第34話 移動3
その日のディナーは、盛大なものとなった。
立食式のパーティーと言った感じだ。スミス家の庭に即席で作られたとは思えない、とても整った会場が突如として現れた。これだけでも、スミス家の人材がいかに優秀かが分かる。
ダニエル様の、長くもなく短くもないねぎらいの言葉を受けてから、パーティーが開始される。
作業者達が、料理に群がる。彼らは、皆涙を流して食べていた。
侍女……、この場合はメイドと言った方がいいかな? 給仕? 彼女達は、忙しく働いていた。エレナさんも給仕の仕事に勤しんでいる。
俺はと言うと、セリーヌ様に言い寄られていた。
ヴォイド様の開拓村が終わったら、またスミス家に残って欲しいとのことだけど、流石にその先は決めていない。
言葉を濁しながら、逃げている状況だった。
「セリーヌ。そう無理強いしても、逃げられるだけだぞ」
ダニエル様が、助け船を出してくれる。
それとエレナさんは、スミス家と長期間の契約を結んでいると言うことを教えて貰った。これが、俺を縛る一番の理由になると考えているらしい。
まあ、否定はできないのだけどね……。
時間が経つと、作業者達が寝始めてしまった。
久々のアルコールは、酔いが早かったらしい。侍女達が、毛布を掛けて行く。
ここで、コッソリとワイン一樽を"収納"した。宴会用の安酒だと思う。まあバレない事を祈ろう。これは、アルコール殺菌として使いたいと思ったのだ。
その後俺は、ダニエル様達に挨拶をして、貰った個室で休むことにした。
◇
日が昇った。物資を詰め込んだ馬車で、再度開拓村へ向かうことにする。
慌ただしいかもしれないが、俺がそう決めたのだ。
なんとなく、王都には長く留まりたくなかった。襲撃もあったし、身の危険を感じる。俺の収納魔法の解析を行いたい人がいるとかも聞いているし。
……俺の前の世界の知人がいる可能性も捨てきれない。だけど今は会いたくない。
馬車が動き出した。エレナさんを伴って、スミス家を後にする。
一応、ダニエル様達の見送りも貰った。
次に会うのは、ヴォイド様の開拓村で税が取れるようになってからかな。
そのまま、城門を出て開拓村への旅路へ着く。
「……寒いですね」
「雪の降る時期に、長距離移動をするのは、大変なのですよ? しかも開拓村は、豪雪地帯ですからね。今回の移動は、かなりの日数がかかると思ってください」
そうなんだ……。今、俺とエレナさんは、防寒着を着ている。
王都には、数日しか滞在しなかったのだけど、開拓村へ向かうとなると旅路は厳しくなるのかな……。
「ちょっと、無謀でした?」
「まあ、天候が悪化しないことを祈りましょう」
運次第か……。
◇
夜になり、馬車を止めて休む。馬は、森の中に繋いであげた。防風林となると思う。
俺達は、馬車の中で休む。一応索敵と言うことで、エレナさんの布魔法で馬車の周囲を覆った。
近づく者がいれば、すぐに察知できるのだそうだ。
それと、俺達は、馬車の中で荷物を退けて、寝袋で休むことにした。
若い綺麗な女性とこんな近くで寝るのは始めてだな……。かなりドキドキして来た。
『平常心だ……。今休まないと明日の移動に支障をきたす』
自分に言い聞かせて、衝動を抑える。
エレナさんは、何事もなく寝ている。俺だけが、意識し過ぎか……。寝よう。
数日が過ぎた。
毎日、干し肉と乾燥野菜だ。一応、〈熱量〉を加えて温めてから食べるようにもしている。
エレナさんの料理を食べたいと思ったけど、雪が降っており道が悪く移動は遅い。魔法で除雪できるといっても、天候次第ではほとんど進めない。馬の世話もしなければならないので、食事に時間を取られると、移動がままならないんだ。
馬車での二人旅というのは、色々と制約があるんだな。マンパワーが足りない。
冬場の移動は、準備を整えてからということが良く理解できた。
その日は、森で立ち往生となった。
吹雪といった天候だ。前も見えないほどの雪が降り続き、移動は困難と判断したからだ。ホワイトアウトと言うのかな?
する事もなかったので、焚火を作って暖をとる。防風林と馬車で風を防いで簡易的なキャンプ場とした。崖でもあれば、洞窟を作ったのだけど、今日は地形に恵まれなかった。
馬も焚火に近づいて来て暖を取り出した。飼葉も食べてくれている。
馬には、毛布をかけてあげた。この馬が倒れたら、移動が困難になってしまう。できる限り労う。
エレナさんは、鍋料理を作って入れくれた。こちらは、美味しく頂く。久々の手料理は嬉しいな。
その日は、吹雪が止まずに、このまま野営かなと思った時だった。
音を拾った。
「……なにあれ?」
「……アンデッド類ですね。スケルトンとリビングアーマーかな? デュラハンはいなさそうですね。
それと、グールがいないのは助かります。あれは……、匂うので」
「魔物ですよね? なんでそんなに冷静なのですか!?」
「まあ……、出ると思っていたので」
「教えておいてくださいよ!」
「えっ?」
えっ、じゃなくて!
状況としてまずくないか? 馬車は、動かせない。馬を外してしまったからだ。
しかも、今は夜で氷点下の温度で、灯りは焚火のみ。
アンデッドの数は不明。目視で10体だけど、まだわいて来そうだ。
エレナさんを見ると、馬車から片手用のメイスを2本取り出していた。今日はナイフではないみたいだ。
「さて……」
そう言って、エレナさんが馬車から飛び降りた。
そして、次々に破壊して行く。
俺は、馬を守った。収納魔法により、襲って来たアンデッドを"収納"して行く。"射出"にて魔方陣を連発して、中距離で仕留めて行く。少し考えて、地面に魔方陣を"設置"する事も覚えた。地雷系のトラップだ。
左手の魔法陣は、相手を理解していないと、ほぼ役に立たない。有効な〈概念〉も今は"収納"の中にはない。
アンデッドは、動きが遅く、俺達からすれば、雑魚と言えた。
朝日が昇るまで、断続的に襲撃は続いたけど、何とか撃退できた。
そして、朝日と共に吹雪も収まっていた。
「トールさん。地面に散らばっているアンデッドの残骸を"収納"してください」
金属の材料にするのであれば、いい素材になると思う。骨は……使い道があるのだろうか? まあ、持って帰ろう。
俺に反対意見はなかったので、片っ端から収納した。
その間に、エレナさんは馬に飼葉を与えており、馬車と連結させていた。
「出発しましょう」
エレナさんは慣れているな。
その後、馬車を移動させながら、朝食を頂く。
「アンデッドは、冬に出るのですか?」
「う~ん。季節や月の満ち欠けに影響しますね。でも、これから数日は出続けるでしょう」
……知らなかったとはいえ、急ぎ過ぎたかもしれない。
この世界の冬場の移動は、命掛けになりそうだ。
さて、除雪からだな。
◇
2022年ですね。
新年あけましておめでとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます