になると思う。

 ついでに、聞いてみるか。


「にがりって、特産品になりますか?」


「ええ。王都でも、塩は多少不足しているの。にがりも欲しがる料理人は多いのよ」


 さしすせそ……。砂糖、塩、酢、しょう油、味噌。それ以外の調味料か……。

 マヨネーズとか胡椒は異世界の定番だよな。でも、トマトソースやバーベキューソース、植物油なんてのも欲しい。

 もっと言えば、唐辛子とか、ワサビなんか欲しいかもしれない。辛み成分の香辛料はあるんだけど、あまり好きじゃなかった。

 なんと言うか、美味しくない。材料は、分からないけど。

 それと、お茶だ。カフェインが恋しい。


 ここで、エレナさんとシュナイダーさんが来た。

 にがりの説明をする。


「ふむ……。にがりも作れるんですね……」


 エレナさんが、考え出す。

 ここで、シュナイダーさんが口を開いた。


「トール殿であれば、少量でも金や白金が作れるのではないかね?」


 全員が、シュナイダーさんを見る。

 にがりには、色々な金属が混じっていると言っているのかな?

 〈不純物〉を更に分離する? 俺の収納魔法は、俺の〈認識〉に依存している部分がある。

 できなくはない……、か?


「……魅力的な提案だけど、人族でも、鉱脈は所有しているの。金を得たいなら、トールさんを鉱山に派遣した方が、効率が良くなくて?」


 それもそうだな。

 採掘は魔晶石で試しているし、金は開拓村には不要だ。


「鉱山は、追放処分となった異世界召喚者の行き先の一つになっています。都市部には住めない人達の働き口とでも言いましょうか……。言ってしまえば、開拓村もなんですけどね」


 ……俺は、どの道開拓村に行くしかなかったのか? 歌川に聞いてみたい。

 しかし、追放処分か。自分が受けなかったから考えもしなかったけど、後ろ盾がない状態での生活は厳しいかもしれない。

 以前、『人口が足りていない』と言っていたので、見殺しにすることはなさそうだけど、貴族に買われなかったらどうなるんだ?


 平民に拾われる? 奉公?

 今度、王都に行った時に調べてみてもいいかもしれないな。

 あの時の、〈日本語を話せる女性〉は、重要人物だったのかもしれない……。まあ、結果論か。


「とりあえず、このにがりも王都へ献上品にするわ。ヴォイド様の名声が更に高まりそうね」


 セリカさんが、とても嬉しそうな表情を浮かべた。

 ふむ……。


「ちなみにですけど、水に溶かしていないにがりでも欲しいですか?」


エレナさんとセリカさんが、顔を合わせる。


「……使う人次第じゃないでしょうか? 食事以外にも使われるとも聞いています。そうですね。両方あった方が喜ばれるかも?」


 思慮が足らなかったか。溶かす必要もなかったんだな。

 空瓶ににがりを開放して、セリカさんに渡す。確認して貰って、有用と判断されたら、また作ろう。

 それと……。


「エレナさん。明日から調味料を探して来てもいいですか? いや、食材かな? 少し森を散策したいです」


「……定時報告に戻って来るのであれば、許可します」


 明日からは、森の中を探してみるか。

 ここで、シュナイダーさんが俺の肩に手を置いた。


「森は、エルフの領域テリトリーだよ?」

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