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「はて、誰だろな。史…」 


 あ、そっか。史都は買い物に出てるんだっけ。


 よって自ら応対。ほどなくして私が居間へやって来たらば、


「オー、イキナリオジャマシテスミマセンーッ」


 リュックなど背負った姿。異国の方に違いなき、身体の大きな中年男性が、向こうの庭に佇んでらっしゃるではござらんか。


「はい、ウチに何か御用で?」


「ハイッ。ワタシハリチャードトモウシマスッ。ジツハ、カクカクシカジカデッ…」


 やがて私が縁側まで出ると共に、リチャードなる彼が何か説明を始めた。


 でだ、彼が言うことには『自分は海外からの旅行者で、数日前から日本の色々な所を巡っている』のだそうで…で、その一環として当地へやって来たところ、たまたまこの近所で『楠さんの家が、由緒があって素晴らしい』と聞き、こうしてここまで足を運んだとのこと。


 それすなわち彼は、当楠邸を見学したいって訳だな。うん。


 そういえば、片言とはいえ日本語が話せる上、お召しのシャツにも《豆腐!》とか書いてあるし…こりゃ、かなりの日本好きのようだ。このリチャード氏は。


「分かりました。お見せ出来ない部屋もありますが、それでよろしければ」


 まあ、特に怪しい御仁でもなさそうだし、しかも折角ここまで来てくれたので、抜き打ちの訪問ながら私は許可することにした。どうせ暇…あいや、なんでもない。


「オー、アリガトウゴザイマスッ。トコロデコチラハオクサマデスカッ。タイヘンオキレイナカタデッ…」


 あいや、誰が奥様・・やねん。こりゃモロに人形でしょうが。おまけに、どこの夫がセーラー服姿の妻を、縁側で日向ぼっこさせる…って、待てやっ。さっきまで、いつも通り卓の上座にいたはずのヒミコが、なぜ縁側にっ?


 うっ、ラ〇ドールに直射日光は禁物…じゃなくって、この移動。もしやまた私の身に、なにかが起こるのを警告してるんじゃないだろーな。


 だとしたら、今度は何が起こるというのか?


 一抹、二抹の不安を覚えつつも私は、その異国からの客人を宅内へと招き入れた。

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