転嫁も厄介

第976話 防止とカツラ

「ねぇ、凛の前世って呪詛も色々と知られていたみたいだけど、呪詛避けとか、呪詛転嫁避けとかの術や魔道具ってあったの?」

ぬべ〜とソファの上で体を伸ばして寝ている源之助に忍び寄り、こっそり爪を切ろうとそっと脚を手に取って肉球を押しながら碧が聞いてきた。


こっそりやらなくても源之助の眠りを深くしちゃえば目覚める前に全部爪を切れると思うんだけどね〜。

まあ、出来るだけ不要に力は使いたく無いのかな?

人間と違って猫は小さいから力を使う影響が大きいかもって心配らしいからね。


「残念ながら呪詛避けは知られてないんだよねぇ。

基本的に生体の一部を盗まれなければ呪詛もかけられないから、そこを徹底管理って感じかな。血を流した場合はそれを拭った布はその場で焼却処分するし、切った爪もそう。

国王とか王太子とか王太子候補なんかは髪の毛を取られない様に定期的に全身の発毛を止める術を掛けてカツラを使っていたわね〜。

退位してから術を解除するんだけど、その時点で毛が生えてくるかは五分五分って感じって話だったわ」


歴史の中でも何人かの王や王子は自分の毛に固執し、結局呪詛で早死にした。

王家の中枢部ともなればそれなりに魔術師の護衛もいるんだけど、母国よりも小さいとは言え、国(や領地)を上げての呪詛は流石に毎回防げるものではないんだよね。

何度も繰り返し金と命を惜しまずにやれば、呪詛って意外と成功する。


果てしなく続く暗殺と同じだね。

しかも髪の毛(鼻毛でもいいけど)さえ入手できれば近付かなくていいんだし。

時々、無知なバカに呪われてカツラの毛を提供した人間も呪詛で死んでた。

お陰で貴族や王族が使える様な立派なカツラを作れる髪の毛を売るのは嫌がられる為、基本的に罪人の処罰の一部として毛を剃ってカツラに活用するという慣習があるぐらいだったなぁ。


「まじ??

王子様までカツラ?!」

碧が爪切りを持った手を止めてこちらを振り向いた。


あまり大きな声を急に出すと源之助が逃げちゃうよ?


「うん。

酷い字面だけど、王座に近ければ近いほど、王子様がカツラを被っている可能性が高かったんだよねぇ。

そんだけ呪詛を防ぐのは難しかったんだけど。

まあ、国内の貴族なんかだったら防ぐよりも呪詛を掛けさせて呪詛返しで抹殺を狙っていたって言うのもあったけど。

そっちも成功確率が7割程度だったし」


かなり好き勝手やっていた王家だったが、流石に王家に呪詛を掛けられるぐらい有力な貴族だったらイチャモンつけて潰すわけにはいかない場合も多かったので、呪詛返しのできる黒魔術師を側に待機させて自分の命を囮にする国王も居た。


国王の方が多くの王子よりも根性が座っていたし有能だったんだよねぇ。

マジであの国は王座から遠ければ遠いほど王族の質が劣化してクソッタレになっていってた。

どうせならまともな王や王子がそう言うクソッタレを殺してくれれば良いのにと思いながらクソッタレの行動を見ていたものだが、クソッタレも利用価値があるのか、あいつらの平均寿命は生活スタイルを考えると意外なほどに長かった。


「女王様とか王妃様は?」

再度源之助の爪に手を伸ばしながら碧が聞いてくる。


「基本的に子供が何人か産まれるまではカツラ、その後は国の政治に口を出したいタイプはカツラで、社交だけ楽しみたいタイプは術を解除して自分の髪の毛を伸ばしてたわね」

白魔術師に頼むと発毛を始めた毛を一気に結える長さまで伸ばせるのだが、神殿へ払わなければならないお布施の金額が半端じゃなかったんだよねぇ。


人気取りもあって、神殿って病気とか怪我への治療は比較的良心的な金額でやってくれたんだけど、美容目的系な施術は思う存分毟り取ってたからねぇ。

国の決まりで国庫の資金を髪の毛関連で使うのは禁じられていたし。


お陰で貧しい伯爵家の娘なんかが王家に嫁入りするとカツラがしょぼくて失笑されると聞いた気がする。


厳しいよねぇ。

王妃なんてそれなりに公務多いんだから、国の政策で何か自分が大切に想うプロジェクトを推進させるぐらいのメリットがなきゃやってられっか〜!ってところだろうに、プロジェクトとかに首を突っ込む場合は呪詛対策をしておかないと長生きできないんだから。


「呪詛転嫁は?」

パチンと源之助の親指の爪を切りながら碧が問う。


「あっちも防ぐのは生体部分を盗ませない様にするのと、あとは署名する際に細心の注意を払うって程度かなぁ。

あれの方がタイミングに猶予があるんだけど・・・ストレートな呪詛よりもキツい事も多いからね」

勝手に転嫁先にされてないか毎朝起きたらチェックさせる王族は多かったね。

そう言うのに限って、どうせなら見逃したいクソッタレだったりしたんだけど。

残念ながら誓約魔術でそこら辺は縛られていたので、呪詛返しの転嫁を気付かぬふりをしてスルーする訳にはいかなかった。


内心では『良いぞ、もっとやれ!』と思っていても、その通りに動けないのが誓約魔術の残念さだ。


「あ、呪詛が実際に返される前でも転嫁先に勝手にされていたら分かるんだ?」

碧がちょっとほっとした様に言ってきた。


「まあね。

一人一人しっかり視て確認しなきゃだから多数を一気に確認って訳にはいかなかったけど」

自動で検出する魔道具とかがあったら便利だっただろうにねぇ。









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