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「…『ゼロの姪』と名乗った上で、この特上寿司の折詰めを…か。なるほど」


 史都ったら、そうやって警備員を買収して、当スタジオに入り込んだのだそうだ。(弁当が出るのを知らずに)わざわざ私の昼食として、同じく寿司を届ける為に。


 やれやれ、カラクリ人形のやる事じゃないわな、こりゃ。警備さんも警備さんだがね。

 

 おまけに史都は、私と共にこの楽屋へ来る前に、番組のスタッフたちにも同じく物を配るという…


 そのおかげか、明らかに人形にもかかわらず、史都自身が主張するように『そうだね、姪っ子さんだね』とかって、皆が皆すっかり、彼女を人間扱いする有様。


 まあ、無理にでもそう思ってもらった方が、さっきも言ったように、『カラクリ云々』と説明する手間が省けていいけどな。


「と、そういえば、史都…この寿司、どこに買う金があったんだ」


 和室の楽屋内。この卓上のそれ・・を食べつつ私は、ふと彼女に聞いてみた。なんたって、1つや2つ買ってきた訳じゃないからな。


「はい〜、このワタシの着物の懐に入っていた昔のお金を、骨董品屋さんに持って行って、それを売ったお金で買いました〜」


「ああ、そうだったのか…って、一体いくらで売れたんだ?」


「全部で150万だそうです〜」


 ひ、150万っ…! 


「ちなみに、それを言うならではなく、だが…いやはや、とにかく驚きだ」


「お店の人も驚いてました〜」


「だろうなー」

 

 などなど、(人形と)フツーに会話してるうちに、


「ゼロさん、そろそろお願いしまーす」


 ノックと共に、スタッフの1人がドアを開け開け告げてきた。


「んじゃ、行くわ」


「行ってらっしゃいませ〜」


 んっ、私ともども立ち上がったが史都が、なにやら小さな石のような物を2つ、その懐から取り出したぞ。なんだろ?


 かと思えば、それを私の背後で打ち合わせて…って、なるほど、火打ち石の切り火・・・か。古風だね〜。


 さらに、


「撮影が終わるまで、ここで待っていますので、どうぞごゆっくり〜」


 三つ指ついてのお見送り…あいや、世話女房か。君は。


 しっかし、礼儀正しいわ料理は上手だわ献身的だわと、人形にしとくのはもったいないな。


 なんて、半ば本気で思いながら、まもなく私は当楽屋を後にするのであった。

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