第42話 本物の空間収納使い2

「スミス家の存続は、確約してくれるのですよね?」


 ヴォイド様も余裕がなさそうだ。

 再度の直球の質問だ。


「はい。先々代の決めた法律に則り、ダニエル様のひ孫の代まで存続を認めると宣言なされました。これで、五家目となります」


 この言葉を聞いて、ヴォイド様が安堵の表情を浮かべた。

 話を聞くと、親・子・孫の世代で功績が残せない場合は、財産の没収が始まるのだとか。

 王族や貴族としての地位も剥奪されるみたいだ。

 特権階級であっても、仕事をしない家は潰れるのか……。

 資本主義経済に移行し始めているのかな。

 それと、100年前に戦争があり、土地を奪われたと言っていた。

 今は、国として苦しい時期なんだろう。飢饉も聞いた覚えがあるし。

 しかし、それで他家の足を引っ張っているのだからどうしようもない。

 下手をすると、国がなくなりそうなもんなのだけど……。


「それで、アナスタシア殿はトールをどうなされるおつもりですか?」


 なんの話だ? 俺には、褒美を与えに来ただけじゃないのか? アナスタシアさんを見ると、目が合った。


「……今王都では、亜人に奪われた土地を奪還しようと画策している家があります。

 有能な転移者を多く呼べたので、実施されるでしょう。

 また、追いつめられている家も多くあります。そのことをお伝えに来ました」


 ……戦争でもするのか?


「トールは有能な人材ですが、戦争で活躍できるとは思えないですね」


「他家から誘いは来ると思います。

 それに、オークを2匹倒しているとも伝わっています。

 高額な報酬を用意されており、勧誘も多く来るでしょう」


 俺は、そんなに有名なのか?

 確かに、治水工事など大規模事業だ。それを、ほぼ一人で行ってしまった。

 設営程度であれば、手伝えなくもないけど、数千人規模での工事が行われるのであれば、俺は不要になるはずだ。

 俺からも質問してみるか。


「……その戦争は何時頃行われるのですか?」


「予定では、春になってから……、数十日後に出発の予定です」


「なら、それまで開拓村にいれば問題ないですよね?」


「……多分ですが、今回の侵攻作戦は失敗します。国王陛下は、その先を見据えています」


 その先? 手元の箱を見ると、アナスタシアさんは頷いた。

 箱を開けてみる。箱の中は、金属の板と指輪が入っていた。


「身分証と、〈空間収納〉に作用する指輪になります。

 身分証の方は、男爵位程度の権限が与えられていると考えてください。

 それと、指輪なのですが……、宝物庫から厳選した物になります」


 男爵位? 空間収納に作用する?


「これは、どのような意図が含まれていますか?」


「男爵位に関しては、独立して貰いたいと考えています。

 いつまでも、スミス家に居座らずに、頭角を現して欲しいとの意向です。

 ダニエル様から騎士爵位として、スミス家の分家としたいとの話も出ましたが、国王陛下は独立を望まれています。

 開拓村と治水工事の進展は、国民に良い刺激を与えてくれました。特に塩ですね。現在は、配給制となっており、多少不足しています。低コストで大量に塩が作成できるのであれば、国民が喜ぶでしょう。

 指輪に関しては、単純なお礼と捉えてください。

 その指輪を使えば、トール殿の空間収納に干渉して、新しい技能が生まれるかもしれません」


「男爵位は……、面倒かもしれませんが受け取っておきます。

 資金面の援助を期待しています。ただ……、不要と判断したら返還させて頂きます。それと、指輪は分かりませんね……」


「国宝級の一品ですよ?」


 指輪を見る。不思議な光を放っていた。確かに俺の魔法と共鳴しているようだ。


「アナスタシアさんが使うと、どうなりますか?」


「……亜空間容量2倍ですかね」


 ふむ……。国宝級の恩賜の品か……。


「数ヵ月で、国王陛下がここまでお認めになるのは、初めてですよ?」


 顔を上げる。


「俺は……、そんなに有名なんですか?」


「それは、もちろん。王都ではとても名を馳せていますね。

 無理難題を課せられたスミス家を救った、異世界召喚者……。

 大規模工事を一人で行い、オークを撃退する膂力。

 怪我や病気と言った治療まで行ってしまう、既存の常識に捕らわれない魔法体系。

 そして、イケメンですが、常にスミス家の侍女を侍らせた、好漢」


「ちょっと待ってください。大分誇張されていませんか? それと最後のはなんですか?」


「うふふ。ヴォイド様からの報告書にあった内容です。他家が婚姻を結びたいと思っていたと考えてください。それを先手を打って止めてくれただけですよ」


 驚愕の表情で、ヴォイド様を見る。


「今トールが、王都に招集されて国王陛下に謁見できたとしよう。その後、社交界の場に出たら、女性が群がって来ていたという話だよ」


 そういえばそうだ。

 爵位の授与など、盛大なパーティーが開かれてもおかしくない。

 俺の性格を鑑みて、ダニエル様達が先手を打ってくれたんだろう。


「まあ、数年以内には国王陛下に謁見して貰うのは決まっていますけどね」


 俺が嫌な顔をすると、アナスタシアさんは笑顔を俺に向けて来た。

 それと、侍らせている侍女ってエレナさんだよな……。

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