第41話 本物の空間収納使い1

 今日も除雪作業だ。

 だけど、大分雪も減って来た。溶け始めてもいる。

 もう少しで、春だろう。

 そんな時だった。 物見やぐらで、ザレドさん達の話声が聞こえた。

 だけど、鐘は鳴っていない。

 危険とは判断しない何かを見つけたのだと推測する。


 ザレドさんが、物見やぐらから降りて来た。


「なにかあったのですか?」


「うむ……。開拓村に馬が近づいて来ている。人だとは思うのだが……。それと鎧を着ている」


「この時期に? まだ道には雪が残っていますよね?」


「もう通れないほどの積雪量はないだろう? 無理をすれば、馬に乗ってなら来れるよ。前回のトールみたいに、馬車で強引に来るのは無謀だがな」


 考える……。

 そこまでして、開拓村に来る理由だ。

 無理を強いてまで、開拓村に来る理由などないと思うんだけどな……。


「スミス家になにかあったかな? 考えられるのは、セリーヌ様関連なんだけど……」


「とりあえず、出迎えよう」


「俺は、治水工事していた時に襲われましたよ?」


「スミス家の敵対勢力か……。

 一人でこの開拓村を全滅させられるほどの人物が来たかもしれない……と。

 私としては、その確率は低いと思う」


 そんな話をしていると、馬に乗った人物が開拓村に入って来た。

 一応、門と跳ね橋みたいな物も作ったのだけど、無条件で下ろして招き入れてしまったのだ。

 身分証とか確認した方がいいと思うんだけどな……。


 ザレドさんと共に、その人物に会いに行く。

 その人物を見て、ふと気になった。

 荷物をほとんど持っていないのだ。食糧とかどうしたんだろう?

 雪から水を得るためにも燃料は必要だ。

 冬季の移動とは思えないほど、軽装だった。

 俺達が近づくと、馬が止まり、その人物が下馬した。

 その人物がフードを降ろし、顔を見せる。

 綺麗な女性だ。いかにも"騎士"といった感じだ。

 ザレドさんは、見惚れている。


『誰だろう? 知らない人だ』


 その人物が一礼したので、俺達も返す。


「アナスタシアと言います。王家の使用人です。トールという方に会いに来ました」


 俺に会いに来たのか……。

 一歩前に出る。


「俺が、トールです。どの様なご用件でしょうか?」


「ああ、警戒なさらずに。

 ダニエル・スミス様よりお話を伺い、国王陛下が喜ばれました。それで、褒美をお持ちいたしました」


 褒美? 国王陛下から?

 治水工事は、失敗と判断されて撤収したはずだ。

 明らかに不自然だよな。

 それに、身元は分からなかったけど、治水工事現場に騎馬隊まで来たんだ。

 あれが、王命であった場合……。


「そう、身構えなくても大丈夫ですよ。

 遠縁とはいえ、スミス家と国王陛下は親しくされていました。

 ですが、王族貴族が多過ぎるので各家に試練を与えたのです。

 達成できなければ、取り潰しもありえるという脅しも含めてですけど。

 そして、スミス家は、治水技術を確立させてその技術を王家に収めました。

 それも実演付きでです。

 それで、スミス家の存続が認められました。

 そのスミス家から、トール殿の話が出ましたので、私が遣わされました」


 話は分かる。でも引っかかるな……。『治水技術を確立させて』は、中州を作った事と捉えてもいいんだろうか?

 それと、家同士が争っているのも事実だ。

 スミス家がもう安全だと言う確証がないのだけど……。

 俺が考えていると、アナスタシアさんが、魔法陣を展開した。

 その魔法陣の中にアナスタシアさんが手を入れる……。

 驚いてしまう。魔法陣に入れた手がそこで途切れているからだ。

 空間魔法……。そう思える魔法だった。

 そこから、腕が伸びて来たと思うと箱が握られていた。


「それ……、収納魔法ですか?」


「収納魔法? 〈空間収納〉という技能スキルですよ? 私の場合は、亜空間に一定の質量を収めることができます」


 俺の収納魔法は、厳密には技能スキルではなかった。なので、自分勝手だけど〈収納魔法〉と呼んでいる。火魔法とか闇魔法と同列という意味だ。まあ、意味は通じるけど、理解はされないかな。


 彼女の技能スキルは使い勝手が良さそうに思える。正直うらやましい。

 ……多分、この人の持つ技能スキルが〈アタリ〉判定されるんだろうな。

 俺の収納魔法とは似ていて異なる技能スキルだ。いや、これがこの世界が認識している技能スキルなんだろうな。俺の収納魔法には手を入れられないし。

 そうか、普通は魔方陣の中に手を入れるのか……。一度でも見たことあれば、違いが分かりそうなもんなのに。あの時の〈日本語を話せる女性〉が、もう少し注意深く観察していれば、開拓村行きもなかったかもしれない。

 またアナスタシアさんは、戦争となれば、後方支援で大活躍だろうな……。


「こちらが、国王陛下より恩賜の品となります」


 いきなり俺の前に差し出されたので、両手で受け取ってしまった。礼儀とかいいのかな? 国王陛下からの品なので、式典とか言われても不思議じゃないのに。

 ここで、ヴォイド様が来た。

 経緯をザレドさんから話して貰う。

 そして、全員で長宅へ移動となった。





 挨拶をしてから、席に着く。

 そして、アナスタシアさんから、国王陛下のお心を伝えて貰った。

 だけど、ヴォイド様は関心がないようだ。


「セリーヌ姉様の作業員を襲うように指示をした者は、見つかりましたか?」


 いきなり、核心の質問から入ったな。賛辞よりも、姉が襲われた事の方が気になるらしい。


「……いえ、見つかりません。捕えられた者も金で雇われたゴロツキでした。なにも出てこないでしょう」


「隠ぺいなさると……」


「そうなります。ですが……、目星は付いております。

 国王陛下からその家に新たな労役が課せられました。ダニエル様もそれで落ち着かれました。

 それと、セリーヌ様の王家への輿入れが決まりました」


 ヴォイド様は、椅子の背もたれに寄りかかった。

 少し困惑の表情を浮かべている……。思案しているのかな。用心深いというか、頭がキレるな。

 そして俺も、きな臭いと思う。

 正直まだ火は残っていそうだ。

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