第69話 事後処理2

「ザレドさんは、今度俺がエルフの里に行く時に一緒に来てください」


「……う……む」


 これでいいかな?

 話を進めよう。


「話を戻します。エルフの里に俺の知人が現れました」


 全員が黙る。

 理解されないだろうな。俺は、異世界召喚者なんだし。


「……親しかったのかい?」


 こういう時、ヴォイド様は助かるな。さすが、村長だ。つうか、貴族だ。

教養、会話術、交渉術? いや俺の意図を読んでくれている……か。


「親しかったら、友人と言いますよ。あくまで、知人です。それで、一人を"収納"しました」


 全員が、絶句した。

 そうなるよね……。まだ殺してないけど、殺人未遂だし。


「トール、ちょっと待ってくれ……。話が飛躍し過ぎていて、ついて行けない。端折らないでくれ」


 うーん。舌足らずな俺の欠点が、出てしまっている。

 つうか、面倒くさい。それで、盟約書にそれなりに書いて来たのだけど……。


「端的に、世界最強の一角だったと思います。エルフ族を皆殺しにできるだけの力量を持っていたと判断しました。それと、俺達は出会わない方が良かったらしかったです。簡単に言うと、未来の情報を得ていました。それで……、今の俺は上手く行っているみたいなので、相手の方から退いてくれました」


「「「なに言っているか、分からないのだけど?」」」


 う~ん。簡素に要点だけ纏めたのだけど、理解されないか。

 だけど、『タイムリープ』とか言っても理解されるんだろうか?

 そもそも、俺の〈収納魔法〉も理解されていなかったのだし……。

 この世界の異世界召喚者に対する認識は、まだ甘いと思う。


「詳細を理解して貰うには、かなりの知識が必要です。そうですね……、まず、『時空間に干渉する魔法がある』ことを理解して貰わないと、無理ですね。正直俺にとって、『属性魔法』はレベルが低いです。先ほど、都市を壊滅させた話が出ましたが、俺の知人の魔法と比べると、可愛いと思えます」


 ……全員、言葉もないみたいだ。

 まあ、そうなるよね。常識を根底から覆すのだから。

 〈ハズレ〉認定された中に、この世界を壊せそうな人材が含まれている。俺も含めてだけど。


「理解はできないが、トールより有用な人材が、野放しにされているということかな? 先ほど逃亡者と言ったが」


 おお、さすがヴォイド様だ。俺の舌足らずな話を理解してくれている。ごく一部だけど。


「その認識で合っています。3チームいるらしいです。人数は不明です。それで、エルフの里と開拓村には手を出させない契約を結んで来ました」


「それを信じろと?」


「魔晶石は、現時点で俺が採掘に一番向いているみたいです。他にも依頼があるみたいですが、俺が協力すれば、とりあえず手は出してこないでしょう。この開拓村にもですけど」


 全員が視線を合わせて、首を横に振る。

 ダメだな。俺では、説明しきれない。

 こんな時に、岩瀬さんが現れてくれると助かるけど……、来なかった。

 それと、後伝えないこと……。


「スミス家というか、多分ダニエル様は、なにかしらの繋がりがあると思います。王家に伝える前に、ダニエル様と話し合って貰えますか?」


 少しの沈黙……。考えた末、ヴォイド様が口を開いた。


「分かった……。近日中に私が王都に向かおう。セリカ、用意を頼む」


「かしこまりました」



 その後、説明を続けるけど、結局理解されなかった。

 ただし、『俺の行動次第で世界が変わるらしい』とだけは、強調して伝えた。後は……、ダニエル様に期待しよう。


 外を見る。もう日暮れだった。

 今日は、村民が夕食を作ってくれていた。開拓村の主要人物が集まって、会議で時間を取られても、作業は滞らない。

 いい村だと思う。


「とりあえず、ここまでとして食事にしましょう。その後、湯を沸かして、体を拭きましょう。数日ぶりだし、気温も上がって来た。ちょっと寒いけど、衛生環境は保ちたいと思います」


「そうだね……。一度終わりにしようか」


「ヴォイド様! 懲罰の話が抜けています!」


 エレナさんが、声を張り上げる。

 しかし、懲罰か……。

 勝手にエルフと交渉したのだし、今回は甘んじて受けようか……。

 いや、エレナさんが、なにを怒っているのかを探ろう。俺は他人の気持ちが読めない。明確に言葉にして貰おう。


「うむ……。トール、皆で話し合った結果を伝える」


「はい」


「再度、奴隷紋を受けて貰うことになった。ただし、主人はエレナだ」


「えっ!?」


 余りにも予想外だった。

 驚いて、エレナさんを見る。

 笑顔で怒っているのだけど……。


「有用な能力スキルを持った人ですけど、制御できない鉄砲玉野郎でもありますからね。手綱を私が握らせて貰うことになりました。要は首輪です。異論、反論、拒否権、全て却下です!」


 クスクスと笑い声が聞こえる……。特に、セレナさんが、とても怖い笑顔だ。

 ヴォイド様を見る。

 助け船を期待してだけど。


「……無理だね。私でもどうすることもできない。それと、トールは一度腰を落ち着かせた方がいいね。今の自分の立ち位置を自覚した方がいい」


 仮にも村長で貴族じゃないの? エレナさんの提案を却下できなかったの?

 それと、『鉄砲玉野郎』からの推測になるけど、エレナさんは、独断でエルフに付いて行ったのを怒っているのかな?

 

 それにしても……、味方がいないよ。

 頑張って、エルフ族と協定を結んで来たんだけどな……。

 

「それにしても、鉄砲玉野郎ですか……」


「それ以外に、トールさんを表現する言葉がありますか?」


 俺って、そんなに危ないのかな……。自覚がない?

 危険に喜んで飛び込んでいると思われている?


 まあ、エルフさんに、『力に飲まれている』とは言われたけど。

 奴隷紋は……、開拓村にいるのであれば、避けられそうにない。

 まあ、主人がエレナさんだし、俺に不満はないかな……。


 多分……、大丈夫だよな? 以前受けた時には、なんの制約も出なかったんだし……。

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