第17話 もう大好き過ぎてユウ君しか考えられない!

 悠が自宅に戻ると、百合華と絵美子が良い感じになっていた。まるで実の親子みたいに。


「お母さん……」

「百合華」


 涙ぐみながら抱き合っている。少しよそよそしかった以前と違い、二人の間の壁が取り払われたように見えた。


「あれ? いつのまに……でも、仲良くなって良かった」


(あのおばさんのせいなのか? とにかく、こっちは上手く行ってるから安心だな)


 悠も安堵した――――




 家に入り百合華が落ち着いたところで、悠が事の顛末てんまつを説明する。


「――――というわけで、おばさんにはお互いが冷却期間をおいて、お姉ちゃんが良いって言うまで会わせられないって言っておいたから。もう大丈夫だよ」


「ユウ君……凄い……お母さんと話をつけてきたの?」


「おばさんも謝りたいって言ってたけど。でも、お姉ちゃんに会うと、どうしても自分がダメな母親だと自覚させられちゃって、イライラして怒鳴っちゃうって言ってた」


「お母さんが……」


 悠はケーキの袋を差し出す。


「これ、おばさんから」


 百合華が包みを開けると、美味しそうなロールケーキが出てくる。


「これ……あの時の……」


 それは、まだ百合華が幼い頃――――

 母親と街に出掛けた時に、どうしても食べたくて母親にねだり買ってもらったケーキだった。

 まだ親子関係が壊れていなかった頃だ。


「お母さん、覚えてたんだ…………」


 百合華がうつむく。


(どうして……お母さんは昔から喜怒哀楽が激しく気分屋だったけど、あの頃はまだ家族をしていたのに……。何で壊れちゃったんだろ……。どうして私を捨てて出て行っちゃったのよ……)


 少しの間考え込んでいた百合華だが、悠の目を見つめ口を開いた。


「まだ、お母さんとは元通りにはなれないと思う。あの人は、いつも急に怒鳴ったりして……機嫌が良い時と悪い時の差が激しいから。でも……もしかしたら時間が経てば……」


「うん」


「ユウ君、ケーキ食べよっか? ケーキに罪は無いしね」


 百合華は悠と一緒に皿やフォークを取りに行った。

 仲良く並んで。



 ◆ ◇ ◆



 百合華は自室の机に突っ伏して、悠のことを考えていた。


(ユウ君……私の苦手なお母さんと話をつけてきちゃうなんて凄い……。出会った頃は、ただ可愛いだけの、私が守らなきゃって思ってた子供だったのに……今では私が守られてばかりだ)


 悠の顔を思い出しながら、百合華は微笑んだ。


(ユウ君と出会ってから、私の人生がどんどん良い方に向かっている気がする。前は、上手く行かないことばかりだと思っていたのに。まるで、ユウ君は私のヒーローみたいだよ)


「はあっ……ユウ君、大好き……」


 想いが募り、つい、つぶやいてしまう。


(どうしよう……。もう、この想いは止められないよ。大好き過ぎておかしくなっちゃいそうだよ。ユウ君が年上好きなのは分かってるけど……。でも、ユウ君も大きくなって同級生の子を好きになっちゃったら……)


 ふと、百合華の脳裏に、悠と一緒にワックから出てきた女子やメッセージアプリを送ってきた女子が浮かぶ。


(逆光源氏計画なのに……それまで待っていたら、ユウ君が他の子と付き合って私から離れて行っちゃったら……。そんなの絶対イヤ!)


「ユウくぅ~ん…………よし! 取り敢えず添い寝しよう」


 添い寝という結論になった。

 悠を誘惑しまくって大人の色香で絡めとり、姉以外の女に興味が無くなるぐらい大好きにさせちゃう作戦だ。

 ただ、自分がイチャイチャしたいという願望が大きいのだが。


(ふふふっ……ユウ君、覚悟してよね。もう手段を選んでいられないから。誘惑しまくって、焦らしまくって、我慢できないようにしちゃおっ! ユウ君の方から若い性の迸りが暴走しちゃって既成事実になるのならセーフだよね!)


 ※アウ……せ、セーフなのか?



 ◆ ◇ ◆



 コンコン――

「ユウ君……」


 百合華は足音を立てず移動し、悠の部屋を静かにノックする。

 何だか夜這いみたいでアウトっぽかった。


「えっ、お姉ちゃん?」


 カチャ

 悠がドアを開けると、百合華は滑り込むように室内に入った。


「ユウ君、今夜はお姉ちゃんと添い寝しよっ」

「えっ、ええっ、な、何言ってんの……だから、もう俺は子供じゃないのに」

「一緒に寝るだけだよ」


 前は頻繁に添い寝していた。

 成長してあの頃よりも性への衝動も強くなった悠は、魅力的過ぎる百合華と一晩一緒のベットで理性が保てるか自信が無い。

 いや、前も弾けそうな鼓動と溢れ出そうな衝動を止めるのに精一杯だったのだ。


 最近更に色気を増した義姉の魅惑ボディを見て、悠はゾクゾクと腰の辺りから震えが沸き起こる。


 先日、告白するまで耐えてみせると誓ったばかりなのに、地上最強の姉のウルトラエロオーラを前に、すでに耐えられる自信が無くなっていた。


「ダメだって。もう、お互い大人だろ」

「ユウ君、あんまり騒ぐと両親が起きちゃうよ?」

「うっ……」


 にへらっ!


 百合華の策略通りである。

 ここで揉めていては一階で寝ている両親に怪しまれてしまう。

 既に退路は断たれているのだ。


 百合華流風林火山なのである!


 はやきこと神速姉の如くで、部屋へと素早く滑り込み。

 しずかなること軍師姉の如くで、策略で退路を断って追い込み。

 侵掠しんりゃくすることエチエチ姉の如くで、一気に怒涛の侵攻をし。

 動かざること頑固姉の如しで、もう添い寝するまで梃子てこでも動かないのだ。


 さすが130戦130勝の常勝不敗無敵の姉だ。脳内シミュレーションだけで実戦経験は皆無だが。

 前と意味が変わっているが、『こまけぇこたぁいいんだよ!』なのだ。


「あぁ……ユウ君が添い寝してくれないと、お姉ちゃんまた泣いちゃいそう」

「わあっ、寝ます。添い寝するから泣かないでよ」


 百合華がベッドに入る。

 ただ、前と違っているのは、背中ではなく前から抱きついている事だ。


 悠の正面から抱きつき、柔らかなカラダをピタっと寄せる。

 大きな二つの膨らみが悠の胸に当たり、ギュッと抱きしめて完全に密着させた。

 百合華の美しく肉感的な脚が、悠の股の間に潜り込んできて絡ませる。

 上も下も絡まり合って断続的に刺激を送り込む体勢だ。


 今までの添い寝とは一段……いや、数段パワーアップしてしまった。


「うわっ、何でこんな体勢なの?」

「ユウ君~お姉ちゃん、この体勢でないと寝れないよぉ~」

「そそそ、そんなワケないでしょ!」


(ううっ! だ、ダメだ……お姉ちゃんの脚が、俺のある部分に当たって……。もう……限界かもしれない……)


 布団に入って数秒で、悠は限界だった。


「うあっ、ああっ!」

「ユウ君、声出すと両親が起きちゃうかもよ~」

「っ~~~~~~~」


 ビクンビクンビクン――――


 極限に近い興奮の波が襲い、悠のカラダがビクビクと痙攣けいれんする。

 本当に、もうダメかもしれない。

 先日のドSお姉ちゃんモードが再発しているのか、百合華が攻め攻めモードに入ってしまったようだ。


 ビクンビクンしている悠を見て、百合華の興奮もマックスになっていた。


(もうダメ! ユウ君、可愛すぎ! このまま食べちゃいたい! もう、気持ちよくなちゃって良いよね?)


 エロ姉の攻め攻め添い寝に、悠の興奮は極限を超え異次元に行っていた。


(もうダメだ! お姉ちゃんがエロ過ぎる! このまま最後まで行ってしまいそうだ! もう、爆発しちゃっても良いよね? ――――って、ダメだあぁぁぁぁぁーっ!)


 お互い我慢の限界だったが、悠は最後の力を振り絞り耐えた。

 もう奇跡の忍耐力だ。

 戦国武将に例えるのなら、『願わくば、我に七難八苦を与えたまえ』の山中鹿之助やまなかしかのすけレベルだ。


「ぐっ、ううっ……お、お姉ちゃん……」


 悠が苦しそうな顔をしながら百合華を見つめる。


「えっ、ユウ君……」


「お、俺は……必ずお姉ちゃんを守れるような、お姉ちゃんとつり合う男になってみせるから。だから、それまで俺は我慢する。お姉ちゃんが大切だから」


「え、えええっ!」


 百合華は感動と衝撃を同時に受けた。


(ユウ君、そんなに真剣に私のことを考えてくれていたの……。嬉しい、凄く嬉しいよぉ~! でもでも、私の方がエッチなコトばかり考えていて、すっごくダメな姉みたいだよぉぉぉ! 凄く嬉しいのに、カラダの方はスイッチが入っちゃってんだけど……どうすんのこれぇぇぇ!)


 百合華は、密着させてスリスリしていたカラダを離す。

 そして熱く火照った顔で悠を見つめる。


「ユウ君、お姉ちゃんのことを大切に思ってくれて凄く嬉しいよ」

「お姉ちゃん」


 そして、百合華はモジモジしだす――――


「あのね、それでね……えっと……嬉しいんだけど、何もないのは淋しいから……だから……ちょっとはイチャイチャというか……スキンシップしたいなって思って……」


「う、うん……ちょっとなら」


「だ、だよね! スキンシップは大事だよねっ!」


 ちょっとならOKと聞いて、百合華のテンションが上がる。


「じゃあじゃあ……ち、チュウしたいな」

「えっ、ええっ、えええっ……」

「あ、違うの、ほっぺで良いから」

「ううっ……で、でも……」

「欧米なら挨拶なんだよ。姉弟だから普通だよ」

「いや、ここ日本だし……でも、頬なら」

「良いの!?」


 俄然やる気になった百合華が、悠を組み伏せるように上に乗り顔を近づける。

 お互いの胸の鼓動が密着したカラダからハッキリと伝わる。

 夜の闇の中で、悠は迫りくる義姉の美しい顔を、まるで悪魔に魅入られたように見つめていた。


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