第974話 返しました。

祐一氏へ勝手に転嫁されて返された呪詛は、細胞がボロボロに弱くなって内出血しやすくなる呪詛と、内臓が壊死して機能停止するもの、そしてもう一つは脳卒中を誘発する呪詛だった。


ただし、どうやら内出血系と内臓壊死の呪詛返しを受けた段階で祐一氏が心肺停止状態になって死んでしまったらしく、脳卒中誘発の呪詛は中途半端な感じに宙ぶらりんになっている。

複数の呪詛返しをほぼ同時に受けた人間をしっかり間近に観察した事がなかったので知らなかったが、呪師返しと言うのは一気に同時に起きずに順番に一個ずつ発現するらしい。


へぇぇ。

しかも、相手が死んでいると宙ぶらりんに待機状態で止まるとはね。

確かに、死者を呪い返しても意味はないもんねぇ。

魂を苦しめるタイプの呪詛ならまだしも、脳卒中を誘発する様な呪詛は血液の循環が止まっている死者に掛けても意味はない。


と言うか。

これって変じゃない??


呪詛返しで倍の威力になっているからオリジナルな呪詛よりも強力になっているとはいえ、どれものたうち回って苦しみ、下手をしたら死んでしまう様な呪詛だった。


それが一気に3つも返ってきたって事は、よっぽどの偶然が重なったのでない限り同じ人物に呪詛を三重に掛けたって事でしょ?

しかも、どれも転嫁先に祐一氏を選んでいるって事は・・・呪詛を掛けた人物も同一人物だろう。


前世では呪詛返しの転嫁先用に孤児を引き取って育てる貴族がいると言う噂があったが、良家の跡取り息子な祐一氏が呪詛返しの転嫁先用に育てられた贄という事はどう考えたってありえない。


だとすると・・・これって実は呪詛返しを使った祐一氏の殺害が狙い?

呪詛を掛けた相手が倒れて苦しんで死んでくれたらそれはそれでラッキーと言うところだろうが、態々3つも重い呪詛を依頼するほどの金を掛ける価値がある相手だったら、急激な体調不良になったら回復師がいる病院に入院するだろう。


そうなれば呪詛だと言うのはほぼ確実にバレた筈。

と言うか、回復師がいる病院に入院しなくても、原因不明だと医者に言われた段階で退魔協会に緊急依頼を出すぐらいの伝手はある可能性は高い。


そう考えると、呪詛で金持ちな誰かを苦しめたいなら以前の鎌倉のご老人の様に慢性的な不調を起こす様な、呪詛かどうか黒魔術師以外には確信が持てない程度の微々たるものを使わなければバレる。


考え足らずな若い人間が呪詛を使った可能性もあるが・・・どちらにせよ、同じ人物に掛ける3つもの強力な呪詛の転嫁先を全て祐一氏にするなんて、悪意があり過ぎだろう。


取り敢えず。

最後の呪詛返しが宙ぶらりんになっているので、これを本来の呪い主に返してあげようじゃないか。


祐一氏に流れ込んで猛威を振るい、死に至らしめた呪詛返しは既に呪われた被害者とも呪師とも分離してしまっていてどうしようもないが、最後の宙ぶらりんなのはまだ返り切ってないので呪詛を正当に返す事は出来る。


誰に返るかは知らないけどね。

そっと祐一氏の額に触れ、中途半端に止まっている呪詛を掬い上げる様な感じで隔離し、ちゃんと返るだけの力を渡して押し戻す。


ふいっと呪詛が返っていき、待機中な呪詛が消えた事で穢れが多少薄れて部屋が明るくなった感じがした。


「祐一氏は誰かに呪詛返しの転嫁先にされていました。

呪詛返しは呪詛が倍になって返るので元々の呪詛が死に至らないものでも重症化する上、3つも一気に返されたせいで体が耐えきれずに亡くなってしまったようです」

こちらをじっと見つめていた亜希菜さんと芹香さんに教える。


「呪詛返し??」

「転嫁先とは?」

亜希菜さんと芹香さんがほぼ同時に口を開いた。


「呪詛を掛けた場合、それが成就する前に返されると呪師もしくは依頼主が倍になった呪詛のダメージを受けることになります。

やり方によってはこの呪詛返しを他者に代わりに受けてもらう事も可能なのですが・・・最近、本人に正式な承諾を受ける事なく勝手に身代わりにする転嫁の術を使える呪師が出てきた様ですね」

もっとも、かなりの数は去年のハロウィン騒動の時に天罰を喰らって姿を消した可能性が高いけど。

それでも、元々呪師なんて引き篭もり系な人間が多いのだ。

業界の人間の集まりにだって出てこなかった呪師も多いだろう。


今回のはそう言うひきこもりだったせいで生き残った呪師に掛けられた呪詛の可能性が高い。

まあ、呪詛によってはトリガーで遅延発動する呪詛だってあるが・・・現世ではそう言うのを見た覚えはない。


「誰がそんな事を?!」

ちょっと意外なほどの怒りを見せて芹香さんが聞いてきた。

おや。

それなりに祐一氏の事を大切に思っていたのかな?

大切だったのは『森田家の跡取りである祐一氏の妻としての自分の将来』だったかもだけど。


まあ、どちらにせよ。

「祐一氏は2つの呪詛返しを受けた段階で亡くなっていたらしく、三つ目の呪詛返しがそのまま残っていたのでそれを元の呪詛を掛けた人間に返しておきました。

中途半端に発動していない呪詛が漂っているのは危険ですしね。

祐一氏の知人や親戚で脳卒中に似た様な症状で今日の午後倒れた方がいたら、その方が祐一氏を死に追いやった人間だと考えてよろしいかと」

先にそうやって犯人を探しますかと尋ねたら止められたかもしれないので、言わずに返して報告した。

呪詛なんぞ使って人を殺す様な奴は、それの報いを受けるべきでしょ。


それに、そうでもしなきゃ犯人の見つけようがないしね。

これで依頼完了って事になるかな?








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