第39話 実験_エンチャント

「なにか、魔法とか付与されている武具ってありますか? エンチャントってやつかな?」


 エレナさんに聞いたみたのだけど、絶句している。


「……エンチャント武器ですか? 高価なのですが……」


「作り出せるものですか?」


「う~ん。ダンジョン産の魔石を武器に組み込むか、魔剣と呼ばれるダンジョン産の武器が普通ですね」


 魔石と魔剣か……。知らない単語だ。それらは多分、魔法の付与なんだろうな。燃える剣とかなんだろう。

 俺の収納魔法では、魔法は"収納"できない。仮定の時点で作れないな。

 目的となる付与内容が異なる。

 そう簡単にはいかないか。

 だけど冬の間に、一定の結論を出したいというのが本音だ。


「ごちそうさまでした」


 朝食を食べ終わり、一人で自分のあばら家に戻る。

 最近は、エレナさんは侍女の仕事が忙しいらしい。俺への監視もゆるくなっている。

 自分のあばら家に戻って考える。


「身体強化のバフ効果や、麻痺などのデバフ効果がいいよな……」


 だけど、それも魔法による効果だな。

 俺とは相性が悪い。


「もう一つの希望は、自動修復なんだけど……」


 ザレドさんの剣を修理した時の希望だ。

 だけど、イメージがわかない。

 寝床で横になり、"収納"の中身を確認する。


『土砂:1,000,000キログラム、沼:1,000,000キログラム、川の水:200,000リットル、雪:100,000リットル、熱量:90,000キロジュール、生命エネルギー:20,000カロリー、オーク:2匹、痛み:1001ヶ所、傷:572ヶ所、記憶:10個、酒(ワイン):200リットル、スケルトン:95体、リビングアーマー:89体、折れた剣:105本、壊れた盾:48枚』


「スケルトンとリビングアーマーが邪魔だな~……」


 多分、日光の下に"開放"すれば、消滅させられるとも思う。ガラクタになった金属と骨を残して。

 だけど、〈念動力〉のような付与もできたんだ。

 安易に捨てるのは、下策だと思う。


「容量も、種類により変わるしな……」


 液体と土砂では、入るところが異なると思う。"上限"が異なるのだし。

 俺は思考を続けた。





 夜になり、夕食を摂る。

 その後に、ザレドさんとエレナさんに手伝って貰うことにした。


「なにをするのですか?」


「スケルトンを一体"開放"します。粉々で出て来るでしょうけど、暴れ出したら倒してください」


 二人は驚いている。

 俺は、構わずにスケルトンを"開放"した。


「……予想通り、粉々ですが、死なないのですね。いや、アンデッドを生きていると表現するのもおかしな話なのですが……」


 スケルトンは、骨を繋ぎ合わせて、骨折を修復し始めた。

 俺は、それを黙って見ている。


「……これをどうするのだ?」


「スケルトンは、どうして修復できると思いますか?」


「……魔力だろう、もしくは瘴気とかか? 材料さえあれば、復活するのではないか?」


 そういうもんなのかな……。

 最終的に、スケルトンは、片手片足が短い歪な姿となって立ち上がった。

 とても動き辛そうだ。

 ここで、晩御飯で出た骨を与えてみた。


「ふむ……。骨であれば、吸収できるのか」


 スケルトンは、足りない部位に家畜の骨を溶かすように吸収していた。

 この分であれば、欠損したスケルトン数体で、完全なスケルトン一体を作ることも可能だと思う。


「トールさん。どうするのですか?」


 そろそろ、襲って来そうだな。観察も限界かもしれない。


「倒して貰えますか?」


 俺がそう言うと、ザレドさんの剣が舞った。

 スケルトンが、真っ二つになる。エレナさんは、蠢いている部位を叩き潰している。

 最後にスケルトンの魔力が霧散したのが分かった。


「ありがとうございました。少しだけ理解できました」


 ザレドさんとエレナさんが顔を合わせて、首を横に振った。





 試作品が完成した。

 新品の剣に〈自動修復〉が付与された、魔法剣と言ったところかな。

 刃こぼれしても、魔力と材料さえあれば、元の形状に戻る。不滅の剣と言える。


「凄い物を作ったね……」


 一度、剣を折ってから元に戻す実演を行ってみた。

 それを見た、ヴォイド様の感想だ。


「これであれば、90本くらい作れます。雪解け後に売りに行けば、それなりに稼げると思います。王家への献上として功績にしてもいいですね」


「そうか……、でも新品の剣は90本もないぞ?」


 それもそうか。この開拓村にはそんなに武器はない。

 その後、新品の農具に〈自動修復〉の付与を行った。

 それと、ザレドさんの愛剣にもだ。


「スケルトンの〈自動修復〉とリビングアーマーの〈念動力〉か……。技能スキルではなくて、特性になるのかな? この辺には、屍犬もいるみたいなので、捕まえて調べてみたいですね。思いがけない物ができ上がりそうだ。

 それと、俺の"合成"はこのエンチャントが完成形かもしれませんね。もし、〈業物の新品の剣〉を購入されることがあれば、連絡をください。〈国宝級〉に変えてみせますよ」


 俺の言葉に、その場にいた全員が唖然とした。

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