第36話 新しい暮らし、新しい関係

 悠と百合華が同時に声を上げる。


 両親が札幌に移住し、この家は二人だけの愛の巣になるのだ。

 今でさえエチエチマックスな二人なのに、親が居なくなったら歯止めがきかなくなってしまうかもしれない。

 禁忌タブーを犯したエロ姉弟になってしまうかもしれないのだ。


 いや、今でも十分エロいのだが――――



 幹也が話を続ける。


「最初は、お父さん一人で単身赴任しようと思ったんだ。でも、百合華も来年は社会人になるし、悠君もしっかりした真面目な子だし、二人だけでも大丈夫だと思ってな」


 絵美子もそれに続いた。


「百合華が、厳しくも優しく悠を指導しているのを見て、これなら任せても安心だと思ったの。悠の成績が上がったのも真っ直ぐに育っているのも、全部百合華のお陰なのよ」


「お母さん……」


 絵美子の信頼の眼差しを真っ直ぐに受け止めた百合華が、まるで『ユウ君は私が立派に育て上げます』という感じの目をする。


 三人が感動的なシーンになっている時、悠は色々な感情が渦巻いて混乱していた。


(ちょ、ちょ、ちょっと待て! 何か話が勝手に進んでるけど、これ、完全に二人っきりの家になっちゃう展開か? 危険過ぎだろ!)


 悠一人だけ心配していた。


(それに、お姉ちゃんは外面そとづらは真面目でしっかり者で男嫌いみたいな堅物だけど、本当はドスケベでドヘンタイでハレンチなエロ姉なんですよ! たまに『ぐへへ~』みたいなエッチな顔になっちゃうんですよぉぉぉ!)


 悠が、心の中で本音を漏らす。本当はグヘヘ姉だと。


 そんな悠の心配も知らない両親は、二人に全幅の信頼を置いているようだ。


「悠君はどうだい? 悠君の希望も聞いておきたいから」

「悠、お姉ちゃんと一緒でも大丈夫よね?」


 両親が悠にも声をかける。優しい幹也は、ちゃんと悠の承諾を得てから決めてくれるようだ。


「俺は…………」


 悠が話し出そうとした時、横でニコニコしている百合華の笑顔が視界に入った。

 顔は笑っているのに、何故か悠だけに発している威圧感のようなものを感じる。まるで『承諾しろ』と圧力を加える電波を発しているように。


(うっ……お姉ちゃん……マジか……。絶対に承諾しろという圧力を感じる。これ、断わったらマジギレしそうなんだけど……)


「う、うん……分かった。家の方は俺とお姉ちゃんで大丈夫だから安心して」


 悠は首を縦に振った。


「そうか。良かった。これで安心して行けるよ」

「悠、お姉ちゃんの言うことを、よく聞いて生活するのよ」

「わ、分かった」


 お姉ちゃんの言うことを全部聞いていたら、とんでもないエロ調教をされそうなのだが、もう事ここに至ったら全て受け入れるしかなかった。

 エチエチでドッキドキな二人の生活を。


 ただ、悠も姉がただれた生活ばかりしないよう見張るつもりだ。



 ◆ ◇ ◆



 夕食が終わると、百合華はさっそく悠を部屋に連れ込んだ。

 もう四月からの新生活に思いを馳せ、幸せいっぱい夢いっぱいなお姉ちゃんなのだ。


「んあぁ~ん! 楽しみぃ~来年は毎日ラブラブだねっ!」


 百合華が変な喘ぎ声みたいなのを上げ、うきうきわくわく姉になっている。


「不安しかねぇ……」


 そんな百合華を見た悠は、両手を広げ『やれやれ』といった顔をする。


「ユウ君、大丈夫だよ。四月からはぁ、毎日一緒に寝て、毎日あーんで食べさせて、毎日一緒にお風呂で洗いっ子してぇ、毎日エッチで心も体も深く繋がり合ってぇ~もう、最高だねっ!」


「だから、不安しかねぇ」


 調子に乗ってアウト発言ばかりの姉に、更に不安が募ってくる。


「私が先生になれば、家でも学校でもずぅぅぅぅ~っと一緒っ!」

「………………」


 そうなのだ。百合華が教師になれば、二十四時間ずっと一緒ということなのだ。


「うっわぁぁぁぁーっ! もう何処にも逃げ場がねぇ!」

「大丈夫だよぉ~ずっとイチャイチャしてようよぉ~」

「学校で、そんなことばかりしてたら、即バレて問題教師になっちゃうだろ!」

「あっ…………」


 今更気付いたかのように、百合華が愕然とする。


 まさか、学校で同級生カップルのようにイチャイチャするつもりだったのだろうか? 同級生同士のイチャイチャは許されても、生徒と教師のイチャイチャなど許されざる大罪なのだ。

 完全アウトである。


「うっわぁぁぁぁ! 私もユウ君と同級生になって、放課後教室や体育倉庫でエッチしたかったぁ~」

「ろ、露骨過ぎる……」

「せっかく先生になったのに、問題起こして懲戒免職になっちゃうよぉ~」

「本当に、なりそうで怖いぜ……」


 人前では完璧美人を演じている百合華だが、悠と一緒だとボロが出まくりそうだ。


 学校で『ユウ君、ユウ君、ユウくぅぅ~ん♡』とかやったら、事案発生になって『女教師を名乗る不審者が、生徒の名前を叫びながらペロペロする問題発生』と一斉メールが送信されそうである。


 ガクッ!


 百合華がショックで崩れ落ちた。

 同級生カップルのように校舎でイチャイチャする夢でもあったのかもしれない。


「ユウ君……私、学校ではお姉ちゃんじゃなく、厳しい先生になるね。ユウ君にも生徒として接するから」

「いや、それが普通だけど……」


 身内が先生の場合は公私混同はいけないのだ。

 けじめは付けなければならない。


「決めた! お姉ちゃんは、学校では先生と生徒としての立場をわきまえます!」

「だから普通だって、そうじゃないと困るよ」


 悠が、このお姉ちゃん本当に大丈夫だろうかという顔をする。


「でもでもぉ~家ではイチャイチャするのは良いよね。制服コスプレして同級生の百合華ちゃんプレイも良いよねっ?」


「えっと……コスプレ……」


(お姉ちゃん……前にも部屋でこっそりセーラー服を着てたけど、やっぱり同級生になって色々イベントをしたい願望があるのかな?)


 悠は姉のコスプレ姿を思い出す。


(もしお姉ちゃんと同級生として出会っていたらって、俺も考えたことがあるけど。そのままのお姉ちゃんが大好きだけど、同級生みたいになってイチャイチャしたいというのなら叶えてあげたい)


「うん、たまには同級生ごっこしようか」

「ありがと~ユウ君大好きぃ♡」


 百合華が抱きついてくる。


「でも、親が居なくても、ちゃんと節度は必要だからね」


 百合華の抱き着きを手で止めた悠が、エロ姉を牽制する。


「えええ~っ、せっかく二人っきりになるのに……」

「と、特に、さっきみたいな変態っぽいのとか禁止」

「ふふっ、さっきはユウ君もすっごく興奮してたよね?」

「ぐっ……それは……」


 図星である。


「勝負はまだ続いているんだよ。ユウ君が我慢すれば良いんだよ~」


 明らかに分が悪い勝負だ。

 サキュバスのような魅惑的な姉の超攻撃力を、ひたすら我慢し続けるなど並大抵ではないだろう。

 それでも――――


 ガバッ!


「お姉ちゃん!」


 悠は百合華を抱きしめる。


「えっ、ええっ………っ」

 きゅん♡


 今夜も思い切りチュッチュと攻めまくろうと思っていた百合華だが、思わぬ先制攻撃を受けて動揺する。


「俺は、お姉ちゃんが大好きだよ。お姉ちゃんを幸せにしたい。だから、今は我慢するんだ。お姉ちゃんが大好きだから」


 きゅん、きゅん♡

「はわっ、はわわっ、ゆ、ゆ、ユウ君……」


 ギュッと抱きしめられ、愛の言葉を耳元で囁かれ、百合華のハートがキュンキュンしまくる。

 もう、幸せホルモンのオキシトシンやらセロトニンやらが出まくって、あまりの幸せさに百合華のカラダが一気に快感でフニャフニャになってしまうのだ。


「お姉ちゃん」


 そのまま百合華がベッドに倒れ込み、偶然にも悠が上に乗る形になった。

 もうカラダ中が幸せなってしまった百合華は、悠に触れられているだけで気持ち良くておかしくなりそうだ。


(あっ! これ……ダメかも……すっごいのきてる……)


「お姉ちゃん、俺は我慢するから……ちゅっ」


 悠からキスをする。

 いつもは百合華から攻めまくりのキスなのだが、今日は珍しく悠から行った。


「はむっ、ちゅっ……」

「んんっ! ひぐっ……」


 ビクッ、ビクッ――――


 キスをされた瞬間、百合華が一気に陥落してしまう。

 相変わらず攻撃力だけレベルカンスト級なのに、防御力はよわよわだった。


「今はキスで我慢して。もう少し経って俺が一人前になったら、必ずお姉ちゃんを恋人にするから。きっと周囲の人も説得してみせるから。ちゅっ……」


「んんっ、んっ~~~~」


 良かれと思って無意識に姉にご奉仕しているのだが、やっぱり百合華が勝手に追い込まれてしまう。

 足をジタバタさせて限界だとジャスチャーしているのだが、悠は全く気付いていない。


(んんんんっ~~~~っ! もうムリぃぃぃぃーっ!

ユウ君、許してぇぇぇぇ~!)


 声が漏れて下に居る両親にバレないように我慢しているのが更に百合華の背徳感や快感を高めてしまい、まるで弟に絶対服従させれられたようだ。


 悠としては、いつまで経っても初心うぶな雰囲気童貞のままなので、姉の変化になど気付かず無意識に追い込んでいるのだが。


「えっ、まだ満足できないの? お姉ちゃんの気が済むまでご奉仕するから。だから今は我慢してよ」


 ぎゅぅぅぅぅぅ~!


 まだ満足させていないと誤解した悠が、更に百合華をギュッと抱きしめる。ついでにナデナデも。

 完全に陥落していた百合華にトドメを刺してしまった。


「ひぎぃっ……」

(これ、死んじゃう! もうダメぇぇぇぇぇぇぇ~!)


「あれ? お姉ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」


 やっと姉の異変に気付いた悠だが、百合華は弟に完全に陥落させられ、目も虚ろで全く反撃の気力さえ残っていない。


 普段は悠が一方的に攻められているのだが、実際に陥落されられた回数は百合華の方が多かった。

 自称130戦130勝などと妄想しているが、実際はけっこう負けている現状だ。


「お姉ちゃん、汗が凄いよ……」

「あ、あの、ダイジョブだよ……お姉ちゃんは、ちょっと疲れちゃったから休むね」

「う、うん……」


 何度か百合華の顔を心配そうに見ながら、名残惜しそうに悠は部屋を出た。


 パタン!


 悠が部屋を出てから、百合華は息も絶え絶えになりながら文句を言う。


「も、もうっ、またユウ君に堕とされちゃったぁ~! くやしぃ~姉の威厳がぁぁぁーっ! ユウ君って意外と鬼畜かも……」


 無意識にやってるのか日頃の仕返しか、意外な悠の反撃にくやしがる。



 一方、自室に戻った悠だが。


「お姉ちゃん……大丈夫かな? たまに調子悪そうにしてるけど。頑張り過ぎて疲れてるのかな?」


 普通に心配していた。



 こうして、二人きりになっても健全であろうとする悠と、勝手に自爆して陥落してしまう百合華の、新しい生活が始まろうとしていた。

 成長してちょっと大人になった二人の、純粋で真剣で全力の恋愛バトルは続く。


 悠は、ちょっと……いや、だいぶ危ない姉がアウトにならないのを願うばかりだった。


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