第43話 実験_新しい技能1

 アナスタシアさんは帰って行った。

 とても大きな爆弾を残して……。


 掌の指輪を見る。

 それをエレナさんが覗き込んで来た。


「どんな効果が生まれるのですかね? 何時試すのですか?」


 返却しようと思っているのだけど……。

 国宝級の装飾品を持ち歩けるわけがないじゃないですか。


「危なくて持ち歩けませんよ? 仕舞っておきます」


 その場にいた全員が、困惑の表情を浮かべた。

 なにか間違ったことでも言ったのかな?

 俺が勘違いしている?


「トールさん。空間魔法使いは希少ですよ?

 それに、国王陛下からの恩賜の品なのです。

 盗んだり、使ったりしたら足が付きますよね?

 実質的に、トールさん以外に使える人がいない指輪と考えてください」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 この国にいるのであれば、俺以外に使える人はいなくなるのか……。

 俺は指輪をはめた。

 頭にあの声が響く。


『外部補正により、〈条件〉が強化されます。収納時の〈取捨選択〉が可能となりました』


 感覚で分かる。レベルが一つ上がった感じだ。

 いや、新しいスキルに目覚めた感じかもしれない。


「これは……、便利だな。流石、国王陛下からの恩賜の品だ」


「なにか変化がありました?」


 説明するより、実演した方が早いな。

 さて、なにを"収納"するかな……。

 少し迷って、家畜の豚を選んでみた。


「実演してみますね」


 俺はの魔法陣を展開する。

 今までであれば、豚をそのまま"収納"して、"解放"時にスプラッターにしてしまっていたと思う。

 たけど、今ならそれが回避できる。


 俺は、を"収納"した。

 豚は、皮下脂肪を失って痩せてしまった。余った皮膚が、垂れている。しかも痛みもないようだ。

 以前であれば、左手の魔法陣で〈痛み〉を"収納"する必要もあったのだけど、もうそれすら不要みたいだ。

 いや、外科手術の真似事は、皮膚のみしかできなかった。これからは、簡単に体内の癌の除去なども可能となるんだろうな。

 一人で納得していたのだけど、周りを見ると全員が困惑気味だ。理解が追いついていないみたいだ。説明が必要だな。

 俺は、空の壺に豚の脂肪……、ラードを"解放"した。


「油として使ってください。もしくは灰汁と混ぜて石鹸を作ってもいいかな」


「トールさん。説明してください」


 一人で納得していたら、エレナさんから説明を求められる。


「"収納"時に、細かい指定ができるようになりました。

 今は、〈豚の脂肪だけ〉を〈条件〉に設定しました。見た通りなのですが、生命活動に影響は出ないみたいですね。皮膚にも影響が出ていないので外傷も出ないみたいです。

 これで選択肢が、かなり増えましたよ。

 また、検証しなければならない事が増えましたね」


 豚は、何事もないように餌を食べている。皮膚の除去など、かなりの痛みを伴ったのだけど、この指輪はそれすら自動で補正してくれるのかもしれない。

 それと可哀相だけど、脂肪を戻すことはしなかった。寒そうに震えているな……。

 今日の晩御飯になって貰おう。


「生き物を傷つけずに特定部位だけを"収納"できるのですか? 体内であっても?」


 俺は、頷いた。理解が速くて助かるな。


「そうなります。心臓とか、肝臓とかを取ってしまうと死んでしまうでしょうけど、癌とかであれば、完治できるでしょう。ウィルスとか微生物もいいかな。

 もしかするとこの指輪は、俺の"開放"時に壊してしまう特性を補ってくれる裏技を持っているのかもしれません。これから、色々と試してみます」


 アナスタシアさんは、容量2倍と言っていたけど、俺の場合は、〈性能の向上〉になると思う。本当に国宝級のアイテムを貰えたんだな。


「凄すぎませんか? 本当に収納魔法ですか?」


「『収納』という言葉からかけ離れて来ましたね。

 物質の選定を行える収納魔法とでも言いましょうか……。

 欲しい物だけを"収納"して、要らない部分はそのままの形を保つ……。

 海水から塩だけ分離するとか、楽にできるようになったでしょうね。

 後は……、俺の発想力次第ですかね」


 エレナさんは、絶句しているよ。いや、全員か……。


「まあ、〈概念〉を"収納"できるようになってからは、壊れ方にも磨きがかかって来たと言うか……」


 ヴォイド様が笑い出した。


「あはは。面白い表現の仕方だね。『壊れ方』か。

 私にしてみれば、『なんでも』や『いくらでも』より、トールの『壊れた』収納魔法のほうが、よっぽど怖いよ。もはや、何でもありだな」


 ……俺もそう思う。

 俺の、壊れた収納魔法は、最終的になにを収納できるんだろうか……。

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