第819話 再利用出来なきゃ手間が増えるだけ

「蓮君、お兄さんの彼女さんに関して何か分かったって言ってた?」

レンタカーに乗り込みながら、家を出る前に掛かって来た電話について碧が聞いてきた。


「少なくとも、分かる範囲では親戚じゃないっぽいって。

既に母方の祖父母は亡くなっていて、母親の従兄弟や叔父にもそれとなく聞いてみたらしいけど知っている人は居なかったらしい。

同じ苗字だし、100年かそこら遡れは血が繋がっていた可能性は高いかもだけどね。

もっとも、そこまで遠かったら実質赤の他人だからこれ以上調べても意味がないよねって事になった」

考えてみたら親戚だって事が判明した場合、一応父親に退魔師の基礎を教わり、現在一人前の退魔師として働いている蓮君の方が怜子さんに頼られる立場になる可能性が高い。


だが高校生で、自分だけでなく妹と弟の生活費や学費をシングルマザーな母親と一緒に稼がなきゃいけない蓮君にこれ以上寄りかかられる存在は必要ない・・・と言うか有害だ。


蓮君に尋ねてから、考えてみたら彼の負担を増やす事になるかもって後からちょっと後悔したんだよねぇ。

北海道に親戚がいてもスキーに行く時にでも泊まらせて貰うとか、夏休みに涼みに行くとか程度のメリットしか無いが、猫がいるしひとり親の蓮君の家では北海道まで遊びに行く余裕があるとも思えない。


一方蓮君は退魔師の先輩として仕事関連で頼られたり、東京に来る際の宿泊先として融通を効かせる様に強請られたりする可能性がそれなりにある。

怜子さんの実家が何処か聞いてないが、最初の悪霊騒ぎの時に諏訪の方へ除霊に行った際にあっちの駅で合流したって事は東京では無い可能性が高い。


諸々を考えると・・・怜子さんが親戚だと分かった場合、蓮君の方への負担が高くなるだけでメリットはほぼ皆無なんて状況になりかねない。

まあ、それは怜子さんがそれなりに図々しかったらだけど。

兄貴の人を見る目が信頼できるものだったら心配する必要は無いんだけどね。


とは言え、私は兄貴に人を見る目があるか知らないし、男女の関係って目を曇らせるって言うしね〜。


「ふうん。

まあ、高木ってそれなりに居そうな名前だしね。

偶々凛と縁があった二人が血族だったらある意味凄い偶然だよね」

碧が肩を竦めながら言った。


「だよねぇ。

諏訪湖周辺で藤山って人に知り合って聞いてみたら碧の親戚だったって言うならまだしも、東京と北海道だしね」

つうか、諏訪近辺の『藤山』は確実に碧の実家の血族なんじゃ無い?

人によってはかなり昔に別れた分家でDNA的にはほぼ赤の他人かもだけど。


「まあ、世界の全人口が6人ぐらい知り合いを介したら全部繋がるって話だから、どっかで繋がっていても不思議はないけどね」

碧が言った。


「six degrees of separationだっけ?

国内ならまだしもアフリカとかにも本当に繋がるのかはちょっと怪しい気はするけどねぇ」

まあ、血族じゃなくて知り合いの話なんで、誰か顔が広い人経由で繋がるのかも?


「私的には知り合いの知り合いなんぞ単なる赤の他人だから、繋がっているって言い方に異議があるけどね〜」

碧が笑いながら肩を竦めた。


「確かに。

実質的には意味がない繋がりだよね」


そんな事を話している間に廃病院跡地に着いた。

「そう言えばさ、清めの祝詞って符にしたり、魔道具化出来ないの?」

大江さんに挨拶するためにコンテナハウスの方へ向かいながらふと碧に尋ねる。


各建物のフロアごとに祝詞を唱えて清めてるから、前回来た時に碧の声が最後の方ではちょっと枯れかけてる感じだったんだよね。

今回は喉の優しい蜂蜜入り生姜湯を持ってきているみたいだけど。


「符は使い捨てだよ?

じっくり集中して符用の墨を準備してあの複雑な紋様を描くぐらいだったら、祝詞を唱える方が圧倒的に楽」

碧が指摘した。


確かに。

使い捨てだと考えると、自分が作った符を消費するのは戦闘みたいな時間的制約がヤバい場合以外では効率が悪いか。


「魔道具化は?」


「魔道具なんて符以外で作る技能は無いから知らないけど、魔力を溜めて充填出来る素材を探すのが大変なんじゃない?」

碧がちょっと他人事の様に言った。


「あ〜。

確かに、魔石がなきゃ魔道具って再利用し難いよね」

魔道具の作り方は説明できるけど、魔石代わりになる素材がなきゃ意味がない。

そう考えると、定期的に喉を休ませながら祝詞を唱えるのが一番か。


「そっ。

まあ、頑張って祝詞を唱えるよ。

凛こそ、あちこちに範囲指定の結界を張っていて疲れない?」

碧が聞いてきた。


優しいねぇ。

「大丈夫〜。

そんじゃあ行ってみようか!」


神様相手の祝詞を『さっきのと以下同上』で済ませられないのは当然だけど、ちょっと残念。


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