第57話 エルフとの交渉4

 今俺は、エルフの長老宅で、長老が来るのを待っている。

 その間は暇なので、色々と観察を行っていた。

 まず、エルフ族の観察からだ。

 切れ長の目に、長い耳。これは、俺の前の世界の知識と同じた。

 そして、エルフの里に着いてから若い人しか見当たらない。

 ファンタジーの定番だけど、本当に老けないのかもしれないな。

 エルフさんは、数百歳だったりして。

 エルフは、人間の上位互換なのかもしれない。


 人類の最終的な目的……。肉体を捨てて魂を昇華させるだったかな?

 エルフ族というのは、一段階進化した人類の姿なのかもしれない。

 いや、起源が人族とは異なる可能性もあるか……。

 それに、上位互換と判断するのは早計だな。

 食事や睡眠、生活様式を知ってからでないと、必ずしも優れているとは判断できないと思う。


 次に、建物を見る。

 ほとんどの家具は、木材で加工した物を使用している。

 家は、木をくり抜いた空間を使用している感じだ。

 多分だけど、魔法を使って木を変形させたのだと思う。

 自然と共存していると言いたいのだけど、金属加工製品やガラス等も見られる。

 それなりに文明は発達していそうだな。


 ここで、ドアが開かれた。

 立ち上がって出迎える。


『凄い装飾品の数だな……』


 かなり豪華に着飾ったエルフが現れた。

 王冠に、いくつものピアス。胸が隠れるほどのネックレス。

 金糸が刺繍された衣装。そして、大きな宝石の付いた杖……。


「エルフの長になる」


「トールと言います」


 一礼する。

 席に着くように促されたので座ると、部屋にいたエルフが全員席に着いた。

 計5名だ。 この5人が、この里を取り仕切っているのだと思う。


「さて、なにから話せばいいか……」


 エルフの長は、困惑気味だな。

 前回人族と交渉した事があるのならば、100年以上前になるはずだ。

 まあいい。俺も長い期間滞在する気はないし、本題から入ろう。


「まず、食糧難と聞きました。その原因を取り除けば、人族と和平を結んで貰えると聞いたので来る事にしました。果物でしたよね? その栽培現場を見せて貰えないでしょうか?」


 ザワザワし始めた。


「ふむ……。簡単ではないのだが……。まあ、見て貰った方が早いか」


 エルフの長がそう言うと、果物が俺の前に置かれた。


「これは……、林檎か桃? 触ってもいいですか?」


「ああ、調べてみてくれてかまわない。ただし、食べるのは勧めない」


 見たことのない果物が出て来た。前の世界にはなかった物だと思う。

 とりあえず、手触りを確認する。

 少し硬めの果肉……、甘い香りがする。

 無条件で食べるのは、少し躊躇いがあるな。

 まだ、エルフ族を信用できていないし。

 右手の魔法陣を展開して半分を"収納"してみた。

 俺の魔法を見て、驚くエルフ達……。もう、手品になっている。


 収納魔法の中で、エルフと果物を"合成"させる。

 すると、エルフの皮膚が爛れ出した……。


「これ、食べられるのですか?」


「……食べられなくなったのだよ。だが、これが主食でもあった」


 ……変質したのかな?

 果肉に触れてみると、ピリピリと皮膚が痛んだ。酸性みたいだ。


『毒……になるのかな? 毒のみの分離も可能だけど、今は見せないでおこう。

 余り手の内を晒すのは良くない。俺の収納魔法は、その特殊性が強みだ。

 〈何ができるかが分からない〉という状態を維持しておきたい。

 しかし、〈食べられなくなった〉……か』


 俺は、半分になった果物をテーブルに置いた。





 その後、栽培場所まで案内して貰う。


「見事な果樹園ですね。しかも冬なのに実が成っている」


 開拓村で捕まえたエルフは、『実らなかった』と言ったけど、実際は実っている。嘘は言っていないと思う……。そうなると、冬の間に実った?

 いや、食べられない実が成ったので、『実らなかった』になるのかな。


「ありがとう。約100年かけてここまで作り上げたのだ。だが、去年から異変が起き始めたのだよ」


 エルフの長がそう言うと、他のエルフがなにかを持って来た。

 その手に握られた物を覗き込む。籠の中に何かが入っている。


「……昆虫? カミキリムシ?」


 気持ち悪い。俺は、昆虫は苦手だ。


「知識はあるのだね。この生物がこの森林一帯に大繁殖してしまってね……。

 実に毒が混ざる様になってしまった。

 毒の除去方法は、未だ見つかっていない。

 我々は、生きるために毒の果実を食べている状況なのだ。

 だが、もうすぐ限界も訪れよう……」


 俺への依頼は、害虫駆除か?

 だけど、岩を削った事と繋がらない。

 何を求められているのだろう?


「俺に害虫駆除は、できそうにないのですが……」


「この昆虫の嫌がる物質を発見してね。それの採掘をお願いしたい」


 ふむ? そういうことか。だけど、疑問もあるな。


「この森林一帯に大繁殖しているのですよね? 一斉駆除は可能なのですか?」


「……そこまではできないと考えている。

 とりあえず、目先として我々の果樹園だけでも保護できればと思っている。

 そうすれば、最終的に森から駆除もできるであろう」


 余りいい方法ではないと思う。

 だけど、この昆虫が取り付く樹木が決まっているのなら、駆除も可能とも取れる。

 そして、言葉からの推測だけど、かなり追い詰められている事が分かる。


「その間は、なにを食べるのですか?」


 俺がそう言うと、また他のエルフが何かを差し出して来た。


「……海藻ですか?」


「うむ……。我々は食べられるが、好んでは食べない。

 飢えを凌ぐために、どうにかこうにか加工して食べている」


 かなり、追い詰められた状況なんだな。

 果物と海藻では、栄養分も違うだろうに……。

 開拓村で捕まえたエルフは、無理に食べていたのかもしれないな。

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