第2話 どうしましょう
「うーん、どうしましょうか。私が行ってもいいのですが、面倒くさいですし。かといって、本人による規約への同意なしに強引に異世界へと送り出す行為は神界法違反ですし……うーん……」
神界にて、運命の女神――ミラ・ファートムは、昨日の一件を思い出しながら頭を抱えていた。
ふかふかのベッドにうつぶせになって友人から借りパクした漫画を読みつつ、スナック菓子を頬張りながら。
彼女なりに悩んでいた。
――あー、面倒くさいです。
ミラは、太陽系とはまた違った惑星系に位置する惑星世界の安寧維持を担当しているのだが……
ある事情によって現在、女神から天使への降格という危機に直面している。
「おーい! ミラ!」
今日もまた、野太い声の男神が、ミラの名を呼びながら部屋の扉をドンドンと叩く。
その音を聞くやいなや、ミラは漫画とスナック菓子を反射的に枕の下にかくす。
そしてベッドから飛び起き、スナック菓子の塩味がついた指をなめると、両手をアイロン代わりにシーツについたシワを大急ぎで伸ばす。
その時間、わずか五秒。手練の早業である。
「はーい、ただいまー」
言って、何事もなかったように扉の方へ向かう。
その声が聞こえると、ミラが扉を開けるのを待たずして、男神がせかせかと扉を開く。
開いた扉から大きな顔をのぞかせたのは、ミラの先輩神――男神アレス。
そのまま部屋中をなめるように見回す。
女神の部屋をそんなにジロジロと見ないで欲しいです、漫画を読んでいたことがバレてしまいはしないでしょうか、とミラは思う。
「よし、今日もサボっていないようだな」
今日もなんとかアレスの目をあざむけたと、ミラは胸をなで下ろす。
「はい。今日は早朝からずっと漫画なんて読まずに、どうケジメをつけるべきかと
「約束の期限が迫っているぞ。あと三日だ。分かっているか」
「はい。承知致しております。期限までには必ず私のケジメとしての回収プランと初動報告書を提出いたします。すでにいくつかの候補は用意できているのですが、現在はさらなる高みを目指してより良い策を案じておりますゆえ、今しばらくお待ちください」
――本当は一人の転移者、転生者すら見つけられていないのですが……。
まだ何ひとつとして良いアイデアが浮かんでいないなどとは、口がさけても言えない。
ましてベットに寝転んで漫画を読みながら考えていたなんてことはなおさらだ。
――ここはできる女神感を出しておいて、私の株を少しでもあげておきましょう。
――そうすることで、かつての怠けてばかりの私とは違うのですよと、アレス様にアピールしておくのです。
「ほう、いくつか……か。どれ、一つ聞かせてもらおうか」
アレスはあごに手をそえると首をかしげ、疑わしそうに尋ねる。
――かなりまずいです。
ミラの背中から、滝のごとく大量の冷や汗が吹き出す。
すでに焦りでオーバーヒートしている頭をフル回転させて考える。
できるだけ相手に不快な思いをさせずにそれとなく断るための、最適な返答を。
「……………………いやです」
緊張とは恐ろしいものだ、そしてこれは考えられる返答の中でも最悪の返答だ、とミラは思う。
ミラの鼻筋を、一滴の汗が伝う。
「ふん、まあいい。三日後には分かる事だ」
てっきりまた怒鳴られるのだと覚悟を決めていたミラは、アレスの予想外の反応に驚いたものの、胸をなで下ろし、ホッとため息をつく。
「しかし、決して忘れるな。創造神様は
ひたいに血管をうかべて言いたいことだけを言い終えると、アレスはバタンと勢いよく扉を閉じ、そのまま不機嫌な様子で去って行った。
緊張から解き放たれ、体から一気に力が抜けたミラはその場に座りこんでしまう。
何とかしろ――と言われても面倒くさいものは面倒くさいのです。
第一にアレス様はかなりの暇人なのでしょうか。
ミラの先輩神――アレスはここ最近毎日ミラの部屋を訪れて、あれやこれやとわめきちらしては帰って行くのだった。
私も神界人事局長になりたいものだと、ミラはため息をもらす。
もちろん、神界人事局長ともあろう者がそんなに暇な訳がない。
目の回るような分刻みのスケジュールの合間をぬって、わざわざミラの部屋を訪ねてきているのである。
つまり、ミラはそれほどに重大な失態を犯してしまったということになる。
幸いなことに、創造神の意向にしたがって女神の地位を維持することはできたのだが、
「創造神様のご意向につべこべ言うつもりはこれっぽっちもないが、天使に降格させられたくなければ自分のしでかした事の埋め合わせくらい自分でしろ」
と、アレスからきつく言われているのだった。
そして、半年以内に埋め合わせの
本人の言動からそうは見えないかもしれないが、これでもミラはかなり追いつめられている。
「そうです! いいことを思いつきました! これならきっと誰でも転移してくれるはずです!」
さきほどの頭のフル回転が功を奏したのだろうか、扉の前に座り込んでいたミラは突として名案を思いつき、急いで部屋を飛び出して行った。
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