第3話 検証1

 夜になり、牢屋のような部屋で過ごす。

 食事は、粗末なものだった。味も塩味だけだ。

 それと、桶とタオルが渡された。


「水は自分で汲みなさい」


 それだけ言って、日本語の話せる女性は出て行った。

 食事を無理やり口に詰め込み、体を拭いて、粗末なベットで休む。

 やっと自由時間だ。


「……さて、整理しよう」


 まず、学校で寝ていたのは覚えている。

 だけど理由もなく、いきなり『異世界転移』と言われても納得はできない。

 まあ、日本でないことは理解したけど……。

 それと、俺だけかと言われると疑問が残る。

 下手をすると、クラスメイト全員が、この世界に来ているのではないだろうか? 学校全員の可能性もある。

 接触がないように、隔離されている可能性が考えられる。


「有能な〈スキル〉持ちがいたんだろうな」


 俺の結論は、『巻き込まれ異世界転移』だ。

 俺は学校でも落ちこぼれだったので、俺だけが選ばれるとは思えない。

 クラス委員長とかが、有用なスキルを持っていそうだ。


「いや、考えすぎかな。あの水晶玉を触るまでは、スキルは分からなかった。

 隔離されている可能性もあるけど、俺だけという方が自然だろうか……」


 正直、どうでも良かった。

 前の世界に、俺の居場所はなかったからだ。

 親兄弟とは、とにかく合わなかった。喧嘩ばかりしていたな。

 俺の殴られた顔を見た教師が、児童相談所に連絡を入れてくれて、一時期擁護施設で過ごしたこともあった。

 その後、家族とは付かず離れず過ごす事になる。

 両親は、祖父母が決めた結婚だったらしい。夫婦仲は冷めていた。

 互いに仕事と言って、余り家には帰って来ない。俺は、家政婦に育てられたと言ってもいい。

 家は裕福だったので、高校生になり一人暮らしをしたいと言ったのだけど、反対された。

 俺は家事などできなかったからだ。家政婦の人からも反対された。

 まあ、学力はそれなりに高かったので、一番近い進学校へ。

 留年しない程度の成績で、無意味に過ごしていた。

 大学へ進学する気はなかったな。適当な会社に就職してあの家から出たかった。

 家は、できの良い兄が継げばいい。

 そんな、無感情で過ごしていたのだけど、いきなりの異世界転移だ。


「捜索願いくらいは、出されているよな……」


 世間体を気にする両親なのだ。面倒をかけているのかもしれない。

 だけど、戻りたいとも思えない。


 もう心が麻痺していると思う。

 友人もいない生活だったな。好き好んでボッチでいたと言った方がいいだろう。

 愛想を振りまく気力もなかった。

 そんな俺を見て、教師も関わって来なくなった。問題児とまでは行かなくても、目障りであったとは思う。

 何もしない問題児……、それが俺であったと思う。

 引き篭もりニートにはなる気はなかったけど、誰とも関わり合いたくなかった。

 教師から、「そんな態度では社会人となってから苦労するぞ」と言われたな。

 三者面談の時に、「……話さなくていい、工場勤務とかを希望します」と回答したら、親が「世間体を気にしなさい」と返して来た。親は大学への進学を希望して来たのだ。その後、一流企業に就職とか言う親は頭がどうかしていると思う。

 それに世間体と言うのであれば、自分達はなんなのだろうか……。



 そのまま、目を閉じる。


「流されるだけの人生……。俺は、この世界で変われるのかな……」


 昼間の俺のスキルを見た、あの人達の表情。

 とても嫌な者を見た表情だった。何時もあの視線を向けられるだけの人生だったな。


 俺は、そのまま眠りについた。





 次の日も、スキルの検証だ。

 言われた物を"収納"して、"開放"する。だけど、状態を保つことができなかった。

 肉は挽き肉に。剣などの金属は、金属片に。見た事もない硬そうな金属のインゴットすらも、粉々にしてしまった。

 極めつけは、酒だ。

 水とアルコール、その他の不純物に分かれてしまったのだ。

 ただし、純度100%のアルコールだ。使えなくはないと思ったのだけど……。


「もう、検証も無意味でしょう。明日、競売にかけます」


 日本語を話せる女性が、言い放った。

 最後に一つ検証をしたいのだけど……。

 一応聞いてみるか。


「……家畜を用意して貰えませんか?」


 俺の言葉を聞いた女性が通訳すると、全員が笑い出す。


「何を言うのかと思えば……。〈空間収納〉は、生き物を"収納"できないのですよ?

 何を考えたのかは分かりませんが、仮にできたとして、結果はスプラッターのような光景と決まっているでしょう?」


 生き物を収納できない……? そういう制約があるのか?

 疑問が残る。

 過去の人はできなかったと推測する。だが、俺ができない理由にはならない。

 その後、昨日の部屋に戻される。


 ベットに横になって考える。

 あの人達は分かっていなかった。


「肉を"開放"した時に、脂肪が分離されていた。そして、純度100%のアルコール……」


 ここで、頭に声が響いた。


『熟練度が一定に達しました。"開放"時に、"条件"を付与できるようになりました』


 感覚で分かる。

 俺は、を空に向けて、魔法陣を展開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る