第673話 天罰その2
『すいません、廊下の長さと他の部屋のサイズから考えて仰る場所に部屋がある筈だとは思うのですが、扉の場所が見つかりません』
碧が連絡した田端氏が何やら上に電話し、暫くして姿を消したと思ったら申し訳なさそうに碧に電話してきた。
かなり強力な認識阻害の術が掛かっているらしい。
軽い認識阻害だったら『ここに部屋がある筈』と思っている人間が探すと術で誤魔化せなくなってバレるんだけどねぇ。
仮にも警官としてそれなりに経験を積み、精神力もあるであろう田端氏や他の捜査員でも見つけられないとはかなり強力そうだ。
「分かった。
今からそっちに行くから、地下の入り口の警官に私たちを通す様に伝えておいてね」
碧が田端氏に溜め息を吐きながら言った。
下手に野次馬が居る中で注目の建物に入って行ってSNS晒されデビューなんぞしたく無いから、まずは裏の方にある地下の駐車場の入り口にそっと近づき、降りていく。
軽い認識阻害を掛けているから野次馬の注目は集めない筈。
とは言え、何も考えずに風景を録画している人間がいた場合、後からそれを見直したらウチらが映っているのは見えちゃうんだけどね。
だから帽子とマスクとサングラスまで掛けて入っていく。
ゾンビマスクでもしている方が更に確実なんだけどねぇ。
流石に現場を警備(?)している警官の横を通る際にゾンビマスクをしていたらダメだろう。
入る時にマスクを外すのでは角度が悪かったら身バレしてしまう。
それよりは最初から外さなくて済む変装用具を使う方が良い。
「田端氏に頼まれた者です」
碧が警官に声を掛けて中に入っていく。
「どうぞ、こちらです」
話がちゃんと伝わっていたらしく、入り口に立っていた警官が別の警官に変わる様に声を掛け、案内に動き出した。
「・・・2階ですよね?」
エレベーターの前で止まったので思わず声を掛ける。
階段で登る方が早いじゃん。
こちとら毎日4階まで階段を登り降りしている若者よ?
地下1階から2階ぐらい、全然問題ないんだけど。
「あ、良いですか?
時折階段を使おうとして失礼だと怒る方もいらっしゃるので」
ちょっと嬉しそうに階段へ向かいながら警官が教えてくれた。
まあ、ピンヒールを履いていたり、ヨボヨボの爺さんだったりしたら2階でも嫌がるかもしれないが、階段を日常生活で登るのは健康にも良いぞ〜?
そんな事を思いつつ2階に上がり、廊下を左に曲がったら田端氏がウロウロと廊下を歩いているのが目に入った。
左手を壁につけて歩いている。
ドアの感触で入り口を見つけようとしているのだろうが、肝心のドア枠に手が触れても気付いていないから、成功していない。
「触覚まで誤魔化せるとは、かなり強力な認識阻害の術だね」
匂いとか触覚って術をかける時にあまり意識しないから、掛かりが弱い事が多いんだが。
術師がそこら辺まで注意していたのか、掛かりが弱くても大丈夫なぐらい術自体に魔力を込めたのか。
どちらにせよ、中々凄い。
「田端さん、ではいきますよ〜」
軽く声を掛けて認識阻害の術を壊す。
白龍さまが碧の横に丁度姿を表したので、田端氏には白龍さまが近寄ったら扉が見える様になった風に感じられたかも?
「失礼」
短くノックをして返事を待たずに田端氏が部屋の中に入った。
「勝手に部屋に入ってくるとは何事だ!
私を誰だと思っている!!」
認識阻害の術を破られたのを感じただろうに、中にいた男が偉そうに田端氏へ怒鳴りつける。
「呪師と一緒に隠れている容疑者です。
署まで同行願います」
男の恫喝を気にした様子もなく、田端氏が自分の警察手帳をさらっと見せたと思ったら男の腕を掴んで立ち上がらせ、部屋の外へ誘導し始めた。
腕を捻っている訳でも無いのに器用に相手を誘導している。
上手いもんだね〜。
交代する様にストレッチャーを持った警官2人組が入ってきて、床に転がっていた呪師を運び出していった。
呪師に同情なんぞしないが、あのおっさんは隠れている間中、床に転がった呪師をなんとかしてあげようとしなかったんかい。
せめて上着を頭の下に入れてあげるぐらい、仕事仲間としてやっても良いんじゃない?
「何をする!
私は呪師ではないぞ!」
男が田端氏に怒鳴りつけているのが廊下から聞こえる。
どうやらエレベーターを待っている様だ。
一緒に動いている連中が呪師である認識はあったって認めてるね〜。
「確かに昏倒していないし、呪師じゃあ無いんだろうけど散々金儲けに利用してきたんじゃないかねぇ。
でも、考えてみたら呪詛を掛けるのも、危険だと分かっているのに呪詛を依頼するのも違法だけど、呪師の紹介とか呪詛技術のオークションの主催とかって違法行為になるのかな?」
一応海外では違法行為の仲介とかをしているダークウェブの運営者が摘発される事が時折あるみたいだけど、日本で呪師の仲介とか呪詛技術オークションの主催って違法行為になるんかね?
『ふむ。
呪詛に関わって金儲けした人間に関しては、今回の呪詛返しの余剰分が流れ込む様にするか』
白龍さまが私の呟きにあっさり応じた。
え?
そんな事、可能なの??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます