第47話 召喚魔方陣3

 馬車から降りて、獣道を進む。

 馬の手綱を握り、馬と平行に歩いた。

 草は芽吹いたばかりみたいで、そう邪魔じゃない。

 ただし、ぬかるんでいるので、ゆっくりと歩く。

 そして、それが見えた。


「本当に放棄された都市なんだな……」


 山を一つ越えた先に、廃墟があった。

 建物が崩れている。雑草も生い茂っている。

 だけど、人が住んで来た形跡が残されていた。


 歩を進ませて、廃墟に降り立つ。

 静けさが支配した土地だった。

 野生生物の鳴き声もしない……。

 俺の足音と馬車の音だけが響いている。


 整備すれば、住めなくはない……と思う。だけど、人族はこの土地を放棄したんだ。何か理由があるんだろうか?

 この地は高い山に囲まれていて、盆地になると思う。多分だけど、開拓村より降雪量も少ないと思う。俺ならば、この地の再開発を行うのだけど……。

 俺の悪い癖だな。余計な思考は置いておこう。


「……目的を終わらせてしまうか。どこかに魔法陣があるはずだ」


 観光に来たんじゃない。

 まあ、廃墟など見るところもない……。好きな人はいそうだけど。

 とりあえず、廃墟の中心部へと向かった。

 馬車が揺れる。道は、レンガ作りだけど、草に掘り返されて状態は良くない。

 スピードを出さなければ横転の危険はないけど、車輪が嵌ったら一苦労だな。

 しかし、違和感しかない。


「野生生物が住んでいてもおかしくないと思うけど、本当に気配を感じないな」


 まるで野生生物が、この土地から逃げている様だ。避けている?

 毒でも撒いたのかな……。

 建物の中を覗くが、蜘蛛一匹いなかった。埃が溜まっているだけ……。

 ネズミとかが大繁殖していてもおかしくないと思うのだけど。昆虫は、冬場なのでいないのかもしれないけど、死骸すらないのは、さすがにおかしい。

 道中で魔物は出たけど、この廃墟にはいない? そうなると、魔物は廃墟を取り囲むように住んでいる事になる? ……守っている?

 ……ありえるのか?

 警戒しながら、さらに廃墟の道を進む……。


 突然道が開けた。


「……八差路(八叉路)か」


 多差路に辿り着いた。この一角だけは、建物がない。

 周囲を見渡すと、道が一直線に伸びている。

 ここが、街の中心なのだと思う。

 だけど、肝心の魔法陣が見つからない。


「今来た道以外に7本の道がある。……城跡みたいなところに行ってみるか」


 一方向だけ、丘に繋がっており、そこには崩れた大きな建物の跡があった。

 多分、城跡だと思う。

 まあ、何もなければここに戻って来て他の道を進めばいい。

 考えるだけ時間の無駄だと思う。今は、足で情報を得るしかない。

 俺は、丘に向かって歩を進めた。





 音を拾った……。

 そちらを向く。とても小さい音だったけど、何かがいる……。

 ここで視線に気が付く。監視されている?

 まさか、こんなところで襲って来るのか?

 今の状況では、馬や馬車を壊されるとアウトだ。

 直せると分かったら、更に対応されるだろう。

 それよりも、人であるなら話を聞きたい。この廃墟の違和感の理由が知りたい。


「……」


 少し考えて、止まる事にした。

 俺に気づかれていると教えるためだ。

 周囲を見渡す。視線は、一つだと思う。だけど、こいつは素人くさいな。

 達人が隠れていた場合は、俺はまだ察知できていないと思う。

 囮の可能性……。

 この世界には、魔法や技能スキルが存在する。

 それに依存していない相手……。盗賊の類ではない?


 しばらくすると、相手が姿を現した。



 ボロボロの服……。それと短剣を握っているけど、錆びている。

 髪もボサボサの若い女性が、姿を現したのだ。

 歳は、15歳前後かな。俺とそれほど変わらない。

 推測するに、街から逃げて来たんだと思う。

 とりあえず、話しかけてみるか。

 この世界は、統一言語なのだから人族であれば通じるはずだ。


「こんにちは。ここは、100年前に放棄された街で合っていますか?

 召喚の魔法陣があれば見せて欲しいのですが。

 魔法陣の調査に来たのですけど、案内して貰えないでしょうか?」


 回答はない……。

 一定の距離を保って、睨まれている。

 それと、短剣の握り方が素人だな。エレナさんとは違い、この女性は、戦闘はできなさそうだ。


「……帰って」


 俺が思案していると、回答が来た。

 しかし簡素だな。取り付く島もない。


「……何か欲しい物はありますか?」


 女性が一瞬、ピクンと反応する。

 だけど、すぐに冷静さを取り戻した。

 そして、無言の状態が続く。


 俺は、馬車より携帯食と飲み物を二人分取り出した。一食分を足元に置いて、十歩ほど下がり座る。馬も馬車を引きながらUターンを簡単に行ってくれた。賢い馬だな。

 そして、飲料水を一口飲む。



 数秒の沈黙の後、彼女が携帯食に駆け寄り、食べ始めた。

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