凸異世界ケモ獣ライフ凹

凸バリタチ凸

第1話 喧嘩ばかりの2人


「なあ、今日はまたあの生姜焼きっての食いてえな」

「うん、、いいよ」

「あとは、、スープも飲みたいな。段々と冷えてきたから」

「うん、、ちょっとピリ辛にしようよ」

「ああ」



2匹の獣人が家で仲良く晩飯のメニューを話し合ってる



ついこの間まで

喧嘩してたのが嘘みたいだ




⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎



ここは人が踏み込まない森の奥


獣人達がひっそり暮らす獣人街ケモフィー


街とはいってるが丸太で組んだキャンプ小屋みたいなのが20軒ほどしかない


人口でいえば100人に満たない小さな田舎村


獣人王国の端っこ

人間達の国に近いため昔は村なんてなかったが


最近は争いも無く交易もあるので

王都から一攫千金狙いで新たに開拓された街だ


この街を拠点に、近くの巨大な湖で大きな魚が養殖されてるので

それを目当てに人間達がたまに買いに来るのだ




獣人達はひっそりと人間達が入り込めない森の奥で静かに暮らしていた


女性達は畑で野菜を育てたり、近くの川で洗濯したり子育てに奮闘していた


男性達は自分達より大きな魚の養殖と

男達が狩りに出掛けその日食べる分だけ持ち帰り

みんなで分けて食べる


そんな風に皆んなで仲良く暮らしていた


、、、一部を除いて、、、




虎獣人♂のイガーは早くに両親を亡くし独りで過ごしていた


歳は16歳。獣人というだけあって人間より運動神経が良い

本気で走れば1日で300キロ〜400キロは走れるし

自分より重い獲物を担いで2山、3山くらい朝飯前だ


ただ、虎獣人なので基本は木の上からの奇襲や

景色と同化して待ち伏せがメイン



今日も養殖の餌やりを終えて一狩り行ってきたばかりだ



「やったぜ!まさかうさぎの集団が目の前を通るとは思わなかった。

コイツは焼いてからスープにすると美味いんだよな

ああ、腹減った、、早く帰ろう」


それに今新作料理も試行錯誤してる


アレを出せばみんな喜ぶだろな


イッシッシッシと片方の肉球を口元に当てながら笑う




尖った竹やりにうさぎの耳を貫通し20匹程をぶら下げて自慢げに村へ帰ってきたイガー


「ただいまみんな、今日はうさぎだぜ」


ヘヘッと人差し指で鼻の下をこする


頑張って獲ったが、偉そうに「どうだ食え」とはやらない

彼なりの照れ隠しでやる仕草だ




と、その時

熊獣人のブーがデカいワニを背負って帰ってきた


ドシーン!


「なっ!お前はまた川に独りで行ったのか?」


村長の梟じいさんが熊獣人のブーに問い詰める


「、、、ああ」


「全く、、独りで川に行くなとあれほど言ったのに


言いたくはないがこの村でも川で亡くなった者もおるでな、、あまり無茶をせんでくれよ!

ホラっ!イガーがうさぎをいっぱい獲ったしな」



「フンッ、、また小物狙いか、、虎獣人らしいな」


「なんだとテメー!川で溺れて死ねばよかったんだ!泳げねえ癖に」


「ハッ!バカめ、、ワニは陸に上がってくんだバカ」


「なっ!オメーは何回他人にバカバカ言うんだこのバカ、、オメーの方がバカだ

俺ら虎獣人は泳ぎが得意だからな!今度俺もワニの主を捕まえてきてやる」


「フンッ、、パワーが足りなくて助けてーって叫ぶなよ」


「ハンッ!アホか、そんなヘマはぜってーしねー」



「、、、はあー!お前達は何でそんなに歪み合うんだ。同じ村の仲間だ、仲良くしてくれ」


梟じいさんは両手をあげて盛大に呆れた


せっかく養殖魚が軌道に乗ってきたのに

肝心の村人同士が揉めてたら村が崩壊してしまう


しかもこの2匹は村のキーマンだ


この2匹がいないと食料が野菜だけになってしまい栄養が足りなくなる


まだ先だがこれから村ではじめての冬が待っているから

少しずつ食料備蓄をしているのだ



「歪み合うだけならいい、お互いが切磋琢磨して

良い刺激になるならな、、


でもいいか、相手を見返してやろうと己の力量以上の事はするなよ!


イガー、ブー、、お前達2匹がいないとこの村は潰れるからな!わかったな」


「、、うす」


「、、へーい」


「オマエなー村長が言ってんのにへーいとはなんだ」


「へいへい、まあ俺のスピードなら万が一にもありえねえよ村長、なっ!だから安心しろ」


「この野郎、俺にならともかく目上の者には敬語だろが」


熊獣人のブーが言い終わる前にピューッと飛び跳ねて自分の家へと帰っていくイガー



「、、、まったく、、村長すいません!アイツはまだ子供でして」


「うむ、、元気があってよい。でもまあ、、アイツも早くに両親を亡くしたからの、、それにオマエも、、、」


「!、、」


村長が悲しげに言うので昔を思い出したが

そんな事を気にしてたら腹は膨れない


熊獣人のブーはその場でしゃがみ込みワニを解体し始めた


「すまぬな、、思い出させて。」


「、、いえ」


手際良くワニをひっくり返し腹に切り込みを入れ

内臓を取り出す


内臓も処理した日なら食べれるので

森の何処でも取れる大きい葉っぱ「前世で言うバナナの葉に似た物」で包む


コレに少しの間でも包んで置くと臭みが抜けて旨い



ワニの皮は財布や着る物に加工出来るので

なるべく一枚になるよう綺麗に剥ぐ


この時皮を引っ張りながら身と革の間にナイフを入れると綺麗に剥げる


後で加工屋のドワーフのおっさんに持っていこう




そうこうしてると他の村人達も集まってきて

みんなで夕飯だ


皆各々自分が出来ることを準備する


女性達は畑で採れた蒸し野菜やスープ


子供達はお皿代わりの葉っぱや竹筒に水を入れてあちこち駆け回る


人口が少ないとはいえ

100人が一気に飯を食べるには準備もそれなりにかかる


あとはワニの内臓を半分に切った竹筒に入れて

塩をフリ、森で取れるレモンに似た果汁を絞って

火の中に突っ込むだけだ


前世の日本みたいに焼肉のタレや生姜醤油


さらにはニラやもやしなどあれば良いなと独りゴチる



「無いものねだりしてもなっ、、」


長い竹を両手でクルクル回しながら中に火を入れていく


「ブーおじちゃんすごいね」


「ワニの内臓レモンがけだって!アレ美味しいのよねー」


「今日はハッスルしちまうかー?」


「ちょっと、下品よ!やめて」


「フフフ、、」


「アハハ、、子供達は早く寝ろよー」


「えー、、おばちゃん、サツマイモ甘くて美味しいよ」


「そうかい、、アンタんとこのとうもろこしってやつも最高だよ」



熊獣人ブーのワニ料理を待つ間

みんなどんどん食べてお腹を満たしていく


メインディッシュをまだか、まだかと待ちながら



そこへピョンッピョンッピョンッと虎獣人のイガーが飛び跳ねてくる




「みんな!俺の料理も食べてくれ」



家から持ってきたのは長〜い竹槍


そこにぶつ切りにされた肉が刺さって焼かれている


よく見ると肉に小さい黒っぽい何かがかかっている


「ヘヘッ、コレは森で見つけた小さい実を剥いて小さく擦り下ろして肉にかけたんだ、、

ちょっとピリッとくるからな!最初はビックリするぞ」


竹槍10本くらいにビッシリ焼いてある肉


それに黒い粒々がたくさん振られている


匂いを嗅ぐと凄い香ばしい


スンッスンッ、、スンッスンッ、、


「良い匂い」


「ああ、美味そうだ」


みんな待ってましたと言わんばかりにイガーから肉を貰い食べ始める


ソレを横目で見て熊獣人のブーは驚いた!



あの野郎、、アレは胡椒じゃねえか?


それに刺してから焼くのは焼き鳥か、、、


まさか、アイツも転生者???


熊獣人のブーは記憶の中にある料理と余りにも似てるので

虎獣人のイガーもまさか転生者なのでは?と疑った



ただ焼き鳥なら1人1人に串ごと渡す


まあ100人分ともなるとイチイチやってられんって考えかもしれないが


ちくしょう、まさか胡椒があるとは思わなかった!


アレは美味いだろな!


胡椒さえあれば臭み消しになる


この俺が持ってきたワニにもかけたい位だ




「美味しいー」


「ほんと!最初はピリッと辛いなーって思ったけど」


「アグっ、、ムグッ、、イガー!!美味しいよ!、、いつもありがとうね」



「そんな褒めるなよ!!ッ世界一の虎は俺様よ

まあ、アレだ、、普通だな!うん、我ながら美味い」


人差し指で鼻下を擦る、、イガーが照れ隠しにやるいつものポーズだ!



みんな知っている。



ソレをみんなニコニコしながら観ている


毎日、毎日仕事で疲れているはずなのに

村民の為に一生懸命狩りをしてくれる



みんなイガーの事が大好きだ



仕草はちょっと面白い所があるが


彼が居なければ村は成り立たない


そこまで言ってもいいくらいだ



そんな和やかに進む食事も

準備した量がいかんせん少ないのですぐになくなってしまった


特に子供達はバクバクと食べ終え、何人か遊んでいる


100人分ともなると凄い量だが

準備は時間がかかったのに

食べるのはあっという間だ


すぐになくなってしまう


仕方ない、、村がまだまだ発展途中なので

用意できる量が少ない


だけど今日はまだワニがある!!!


皆が期待して待っている




「どら、、おまっとさん」


少し離れた所で焼いていた竹筒を皆の前に置き


パカっと開けるとモワーッと美味しそうな香りが拡がる


10メートルほどのワニだ


内臓だけで3、4キロくらいある


それに途中で足りないと困るから身もぶつ切りにして焼いた




「みんな!熱いからな!火傷しないように食べてく、、、」



さっきはイガーと大声で喧嘩をしたのに


村民全員居るからか、、小声だ!


もうすんごい小声だ!



ブーの隣にいた子供も「え!?ブーおじちゃんなーに?」


と聞いている



村長やイガー、一部の村民はブーのデカイ声と罵声を知ってるが


普段は喋らない


否、、喋ってるのだが


聞こえないのだ!!




今も竹筒を開けた後はみんな各々料理を取り分け


美味しい、美味しいと喜んでいる


「あんなに無口な男もそういない、、ウチのも見習ってほしい」


「狩りも料理も出来て、文句の一つ言わない、、ウチの娘じゃだめかな?」


「何をいう、、ブーはウチの娘とだ」


皆思い思い言いたい放題





「ケッ!内臓とレモンか、、まあまあだな

俺のピリッと焼いた肉の方がうめーけどな」


イガーが早速喧嘩を売りに行く



「何だとこの野郎!オメーの肉はなんだ?うさぎか?

それともネズミか?

肉が臭えと大変だな、、、処理が」



ここは焼き場なので2人の言い合いは皆には聞こえない




散々お互いの料理をけなしあった頃


小さな子供達が来て

「イガーおじちゃん、ブーおじちゃん、今日も美味しい食事ありがとねー」


「、、ああ」


「はいよ!腹は膨れたか?」


「、、うん」「食べ過ぎたよ」


「そりゃ良かった!あとな、、、俺はお兄さんだからなー」


ガオーっと子供達に飛びかかるイガー



子供はキャーキャー言いながら逃げ回る





そんな光景を見ながら熊獣人ブーは独りまたゴチる


「あーお腹すいたなー、、家に隠してあるはちみつでも舐めたいなー」




ボソボソ言う言葉は、誰の耳にも入らない



虎獣人イガーとの喧嘩では強い口調だが


本来熊獣人のブーは


のんびり、おっとりした性格である






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