第737話 だよねって言われても・・・

「何ですか、それ?」

亜弥さんが私の手の中に捕まっている雀の霊を目を丸くして見ていた。

一応話しやすい様に術者じゃなくても見えるよう魔力を分け与えているんだけど、意外と負荷が大きいな。


「悪戯をしていた雀の霊ですね。

特に悪意がある訳では無いようなので悪霊では無いんですが、音を立てて物を倒したりしたら霊が見えない人間には怖いですよね〜」

碧が軽い感じに説明した。


「で?

誰に魔力を貰って悪戯していたの?」

普通の動物霊に音を立てたり物を倒したりする力はない。

それこそ魂を消費するつもりでやらねばならないので、余程の恨みか思い入れがなければ動物霊がそんな事をすることは無いのだ。


人間の地縛霊なんかは意外とあっさり周囲の穢れに染まって自分の魂を削ってでも通りすがりの無辜な人に嫌がらせをする様になる事が多いんだけどね〜。

動物霊はもっとお気軽にふよふよ遊んでいるだけなので、虐待されて殺されたのでも無い限り人に害をなしたり嫌がらせをしたりはしないし、出来ない。


『若い女の子に「結婚式とかウェディングって言葉とか亜弥を褒める言葉を聞いたら悪戯するなら霊力をあげる」って言われたの〜』

雀が楽しげに答えた。


源之助を見るに猫は悪戯好きで色々と物を落としたりするのが楽しいみたいだが、どうやら雀も実は悪戯好きだったらしい。


「若い女の子??」

東谷氏が聞き返してきた。


『その女の人と似た様な感じの子?』

雀の霊が言った。


日本人の若い女性って基本的に黒髪黒目で標準的な体重(か少し細め)だから、言葉で違いを示すのって難しいんだよねぇ。

これがアメリカとかだったら肌や髪の毛、目の色に色々とバリエーションがあるからまだある程度は絞り込めるのに。

日本人でもガッツリ髪の毛の色を染めている人もいるが、全体的な割合としては多くはない。


「ちなみに、ここでその悪戯は持ち掛けられたの?

それともそれとも他の場所で持ちかけられてここへ連れて来られたの?」

口で場所を説明しても雀に場所を説明するのは難しい。

ここら辺に元々いた雀の霊に持ち掛けたか、何処かから近くまで連れてきて放った筈。


『ここで日向ぼっこしてたら話しかけてきたの〜』

楽しげに手の上で羽を動かしながら雀霊が答えた。


直接情報を抜き取れたら楽なんだけど、使い魔契約を無理やり奪い取るのって使い魔にも負荷が掛かるんだよねぇ。

こんな小さな雀の霊じゃあ下手をしたら魂が破損して自我も記憶もなくなり兼ねないから無理はしない方がいいだろう。


「ちなみにその女の子の髪の毛の長さってどのくらい?」


『そこの女の人と同じぐらい〜』

亜弥さんの方へ頷きながら雀霊が答えた。


「分かった、ありがとう。

それじゃあちょっと眠ってて」

捕まえるのにあれだけ苦労したので放したく無いが、いい加減只人にも見える様にしておくのに疲れたので取り敢えず雀霊を寝かせて亜弥さん達の方を見やった。


「この部屋に他の人がいない状態で暫く居座れて、亜弥さんと同じぐらいの髪の毛の長さの女性に心当たりはありますか?

東谷さんにも会っている筈です」

最低でも亜弥さんと東谷氏の両方に使い魔を憑けていると思うが、今はこの雀の霊しか見当たらない。

もう一体はどこにいるのか気になるところだが、まずは被害者側に心当たりがあるか、聞いてみよう。


ストーカーだろうが僻み根性を拗らせた近所の知人だろが、二人とも少なくとも何度かは会っている筈だし、この家にも呼ばれて来たか押し掛けて来れるかな関係にある人間だ。

・・・実家に押し掛けてくる権利があるストーカーなんて最悪だね。

まあ、その場合は隠れストーカーちっくにこっそりやっていて、今までバレていなかったんだろうけど。


「もしかして・・・沙耶??」

亜弥さんが自信なさげに首を傾げながら言った。


「その方の直近の写真はありますか?」

霊が写真で契約主を識別できるかは五分五分なところだが、上手くいけばなんとかなるかも?

ダメだったら本人へ会いにいけば使い魔のリンクを確認できるし。


「この子です」

亜弥さんが携帯を取り出して見せてくれたのはちょっと化粧がケバいせいで老けて見えるけど、多分大学生になったばかりぐらいの若い子だった。


「起きて。

この子があなたに悪戯するよう魔力をくれた子?」

雀霊を起こして携帯を見せる。


『多分そう?

見た目だけじゃ分からないけど、こんな感じだよね』

のほほんと雀の霊が答える。


だよねって言われても、知らんがな。

でも、鳥類って視覚が発達しているって話だから、多分視覚的情報の認識能力は高い筈。


「その沙耶さんに恨まれるか、妬まれる思いあたりってありますか?

嫌がらせ程度なので、亜弥さん達が気付かないようなちょっとした事の可能性もありますが」


先に結婚されるのが気に食わないとか、地味っぽい亜弥さんが見た目のいい東谷氏を捕まえたのが気に食わないとか、その程度の可能性もある。


多分成長して能力が発現しつつあったところにイラッとして黒魔術師の才能が目覚めて、適当なそこら辺に居た動物霊と契約出来ちゃった程度なんじゃ無いかな?


黒魔術師の才能は悪用しやすいから、これからどうするのかちょっと心配だけど。

ちゃんとした退魔師に性格補整も含めて教えてもらえるのかね?



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