第37話 新生活に嫉妬爆発で、お姉ちゃんも大変なの

 藤桐紫桜学園とうどうしおうがくえん

 創立百年を超え、文武両道を掲げる地元ではそこそこ有名な学校だ。

 今、この学園に創立以来最強の女教師が着任しようとしていた。


 カッ、カッ、カッ――――


 颯爽と風を切って歩くその女性は、艶やかで長い髪を揺らし、凛とした美しい顔に大きく煌くような瞳を輝かせ、一部の隙もない完璧な所作で職員用玄関をくぐる。


 スーツを内側からパツパツに持ち上げる巨乳に、キュッとくびれたウエスト、そこからムチッと理想的な曲線を描くヒップラインが完璧だ。短めのスカートからは、芸術品のように長く美しい脚が薄めの黒パンストに包まれている。


 まるでフェロモンを可視化したような色気を放出し、地上最強の女教師である明石百合華が颯爽さっそう登場だ。


「おはようございます」


 百合華が挨拶すると、そこに居る職員たちが百合華の余りの美しさに見惚れ茫然と立ちすくむ。


 初めて見る者は百合華のサキュバスのような容姿に夢か幻か理解が追い付かない顔をし、何度か会っている者は改めて彼女の美しさに心酔してしまう。

 社会人になった百合華は、更にレベルも攻撃力も上がり、もはや魔王レベルのエロの女悪魔だった。


 続いて百合華は職員室に入ると、優雅な所作で会釈をする。


「おはようございます。本日から新任となります明石百合華です。新卒の若輩ではありますが、ご指導ご鞭撻べんたつの程、よろしくお願いいたします」


 室内に美しく良く通る声が響くと、女王然とした百合華の姿に、教職員たちは心を奪われてしまう。

 特に男性教師は、百合華の一言で完全に虜にしてしまったようだ。



「これはこれは、明石先生。どうもどうも」


 そこに教頭の山田が現れる。

 四十代後半の恰幅かっぷくの良い男性だ。


「教頭先生、教育実習ではお世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ」


 新任の百合華の美しさに少々ビビり気味な教頭がヘコヘコする。

 どちらが新任か分からない感じだ。


「こちらが教育係の末摘すえつむ先生です。分からないことがあったら彼女に何でも聞いてください。末摘先生、頼みますよ」


「は、はひ……」


 末摘すえつむ花子はなこ28歳、彼氏無し。

 少しポチャっとしてムチムチと柔らかそうな体に、地味なメガネをした女性だ。

 優しくて親切そうな雰囲気を醸し出しているが、ちょっと気が弱そうなイメージがする。


「末摘先生、よろしくお願いします」

「ははは、はひっ! よよ、よろしく……お願いします」


 百合華が挨拶すると、彼女がビックリしたようなリアクションをした。

 ちょっと緊張しいな性格なのだろう。



 ◆ ◇ ◆



 花子に先導されて、百合華は校舎内を案内されている。

 と言っても、四年ちょっと前まで通っていた母校なので知っているのだが、断わるのも悪いしせっかくなので案内してもらっていた。


 花子といえば、超絶美人で凄いフェロモンを出し、やたらと迫力がある百合華を怖がっていた。


(ううっ……何で私が、こんな怖そうな人の教育係に……。私の方が年上だけど、この子って女王様みたいで迫力あるし……失礼があったらどうしよう……)


 そう、超美人の百合華のような女性は、花子の苦手とするタイプだった。


(この人……怖い。もし、私が間違えたら『は? そんなことも分からないんですか、先輩?』とかツッコまれちゃうかもぉぉぉぉ!)


 花子は完全に誤解していた。


 百合華はボロが出ないように厳しめの表情をしているだけなのだ。

 内心は『ユウ君と一緒の学校に通えて幸せぇ~ユウ君大好きぃ~』って感じだった。



 そんな微妙な距離感で廊下を歩き、上級生の教室の近くを通った時に、数名の男子生徒が花子に声をかけてきた。


「おっ、花子ちゃん」

「花子ちゃん、今日もおっぱい大きいね」

「花子ちゃ~ん」


 親しみを込めているようにも見えるが、少しイジっている感じだ。

 花子は少しぽっちゃりしているが、ムチムチとしていて好みの人にはストライクに見える。


「もう、ダメでしょ。末摘先生でしょ」


 花子も注意はするが、ヤンチャっぽい生徒たちは聞いてくれない。

 尚もはやし立てる生徒たちの前に、花子の後ろに居た百合華が前に出る。


 ズンッ!


「ちょっと、あなたたち! 先生に対して失礼でしょ!」


「えっ……」

「うっ……」

「あれっ……」


 百合華が一喝すると、生徒たちが委縮したのか静かになった。突然現れた超エロい女教師に、驚きとドキドキで思考が追い付かないのだろう。


「先生であり年上なのよ。親しみを込めるのは良いけど、もうちょっと敬意を持ちなさい……って、何で前屈みになってるの!? 人の話を聞く時は真っ直ぐ向いて――」


 百合華の説教で、生徒たちが全員前屈みになってしまう。

 体のある部分が大変な事態になり、どうしても前屈みなのだ。


 それもそのはず。


 男子生徒としては、百合華のスーツを突き破りそうなパツパツの巨乳と、細くくびれた腰からプリッと魅惑的な曲線を描く尻、ムチッとして肉感的な太ももなど、全身レジェンド級SSR武器を装備したような超絶フェロモンボディに悩殺されているのだ。


 若く性への衝動も強い年頃の男子にとって、百合華は刺激的すぎて目の毒だった。


「ちゃんと真っ直ぐ立ちなさい」


 百合華の一喝で生徒たちは余計に前屈みになった。


「す、すんませんっす」

「今度から花子先生って言います」

「もう勘弁してください」


 最初のインパクトで完全に生徒を屈服させてしまった。もう、百合華の悪魔的美貌に膝まづいて隷属しそうなくらいに。


「あの、明石先生。そのくらいで」

「そうですか?」


 花子にうながされて移動する。

 その花子だが、後輩教師に憧れの目を向けていた。


「明石先生、新任なのに凄い指導力です。わ、私、尊敬します」


 花子まで隷属しそうになってしまった。

 何だかよく分からない超攻撃力で生徒を黙らせる百合華に、花子は心酔しているのだ。


「あの、末摘先生は先輩なんですから……」

「いえいえいえいえ! むしろ師匠と呼ばせてください」


 バサッ!

 花子が大きくお辞儀をした時に、彼女のカバンから本が落ちた。


「あっ、何か落ちましたよ」


 百合華が本を拾い上げると、それはショタ系の漫画だった。


「えっと…………」


 ササッ!


 花子は素早く漫画を受け取るとカバンに隠し、そのまま固まってしまう。

 すぐにガタガタと震え出し、必死に弁解する。


「ちちちちち、違うんです! 二次元だけなんです! 現実リアルには手を出しませんから! 通報だけは勘弁してぇぇぇぇ!」


「ええっと……」


 百合華は彼女の肩に手を置き――――

 サムズアップみたいなジェスチャーで『グッド!』とやった。


「え、ええっ、それ、どういう意味ですか?」


 動揺する花子だが、百合華は心の中で『末摘先生とは話が合いそう』と思った。

 百合華も、悠のおねショタ系漫画をこっそり観て、日々弟へのオシオキを研究しているのだから。


「末摘先生……良い趣味してますね」


 百合華が同士を見つけたような顔をする。


「明石先生……」


(ええっ! 明石先生も同じ趣味だったの……? 最初は怖い人かと思ってたけど、実は良い人なのかも? 何だか友達になれそう……)


 二人は、おねショタ的シンパシーを感じた。



 ◆ ◇ ◆



 姉がおねショタで盛り上がっている頃、悠も入学式を控え初登校していた。

 初日とあって緊張しているのだが、いつものように中将貴美が絡んでくる。


「あっ、また悠と一緒のクラスだ。もう、しょうがないなあ」


 新入生のクラス一覧表を見て、真っ先に悠のところに寄って来た。


「また中将さんと同じ? ずっと一緒だね……」


「は? か、勘違いしないでよね! べ、別にあんたが気になるとかじゃないから。あんたが頼りないから、私が面倒を見てやってんのよ」


 特に何も言っていないのに、貴美が勝手にツンデレっぽいことを言い出した。

 普段、デレはあまりないのにツンばかり多めだが。


「あら? あなたと一緒のクラスだなんて最悪」


 後ろから声がかけられ二人が振り向くと、そこにはすらっとしたスレンダーな体に美しい黒髪ロングの美少女が立っていた。

 六条葵という名の、顔はやたら良いのに、ちょっと面倒くさい女子だ。


「ろ、六条さんも一緒だったんだ……」


 悠は、面倒にならないことを祈った。

 しかし、その願いは脆くも崩れ、貴美が速攻で葵に絡みに行く。


「はあ? あんたと一緒なんて、こっちこそ最悪よ! てか、あんたってやたら私に絡んでくるけど、本当は私と友達になりたいとかじゃないの?」


「は、はあぁぁぁ!? か、勘違いしないでくださるかしら! べ、別にあなたが気になるとかじゃないですし。あなたが私に突っかかってくるからでしょ!」


 貴美の言葉に、葵までツンデレっぽいことを言い出す。

 悠は、ちょっとだけ百合の波動を感じた。



 二人で言い合ってる女子を放置して、悠は校舎へと向かう。女子同士の争いはスルーに限る。

 ちょうどその時、向こうから花子と一緒に歩いている百合華の姿が見えた。


 悠は『お姉ちゃん』と声をかけそうになる。


(あ、危ない危ない……学校では先生と呼ばないと……)


「おはようございます」

「あっ、ユ……おはよう」


 一瞬、ボロが出そうになった百合華だが、何とか持ちこたえた。

 そのまま何も無かったかのように悠とすれ違う。


 ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーン!!!!


 その瞬間、百合華の隣の女から不穏な波動が発せられた。


「は、は、は、はうっ……い、今の新入生の子、可愛いですよね」

「は?」


 突然、悠を見た花子が呟く。


「良いなぁ……『少年の倒錯-煉獄編-』という漫画に出てくるショータ君にそっくり」


 ピキッ!

 百合華の眉がピキピキしてキレそうになる。


「って、あれ? 明石先生……なんか怒ってます……?」

「末摘先生! 生徒を、そのような目で見るのは如何なものでしょうか!」

「はひっ、すすす、すみません……」


(まったく……末摘先生って、最初は良い人かと思ったけど……やっぱり要注意人物みたいね。ユウ君に手を出さないように見張っておかないと)


 百合華は自分のことは棚に上げ心の中で毒づく。悠を狙う女は全て要注意人物なのだ。



 こうして波乱の学園生活の幕が上がった。

 ボロが出そうなのを何とか我慢する百合華に、二人っきりになった愛の巣に帰るのを恐れる悠。


 相思相愛でラブラブなのに、周囲にバレないよう必至に耐える悠は、どこまで持ちこたえられるのか。

 凄まじい姉の猛攻を耐え忍ぶ悠の戦いは続くのだった――――






 ――――――――――――――――――――

 第二章になります。

 学園編で先生になった百合華と少し大人になった悠の、ラブラブな日常が始まります。ちょっと変わった新キャラも登場します。

 もしよろしければフォローや星やレビューなど頂けると、とても嬉しく作者のモチベアップになります。

 それでは、第二章もよろしくお願い致します。

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