第58話 エルフとの交渉5

 一晩泊まり、次の日からエルフ族の手伝いとなった。

 食事は肉のみ、鹿肉みたいだ。朝からステーキはキツイが、全て食べた。

 エルフ族なりのもてなしなのだと思う。食べ物が異なるので分かんないんだろうな……。

 糖質や炭水化物が欲しい。今度、芋でも探そう。


 朝食が済んだら、馬に乗って移動となった。

 エルフの飼育している馬は、とても乗りやすい。大人しい性格みたいだ。

 毛並みも美しいし、とても良い品種だな。数匹譲って貰って、開拓村で繁殖させられれば、特産品にもなる。一匹飼育していて、食性も分かっているので、飼育は可能だ。全て終わったら交渉してみようかな。


 そのまま馬で走って、一時間と言ったところだろうか。

 木の生えていない裸山に辿り着いた。


「ここですか?」


「うむ。ここで、採掘をお願いしたい」


 一緒に着いて来てくれたのは、エルフさん。

 俺が唯一名前を付けた人だ。これからは俺の案内役になるみたいだ。

 馬から降りる。

 馬の手綱を木に縛り、入り口に案内さ入れた。

 洞窟みたいだな。いや、これが坑道なのかもしれない。


「ここになにがあるのですか?」


「魔力を大量に吸った石が眠っている。魔晶石だ。その採掘に手間取っていてね。その手伝いをお願いしたい」


 あ……、忘れていた。魔晶石か。

 だけど、これで分かるかもしれない。

 懐中電灯もどきに灯りを点して、洞窟に入る。

 洞窟内は、階段状になっていて、下へと続いている。

 崩落が起きないように、木で支えてもある。

 壁面を触ると岩だった。

 その部分から、埃が舞い上がる。

 俺は、口と鼻を布で覆った。

 エルフさんは、平気みたいだ。体の構造が違うのかもしれない。

 そんなことを考えていると、最奥に着いたらしい。

 数人のエルフ族が、岩を削っていた。


「……魔法で削るのですね」


 多分、風魔法になると思う。

 少しずつだけど、岩を削っていた。

 まあ、のみと槌よりは、速く削れるのだろうけど。

 ここで、足元の小石を拾う。蒼い色をしている結晶……。

 俺の魔力に共鳴している。


「これが、魔晶石ですか?」


「うむ。魔力の元になるものだ。ただし、直接は摂取できない」


「どう扱うのですか?」


「基本は、動植物を経由して摂取する。

 だが、大気中にも含まれているので、我々は自然と摂取していることになる。

 摂取後は、体内で魔力に変換されるのだ。それは、君も感じているはずだ。

 特殊な使い方だと、魔法陣を組みその上で魔力に還元したりするが、その後、その土地は魔力が枯れる現象が発生する」


 鉄分とかカルシウムと同じと考えよう。

 でも、この言葉には違和感を感じるな。


「この地に魔法陣を築いて魔法を発動させてみては? あの害虫を寄せ付けない魔法を構築すれば……」


「……それでは、一時しのぎにしかならない。それに、"その後"が誰も土地を制御できなくなる。最悪、土地が死ぬ可能性もある」


 疑問が残るけど、実演は無理そうだな。

 それと、『土地が死ぬ』か……。召喚魔法陣のあった廃墟を思い出す。あれが、死んだ土地であった場合……。魔晶石を使う魔方陣は、制御できないのかもしれない。


 思索を止めて、顔を上げる。今すべき事を行おう。

 壁面を見ると、蒼い結晶が岩と岩のすき間から生えている。

 これを掘るのか……。


「大きさとかありますか? 粉々にしてもいい?」


「ああ、大きさは問わない」


 俺は右手の魔法陣を展開した。

 崩落の危険もあるので、また三角形がいいと思う。


「そういえば今は、どのくらい"収納"できるんだろう……」


 とりあえず、大雑把に範囲指定してみた。



 ──パラパラ、ミシ……


「……ちょっと、危なかったかな。亀裂が入りましたね」


 目の前にバカでかい空間が広がってしまった。

 底辺と高さが10メートルくらいであり、奥行きは見えない。

 ここまで魔力が上がっていたのか。

 いや、魔晶石が関係しているかもしれないな。この洞窟内であれば、誰でも魔法が強化されるのかもしれない。

 エルフ達を見ると、唖然としていた。カタカタと震えている人もいる。


「とりあえず、出ましょうか。外で"開放"しますので、確認してください」





 外に出て、"収納"の中身を確認すると、魔結晶と岩、各種金属が表示された。

 ここは、鉱脈でもあるみたいだ。


「エルフさん。魔結晶が1000キログラムくらい確保できました。もっと必要ですか? ここで出しますか? 運ぶのも面倒だと思うのですけど……」


「……いや、十分すぎる量だ。解放場所は、こちらで指定させて貰いたい」


「それでは、皆で戻りましょうか」


 ちょっと、嫌みっぽかったかな?


 移動中に、この土地の話を聞けた。

 まず、先ほどの場所は、〈魔晶石溜まり〉と呼ばれているらしい。

 まあ、そのままだな。

 本来地面から湧き出て来る、魔晶石が地形的な理由で放出されずに溜まったのだそうだ。

 あの結晶は、生物の死骸が集まって、できていると考えられているらしい。

 前の世界の、石油や石炭みたいなモノなんだと思う。


 それと、カミキリムシについて聞いてみた。

 この森にいたことはいたらしいが、最近になって大繁殖しているらしい。

 違和感を感じる。いや、違和感しか感じない……。

 駆除はいいと思う。



 だけど、その先に起こると思われる事……。準備だけはしておこう。

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