#04 一日の終わり



 ボスの学力は非常に高い。


 地頭が良い上に家での学習を怠らない努力の賜物だ。

 しかし、ボスはその努力を他人に知られるのを非常に嫌う。


 なので、学校ではノート1つ取らない。



 家での学習タイムは、主に授業の復習だ。

 復習に関しては僕のノートを使い僕が解説を進め、ボスが判らないところがあった場合に質問に応じる形だ。

 つまり家庭教師の様なものだろう。

 当然、ここでボスの質問に答えられないと即鉄拳制裁だ。


 ボスの学習机に二人でイスを並べて行うのだが、ボスとは肩が触れ合う程の距離で、お風呂上りのボスからは漂うシャンプーの香りが鼻孔をくすぐる。 年頃の女性特有のフォロモンがムンムンだ。

 しかし、当然のことながらそのフォロモンに反応してしまうと、僕のおちんちんが切断されかねないので、一切の性欲と表情を殺して勉強を続ける。



 因みに、ボスに勉強を教える為、僕自身の学力も高く無くてはいけないのだが、テストなどでボスよりも高い点数を取ってしまうと、逆にボスの機嫌が悪くなり、ネチネチ嫌味を一日中言われることになるので、テストでは敢えて8割程度しか埋めていない。





 2時間ほどの学習タイムを終えると、そろそろ就寝タイムだ。


 ここから恐ろしい時間となる。



 ボスのお休み前の甘えモードが発動するからだ。



「シュウくん、今日も一日ありがとうね♡」


 この一言が、発動の合図だ。

 僕は背筋が凍る思いをひた隠し「役目ですので、お気にせずに」と謙遜しているテイで応える。


「クリスも今日一日頑張ったよね?」


「もちろんです。ボスはとても頑張りました」


 手が震えるのをなんとか気づかれない様に後ろに隠す。


「じゃぁ、いつものしてくれる?」


「はい、分かりました」


 震える手でボスの頭をナデナデする。

 背中は冷や汗でビショビショだ。


「えへへへへ」


 嬉しそうな顔をするボス。

 他人が見れば一発で惚れてしまうような天使の笑顔だろう。

 しかし、僕には只々恐怖でしかない。



 ここから最も過酷な選択を迫られる。


 頭ナデナデをいつ止めるか、だ。



 直ぐに止めてしまうと、今までの甘えモードがウソの様に機嫌が悪くなり、鉄拳制裁だ。

 だからと言って延々と続けると、スっと冷めた表情になり「いつまで撫でてるの。眠いんだけど」と、これまた機嫌を損ねてしまう。


 長年培ってきた経験で掴んだのが”55秒”

 これが最も機嫌良いまま終わらせるタイミングだ。

 このタイミングを掴むまでに数多くの鉄拳制裁を喰らって来た。



 僕はナデナデしながらカウントをする。


 52

 53

 54

 55

「ボス、そろそろお寝んねしましょうね」


「うん♪ シュウくん、ベッドまでダッコして♡」


 ここで言われた通り普通にダッコしてはダメだ。

 ボスの言うダッコと言うのは、所謂お姫様ダッコだ。


 学習机からベッドまでは約3メートル。

 ボスをお姫様ダッコしベッドまで運び、そっと降ろす。


 この作業、とても甘いシーンのようだが、腰の負担が半端無い。

 特にゆっくり降ろす時。

 この作業を毎晩続けているせいで、僕の腰は鉱山の奴隷炭鉱夫並みにボロボロだ。


 ボスをベッドに寝かせ掛布団を掛けると、ボスが眠るまでお腹を優しくポンポンする。 コレしないとボスは眠れないのだ。



 あと少し

 あと少しで今日1日の役目が終わる。

 そう心の中で自分を励まし、何とかボスが眠るまで耐える。


 僕自身1日の疲労がピークの為、少しでも気を緩めるとボスが寝る前に自分が寝てしまうからだ。




 そしてボスが寝た。


 起こさない様にそっとベッドを離れ、音を立てない様に床に自分の布団を敷く。

 翌日の時間割を確認して30分ほど授業の予習をし、ボスと自分の二人分の教科書などの準備を済ませる。

 

 ボスが寝ているのを再度確認し、跳ねのけた掛布団を掛け直して、部屋の照明を消して、自分も布団に入り就寝する。


 こうして1日がようやく終わる。




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