第677話 現実は?
「しっかし、ラノベってなんだってこうもハーレム物が多いんだろ?」
会計を終わり、階段に向かう途中でラノベコーナーの前に通り掛かって棚に積んである新書を見た碧が言呟いた。
確かに、表紙に描かれている胸を強調した少女達と1人だけ描かれている少年(青年?)の絵を見る限り、私が買いに来た本の左右に積んである新書はどちらもハーレム物っぽい。
オンライン小説サイトのランキングにもハーレム物がかなり高確率で出てくる。
「夢、なのかねぇ?
なんか、普通の新書だったらハーレム物なんてほぼあり得ないし、時代の流行りに乗った様な似たり寄ったりなウン番煎じな悪役令嬢のザマァ物もあり得ないと思うけど、オンライン小説はある意味素人の趣味で書いているお遊びだからかそう言うのが多いよね〜。
そんでもってオンライン小説サイトのランキングである程度人気が出ると出版しちゃうから、本屋の本棚にこんな子供の情緒教育に悪そうな表紙の本が漫画コーナーの隣にずらりと並ぶことになるんじゃない?」
昔だったらハーレム物の本なんてまず無かったか、あっても敵役の悪人が金にあかせて女を侍らせているような、『こう言うのはダメだよ』とそれとなく伝える様な悪い例として出てきた筈なのに、今では主人公がハーレムをやっている本が堂々と本屋に毎月新刊として並べられているからなぁ。
こう言うのを小さい頃から読んで育った人間ってどうなるんだろ?
いくらファンタジーなラノベとは言え、理想を履き違えたりしないと良いんだけど。
「ラノベを読む男性ってモテない隠キャが多いのかね?
普通に女性と付き合っているなら、隠れて二股ならまだしも堂々とハーレム状態なんてやったら女同士のライバル意識や嫉妬に晒されまくって滅茶苦茶大変な思いをするって分かりそうなもんでしょ」
碧が冷静に指摘する。
「なんか体験でもある様な言い方だね?」
どう考えても碧がハーレムの一員になるとは思えないけど。
「いやいや、中学・高校の女子生徒同士の影の軋轢とか可愛い子に対するイジメとか美人のマウント取りとか見てたら、自明の理じゃん。
都合が良いシーンで別々の女と付き合ってる二股とか三股野郎ならまだしも、ハーレム状態は最悪でしょ」
まあねぇ。
騙されて二股(以上?)なのを知らずに貢いじゃっている女性が沢山いるなら男の方はいい思いだけを出来るかも知れないが、表立って何人もの女と一緒に付き合おうなんてしたら・・・余程立場が強くて一方的な関係じゃ無い限り、人間関係の調整で疲れ果てそうだよね。
「そんなハーレム状態をまるで理想であるかの如く主人公に適用するなんて、作者はよっぽどモテないのか、もしくはモテない男を読者層に想定しているのかな?
女性の立場としては読んでいてかなり不快だけど」
男の立場だったら読んでいて羨ましいと感じるのかね??
「まあ、ハーレムは男性的には『あり』なお手軽に登場人物を増やす手法なのかも?
代わりに女性用は悪役令嬢のザマァもんだしね。
流石にあれを読む男性は少ないだろうけど、あれもやたらと男性優位な社会が多い割に出てくる男性陣は誰も彼も女子高生や若いOLの生まれ変わりな小娘の浅知恵程度に社会制度の根幹に関係する様な事柄でも負けちゃうぐらい知能指数を低く見積もられていて、メインな婚約者役の少年だけでなく男全般を馬鹿にしているっちゃあしている感じだし」
碧がハーレム物の新作の上の段に並べてある中世風な長いドレスを着た少女の絵が描いてある新刊に目をやりながら言った。
「なんかこう、普通に小説を出版するんだったら何番煎じか分からないような似たり寄ったりな流行りの話を本にしようなんて絶対にならないんだろうけど、オンライン小説で素人作家が面白半分にパロディちっくに流行りのテーマで書いたのも人気が出ると出版している感じだよね。
マジで何と言うか・・・使い捨てじゃ無いけど安易?今だけ売れれば良いって言う感じがアリアリで、態々出版する意味が分からない」
ラノベってある意味、本バージョンのユ○クロみたいな感じなのかな?
私は気に入ればユ○クロも変に伸びたり縺れたりしてこない限りずっと着続けるけど、あれって一般的な購入者の想定としては安くて1シーズン着たら買い替えるような、使い捨て感覚な服だと何処かで読んだ気がする。ラノベはそれの本バージョン?
何度も繰り返し読む様な物ではなく、ちゃらっと読んで古本屋に売り払い、それも暫くしたら売れなくなって廃棄。
服は流行りとか劣化とかがあるから、しっかりお金を掛けて長持ちする物を作るのではなく安く短期間だけ着る物をって考え方も分かるが、本でそれをするのはちょっとなぁ。
まあ、それでもビジネスとして成り立っちゃっているからラノベコーナーが本屋で大きくなり、代わりに普通のファンタジーやSFの新書がほぼ絶滅しつつあるんだろうけど。
無料で楽しく読める小説があったら態々お金を出して本を買おうとする人は減るのはしょうがない。
そう考えると、オンライン小説サイトを楽しむ身としては文句を言っちゃいけないんだろうね。
でも。
だったら面白いラノベ作家がエタらないよう、オンライン小説サイトの方は何とか頑張って欲しいな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます