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「…なーるほど。それで、あの箱に押し込められてしまったのだな」


「はい〜。仰る通りです〜」


 結局、この史都を連れ、再び居間に。たったいま私は、彼女の身の上話を聞き終えたところだ。


 で、その話を纏めると…かつて当楠家の当主であった楠銅鑼左衛門どらざえもんは、お茶汲み人形ながらも、こうして人間さながらの史都を大層気に入り、まるで恋人のように可愛がってくれたらしい。


 ところが、やがて本物の恋人ができ、さらに結婚するや彼の態度が急変。


 その妻となった女が、史都を気味悪がった(気持ちは分からなくもないが…)ことから、ちょうどゼンマイが切れたところで、銅鑼左衛門は彼女をあの箱に。そして以降、もう誰もそれを開くことはなかったのだそうだ。私を除いて。


「う〜ん…なら、分かった。またここで暮らすといいよ」


 上座のヒミコを一瞥。この卓の向かいに座った史都に、私はそう告げた。


 逆に私の場合、人間さながらの史都を、あのような箱に押し込めるのは気が引けたからである。


「本当ですか〜。ありがとうございます〜。ぜひ、またお役に立たせて頂きたいと思います〜」


 史都が、またも一礼してきた。


「ま、そんな気張りなさんな。ひとつ、のんびりいこうよ。な」


「そう言って頂けると嬉しいです〜」


 ということで、一体追加。あらためて、私と3体の人形たちとの生活が始まったのである。

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