第60話 エルフとの迎撃2

 今は夜中だ。

 俺は、果樹園の真ん中で焚火をして、警戒していた。単純に寒かったので。

 エルフ達は、俺の意見に同意してくれて歩哨を行ってくれている。


「ここまで警備が厳重だと来ないかな……」


 〈索敵〉スキルでもあれば、良かったのだけど、生憎と俺は収納魔法しかない。

 本来は、前線に立つ魔法ではないんだけど、オークを撃退させてからというもの、いつも前に出る様になってるな……。

 少し、技能スキルに呑まれているかもしれない。

 即死系の攻撃……、『気が付いたら首が飛んでいました』とかは、俺には対処できない。

 それに、両手に怪我を負った場合もアウトだと思う。

 一応、これから戦闘になりそうなので、兜と篭手は貰って着けた。

 できる限りのことをして、臨んでいると思う。万全には程遠いけど……。

 そんなことを考えている時だった。


 ──ザッザッ


 果樹園の中を乱暴な足音を立てて、歩いて来る人物がいた。

 そちらに目を向ける。

 エルフ達も集まって来た。

 松明に照らされて、その人物の姿形がハッキリとして来た。

 人族だった。

 そして……、俺の知る人物だった。


「歌川……」


「あん? 向後じゃねぇか。……なんでお前が、この時期にエルフの里にいるんだ?」


 エルフさんが俺の近くに来た。


「知り合いなのか?」


「異世界に来る前に、少しだけ話をしたことがあります」


 歌川が笑い出した。


「あはは。そこは〈友人〉じゃね? まあ、おまえは全然話さなかったけどさ」


 俺は、あの学校で一人寂しく過ごしていた。

 友人など誰もいない。

 無駄な考察は止めよう。まず、歌川の背格好からだ。

 前の世界では、短髪の金髪だったけど、今はかなり長い。

 オールバックであり、邪魔みたいだ。6ヵ月程度、散髪を行っていないと推測する。

 そして……、少し年上な感じがする。

 服装は、人族の街では見かけなかった物を身に纏っている。

 鱗みたいな物を何枚も貼り付けた装備だ。

 鱗の鎧? スケイルアーマー? 防御力は高そうだな。

 武器は腰に短剣がささっている。もしくは隠し持っているか、俺みたいに魔法系かだな。……空間収納に納められている可能性もあるかな?

 近接戦闘が行えるのであれば、素手なのだろうけど、ここには槍を持ったエルフが複数いる。

 それでも姿を現したんだ。戦闘に自信があるか、逃げる手段があるかのどちらかだと思う。


「歌川……。端的に聞くがカミキリムシは、お前が原因か?」


「ああ、そうだ。ちょっと頼まれてな。 ここのエルフの里の住人に移住して貰いたいらしい」


「誰からの依頼だ?」


 また笑う、歌川。

 エルフ達の殺気の篭った穂先が歌川に向く。


「う~ん。教えちまうとつまらないだろう? こちらからの要望は、〈この土地から出て行って欲しい〉だ」


 ここで風が吹いた。

 エルフさんが、いつの間にか歌川の背後に立っていた。

 そして、剣を振り下ろす……。

 歌川は、見もせずに回避していた。

 俺には、速すぎてなにが起きたのか見えなかったけど、歌川が超人的な動きをしたのは理解できた。


 その後、一騎打ちが始まる。

 エルフさんの見えない剣速を余裕を持って躱して行く、歌川。


『歌川の技能スキルは、なんだ?』


 この数ヵ月で、達人クラスの動きを身に着けられるとは思えない。この世界に来てからの期間が長い? 特訓や実践を繰り返した? 経験の要らない可能性……。

 エルフさんの剣が、怖い音を鳴らして歌川を襲っているが、当たらない。

 ここで一度、エルフさんが剣を止めた。


「……まるで我の剣筋を知っていると言わんばかりの動きだな」


「まあ、実際知っているんでね」


「エルフ族の裏切り者かいるのか……」


 歌川は笑うだけだった。

 これは、時間稼ぎか? 陽動? 周囲を警戒するけど、なにも来ない。

 なにかがおかしい。


 ここで、歌川と視線が合った。


「向後も、良くここまで生き延びたけどさ、俺と当たっちゃうと終わりなわけよ。まあ、残念ということで諦めてくれ」


「お前の技能スキルもしくは、魔法はなんだ?」


「さ・い・きょ・うの技能スキルだよ。絶対に負けないスキル。想像してみ? 漫画や小説では定番のスキルだぜ?」


 ここで、背後より弓矢が歌川を襲った。

 だけど、それも躱されて弓矢が樹木に突き刺さる。

 歌川の動きの不自然さはなんだ?

 まるで何時来るのか知っているかのようだ。

 ここで歌川が短剣を二本取り出した。毒液がたっぷりと塗られている。


『あれは、カミキリムシの毒だよな』


 今のところ死傷者は出ていない。だけど、ここから先は、一方的に蹂躙されると思う。今は遊ばれていて、歌川が本気になったら終わりの可能性がある……。

 ダメだな。エルフ達には任せられない。

 一歩前に出る。


「お? 向後が相手してくれるの? タイマンは初めてじゃね?」


「拘束させて貰う……。その後、色々と聞きたいことがあるんでね」


「あはは。いいね、その殺気だだ洩れ感。今回は数ヵ月でそこまで辿り着いたんだ。

 俺は、この世界のこと色々と知っちゃってるからさ。負けたら教えてやんよ」



 ……俺は、両手の魔法陣を展開した。

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