第689話 因果応報
「あのモラハラおっさん、使用人に刺されて亡くなったらしいよ〜」
大学から帰ってきたら、碧が軽い感じで教えてくれた。
「はぁ?!」
モラハラおっさん言ったら先日の奥様に呪詛返しが行った案件だろうけど。
刺された??
再度呪われたんじゃなくて?
「『妻ごときが自分を呪った上に逃げるとは何事だ』ってあのおっさんだったら怒って嫌がらせに呪詛を掛けたり、殺し屋を雇ったり、親戚や友人がいたらそちらの生活を破綻させる様な圧力を掛けたりしそうだし、そうなったら自衛と報復の為にあの執事の方が呪詛を掛けるなり殺し屋を雇うなりしそうだな〜と思っていたんだけど、使用人に刺されると言うのはちょっと予想してなかったなぁ。
ニュースにでも出てたの?」
そこそこの金持ちでどっかの会社の大株主か創業者とかの可能性が高そうだったから、亡くなったらニュースに出ていても不思議はない。
「いや、さっき田端さんにあの立川少年の事を確認する為に電話したら教えてくれた。
立川少年から彼の師匠にあのおっさんが依頼していた呪詛の話が出て、調べたら師匠の家に色々と証拠資料が残っていたんで警察がおっさんの所に事情聴取に行ったら、血塗れで倒れているおっさんが発見されたんだって」
碧が詳細を教えてくれた。
「へぇぇ、あのおっさんが居なくなるのは良いことっぽいだけど、随分とタイミングが良いね。
警察が来るって言うんで誰かが口封じしようとしたとかじゃないの?」
だとしたら黒幕が更にいる事になるけど。
あの傲慢そうなおっさんの性格だったら誰かの下で働いているって事は無い気がしたが、誰か共謀者が居てそいつが情報漏洩を防ぐ為に手を回したとかじゃないの?
「なんか、あのおっさんのモラハラ被害を自ら被って使用人達を守っていた奥様と執事が居なくなったせいで屋敷の中が滅茶苦茶になったらしくてね。
体調が良くなったからって女性使用人を襲おうとしたりしてメイドに逃げられ、料理が気に入らないと熱い料理の載った皿を顔に投げられて怪我をした料理長が辞めて、って感じでボロボロと人が辞めてたらしいんだけど、どうも理由があって辞められなくて最後まで残っていた使用人に何か逆ギレされる様な事を言って刺されたっぽい。
まあ、最後の使用人が殺ったんじゃなくって、おっさんが刺されているのを見つけた他の使用人が巻き込まれるのを嫌がって逃げただけかも知れないけど」
碧が教えてくれた。
マジか。
メイドを襲うとか、火傷する様な料理の入った皿を人に投げるとか、いくら金持ちでも日本でそんな無茶が通用すると思っているなんて、あのおっさん頭がおかしくない??
それとも今まではそういう無茶が出来る様な弱みを握った人間だけを雇っていたのだろうか。
逃げられたってことは呪詛で寝たきりになっていた間に使用人が逃げられるだけ立場が良くなっていたっぽいが。
「警察がきたら刺されてるのが見つかったって事は刺してすぐだったの?」
誰かが警察を家の中に入れたんだから。
「いや、気がついたら家の中の使用人が居なくなっていたらしくて、警察がインターフォンを鳴らしても誰も出てこないから庭へ回ってそっちにいた庭師に家の中に警察を案内させたら刺されていたおっさんが見つかったんだって。
刺されて半日ぐらい経っていたっぽいから『警察が来るから口封じ』って訳では無いんじゃないかって」
そっか、庭師だったら家の中には入らないから皆が逃げた事とか死体が転がっている事とかに気付かなくても不思議はないか。
それでもメイドと料理長の話を教えられたぐらいの交流は家の中の使用人とあったみたいだけど。
「でも、それなりに人数がいた使用人が全員逃げたって凄くない??
モラハラが酷いとは言っても普通だったらそこまで早く仕事に見切りをつけて逃げたりしないでしょうに。
何かヤバい違法行為を強要されそうになって逃げたのかね?」
碧が肩を竦めた。
「まあ、その可能性もありそうだから使用人だった人たちを参考人として探しているらしいよ」
この場合って、誰が殺したか分からない状況でも使用人全員のクレジットカード情報とかをゲットして追跡出来るのかな?
容疑者1人ならまだしも、使用人は5、6人は居たと思う。そんな『話を聞いて情報収集をする』って場合でもそのうちの1人が犯人だろうと思われるなら全員のプライバシーを無視して警察が探せるのかな?
なんかそう考えると、適当に容疑をでっち上げたら個人情報っていくらでも警察が入手できそうで怖いね。
警察にも個人としてちょっと変な人もいる様だし、退魔協会や政治家が買収している人も居るだろう。
権力の悪用が出来そうな構造が存在するとなると心配だ。
日本って性善説が強くて悪用できる構造があっても『日本人なら大丈夫』とか、『人を疑うのは良くない』とか言ったアホみたいな事を主張して危険性を無視している事も多い気がするが、やっぱ人間って悪用できる脆弱性があったら誰かが悪用すると思うんだよねぇ。
自分が被害者になる確率は低いかもだけど、確率論的にでも被害者になりかねない様な構造的欠陥は最初から潰しておいて欲しい。
「なんかこう、推理小説にある『第一発見者が怪しい』じゃないけど、使用人が居なくなっておっさんだけだったなら実は庭師が怪しかったり」
逃げたら殺したと思われかねないって事で素知らぬふりをしていたのかも?
同じ家の中に死体が転がっているのに気付かなかったって言うのは嘘くさいが、庭師だったら家の中の事なんて気付かなくても不思議はない。
「ま、そこら辺は警察が捜査するでしょ」
確かにね。
取り敢えず、呪詛を利用していた上にモラハラしまくっていたおっさんが死んだのは因果応報って感じだね〜。
立川少年も田端氏とちゃんと意思疎通が出来ているようだし、このまま上手く退魔協会で働いていけると良いね。
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