第22話 王都1

「王都……、ですか?」


 俺は困惑していた。

 オークの件で遅れていた、エレナさんからの王都での報告を聞いていたら、王都行きを命ぜられたからだ。

 また開拓村みたいなところに送られるのか? 左手の魔法陣発現前なので土木工事か?


「ヴォイド様の実姉様なのですが、王都近くで治水工事を行っています。その救援を要請されました」


 エレナさんが説明してくれた。

 ふむ……。実姉か。それと、治水工事?


「まあ、俺に拒否権はないと思うのですが、行かなくてもいいのですか?」


「私も手紙を見て驚いたよ。王宮でちょっとした騒ぎになっているみたいだ」


「騒ぎ? どんな? いや、この開拓村の情報が王都に届いている?」


「岩をくり抜いただろう? キャンプ場と言って三角形の洞窟を作った話だね。

 それを聞いた王族貴族から、君の身柄引き受けの申し出が多数来た。

 トールの収納魔法の有用性にようやく気が付いたらしいね」


 なぜ、情報が漏れているんだ?

 それと隠してはいなかったけど、王族貴族の耳に入る内容なのか?

 まあいい。話を進めよう。


「……その中から、ヴォイド様が決めたのですか?」


「うむ。姉様の工事も3年に及んでいてね……。

 川の氾濫が止められないのだよ。私としても他家に預けたくないしね。

 それと、詳しく調べたいと言う人もいるね」


「う~ん」


 ガリガリと頭を掻く。危険な匂いしかしないのだけど。


「トールの魔法は、"収納"ではなくて、"切削"もしくは"消滅"とみられているみたいだ。今までにない魔法体系と考えられているらしい」


 目立ち過ぎたか……。

 王族貴族に目を付けられたとなると、面倒だな。

 一生、工事現場で働かされる未来しか見えない。


「……そうだね。姉様の治水が完了したら、奴隷の身分から解放しようか」


「それは……、数年早まるだけですよね?」


「それでは、我がスミス家で君の身柄を引き受けよう。後見人だ。

 男爵位か騎士爵位くらいなら贈れると思う」


 ヴォイド様の家名は、"スミス"なんだな。そういえば、聞いていなかった。


「……そんなに困っているんですか?」


「私のスミス家は、国土開発を任されている。いや、命ぜられているかな。兄弟全員が、現場監督者だ。

 トールが来なければ、開拓村も止まっていただろうね。私も困っていただろう。

 盛り土だけでも数年はかかっていたと思う。

 スミス家としても、トールは手放せなくなったと考えて欲しい」


 国土開発ね……。

 魔法はあるけど、重機のない世界なんだ。

 オークション会場から見た街の風景は、中世そのままだった。

 高層ビルなどない世界。

 魔法がどれだけ発展しているかで、変わって来ると思う。開拓村には、魔法を扱える者が少なかった。盛り土の作成だけで驚かれたのも覚えている。

 前に「魔法は便利でね。労役をかけないと定住しない者が多くいた」と言っていた。オークを退けた今の俺は、この世界でどのくらいのレベルなんだろう? 王族が騒ぐのだから、上位には入っていると思うけど。

 そうなると、『魔法の体系』だ。この世界の『基本』を知りたい。


 それと、もう一つ。

 俺以外に異世界転移した奴がいるのかどうか……。

 俺は、『巻き込まれ異世界転移』と予想した。いるとすれば、友人以下の顔見知り程度なのだけど、存在の有無だけでも確認したい。

 前の世界に帰りたいとは思わないけど、召喚魔法については調べたいと思う。


 『俺がこの世界に呼ばれた理由』……。これだけは調べなければならない。

 寿命が尽きるまで、自由気ままに生きてもいいけど、神様の理不尽で片す気はない。

 そして勘だけど、何か理由があると思う……。


 俺が考え込んでいると、エレナさんが覗き込んで来た。


「うわ!?」


 顔が近いですよ!?


「……行きますよね?」


「拒否権はないので、行くしかないと思います」


「私も同行しますので安心してください。存分に魔法を披露して、功績を挙げてくださいね」


「え?」


「嫌なのですか?」


「ウレシイデス。ハイ」


 ヴォイド様は苦笑いだ。





 次の日に馬車での移動となった。エレナさんは、馬車で帰って来たのか。


「それでは行って来ます。海への道は、舗装が完了していませんので、通行する場合は注意してくださいね。水は雪を融かしてください。燃料となる薪は大量にあるので」


 本来であれば、水汲みなど重労働なはずだ。豪雪地帯なのだし、川との往復だけでも危険が伴う。去年は、他の街で過ごしていたらしいし。

 ヴォイド様が答える。


「うむ。待っている。頑張って来てくれ。開拓村は大分豊かになった。皆感謝しているよ」


 見送りを受けながら、エレナさんが御者となり、開拓村から出発した。

 俺は、エレナさんの隣に座る。


「王都で起きていることを教えて貰えませんか?」


「……スミス家は、計略に嵌って没落寸前なのです。それをトールさんが救った。

 他家が怪しんで来たので、何度か開拓村に視察が来たのですよ。

 それで、トールさんの情報が前々から出回っていました。

 単純な話ではないですか?」


「なるほど。視察か……。気が付きませんでした。魔法なのかな?

 そしてスミス家が没落寸前……。まあ、頑張ってみます」


「上手く行けば、婿養子になれますよ?」


 貴族になどなりたくない。俺の両親は、それぞれ事業を継いで家にも帰って来なかった。

 政略結婚などまっぴらごめんだ。

 俺の嫌な顔を見て、エレナさんが笑った。

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