第38話 実験_呪い
「助けてくれ~!」
突然、開拓村に悲鳴が響き渡った。
俺はその場に向かう。
数人の人の輪ができているのが見えた。
一人顔色が悪く、意識もないようだ。その人が地面に寝かされていた。
「なにがあったのですか?」
「屍犬だ……。昼間なのに出やがった。こいつが、噛まれてしまった」
グールになるのかな? 犬型のグール?
ここで、テトラさんが来た。
倒れている人を取り囲んでいる人の輪を崩して招き入れる。テトラさんに診て貰おう。
「……〈病気〉ではないですね。〈呪い〉の類になります」
村民達が崩れ落ちる。
俺だけが、理解できない。〈呪い〉って何だろう?
「〈呪い〉は治療できないのですか?」
「……光魔法や、聖水があれば、解呪も可能ですが。この開拓村では、手段がありません」
良く分らないな。
光魔法に、聖水か……。
「聖水ですが、ヴォイド様は持っていないのですか?」
テトラさんが、首を横に振る。
「教会が独占しています。高価な品なのです。それに、保存できる物でもないし……」
なんとなく、状況は理解できた。
目の前の人を見る。
息が荒くなっており、顔色も悪くなって行く一方だ。
「このまま放置すると、グールになります……」
テトラさんが、治療用の刃物を握った。
「ちょっと待ってください!」
慌てて止める。
そうか、〈病気〉と〈呪い〉の違いが分かった気がする。
死ねなくなるんだな……。
左手の魔法陣を起動させる。条件をどうするか……。"概念"として〈呪い〉は"収納"できるのか否か。
ウイルスみたいな微生物が、全身を回っている場合は、右手になるけど、微生物だけを"収納"とかできるんだろうか?
「なにをするつもりですか?」
今度は、テトラさんが俺を制止して来た。
「〈呪い〉の詳細について教えて貰えますか? 魔法であれば、俺には対応できないのでここで止めます」
「怨念は分かりますか? 強い思いが原動力になります。ウィルスみたいな微生物とは異なります。
冬の前まで生きていた人は、光魔法の所持者だったのですが、怨念に負けて亡くなってしまいました」
テトラさんも、異世界召喚者なんだな……。
そして、貴重な光魔法の所持者を亡くしてしまっていたのか。
しかし、〈怨念〉か……。
「良かった、魔法や微生物ではないのですね」
「え?」
俺は、左手の魔法陣で患者を触った。
◇
呪われてしまった人は、今は村長宅で寝ているのだそうだ。数日間、治療を受ければ動けるようになるとのこと。
それはいいんだけど……。
「困った問題が起きてしまったな……」
俺の"収納"の中に、〈呪い〉が入っているのだけど、持っているだけで魔力をガンガン消費して行く。
早急に"開放"しなければならない。
一番いいのが、屍犬や魔物を見つけることだけど、そう簡単に出会えるものでもない。
しかも、もうすぐ夕暮れだ。
雪の降り積もった森で、夜中に魔物になど会いたくない。
「さて、どうするか……。家畜かな~」
このまま、魔力切れを起こした場合、最悪な予想として"開放"すらできなくなる可能性がある。
そうなると、俺は収納魔法を失うことなるんだろうな。
それは避けたい。
「なにを呪うか……か」
ここで、考えを切り替える。
そもそも、屍犬は生物ではないはずだ。生き物ではないと思う。元々は生きていたはずだけど。
そうなると、〈呪い〉は、物質に付与することができる?
ちょっとした、発想の転換であった。
「呪いの装備……」
前の世界のゲーム知識を思い出す。時間は余りない。試してみようか。
俺は、村長宅に向かった。
執事のハリソンさんに事情を話し、予備の剣を貰った。
剣は鞘に納められている。その状態で、〈呪い〉を付与してみた……。
「俺の"収納"から〈呪い〉が消えた……」
どうやら成功したみたいだ。
そして、〈呪い〉と〈病気〉の違いが理解できた。
この剣は、引き抜くと〈呪い〉が発動するんだろう。装備者をグールにするのかな?
ヴォイド様に報告して、剣が抜けないように厳重に封印を施した。
使い道はなさそうだけど、誰かが有効な活用方法を見つけてくれるかもしれないということで、王都へ送ることになる。研究材料として欲する人もいるらしい。
まあ、あんな物を好き好んで買う人もいないと思う。
それよりも俺は、一つの可能性に辿り着いていた。
「俺の収納魔法は、〈付与〉が可能なんだな。"合成"は、〈概念〉を収納しておけば、物質は収納しなくてもいいということが分かった。そうなると魔法の効果は無理としても、なにかバフ効果を与えられないだろうか……」
可能性が広がって行く。
俺の収納魔法の最大の利点だな。発想次第で色々なモノが作れる。
俺は、……笑った。
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