第671話 いざ会場へ

「呪師が多数集まっている場所がある、と?」

下手に呪師を起こしてオークション会場を襲撃(?)するリソースが足りなくなっては困るので、呪師達の昏倒状態解除の前に田端氏を呼び出し、『白龍さまからの知らせ』を伝える事にした。


『うむ。

流石にこの人数の呪師が意味もなく一箇所に集まるとは思えんじゃろう?

何か悪事でも企んでいるのかと探ってみたら、穢れた気配が集まっている場所があるのに気付いての。

そこにこれから碧と一緒に浄化結界を展開するつもりじゃが、普通の只人も居る様なのでそちらの尋問を警察にやらせねば片手間落ちじゃろう?』

白龍さまが応じた。


民間の施設に人が集まることは違法じゃ無いからそれで問答無用に逮捕できるのかはかなり怪しい気がするが、呪詛を本業として掛ける行為は違法だから呪師も職業がバレれば即逮捕だし、多数の呪師と一緒に行動する怪しげな人も職務質問ぐらいは出来るだろう。

多分。


肝心の『呪師である』という証明をどうするかが微妙な問題だけど。

氏神さまが手を加えた結界で昏倒するのが証拠になるんかね?

まあ、呪詛返しが起きれば証明と処罰とが一気に済んじゃうとも言えるけど。


「分かりました。

今直ぐ手配しますので、30分ほど時間を下さい。

場所はどこですか?」

証明に関しては白龍さまの神託を信じる事にでもしたのか、あっさり田端氏は頷いて碧からオークションの場所を地図で見せてもらって部屋を出て行った。


考えてみたら、氏神さまの言葉が『神託』だとしたら、白龍さまとの日常会話も神託だらけって事になるのかな?

微妙に『神託』の有り難みが薄れる気がしないでも無いが、気にしないでおこう。


「今回も凛が結界を張って私が浄化して、白龍さまがパンチを足す感じで良いかな?」

碧がマップアプリでオークション会場の区画を線で囲みながら言った。


「良いんじゃ無い?

ただ、私の結界じゃあ人間は足止め出来ないからねぇ。

呪師以外が逃げちゃわないと良いんだけど」

出口に認識阻害を施す感じで人を閉じ込めるのは不可能では無いが、パニックして盲滅法に走り回って偶然外に出てしまう人間の出入りまで封じる様な文字通り閉じ込める結界は黒魔術では難しい。


触れたら気絶する様に結界を設定すれば実質出て行けなくなるが、それを警察が見ているところで展開する気は無いし。

オークション主催者側は警察の有能さに期待するしかないね〜。


「準備が出来ました。

問題の建物を包囲して、出口も全て封じてあります」

30分後に田端氏が現れた。


歩いて15分ぐらい掛かる距離だが、車なんぞ出してもハロウィン騒ぎで混雑している渋谷では身動きがとれなくなるだろうという事で、歩きだ。

そう考えると、30分でオークション会場を包囲できるだけの人員を何処から確保したんだろ?


最初からハロウィンで暴動もどきな騒ぎが起きる可能性を考慮して警官が大量に待機していたのかな?

呪師が20人も出てくるなんてちょっと想定外な異常事態だし、何かあると警察側も感じ取ってある程度の備えをしてあっても不思議はないか。


人混みの中をかき分けて、目的地に着く。

2人程制服を着た警官が同行したお陰か、まだそれ程参加者が酔っ払っていない現時点の渋谷では制服を見るとそっと目を逸らしながら皆が道を開けてくれるので、碧と私だけで歩くよりは早く着けたと思う。


しっかし、警官ってこんな感じに避けられるんだなぁ。

まあ、悪いことをやってなくても職務質問とかされたら面倒だし、車を運転している時なんかは明確に『敵』ではあるんだけどさ。

でも。市民を守る為に働いている筈なのに、道を歩くと誰も目を合わせようとしないし近づくと避けようとするってちょっと切ないかも。

田舎や住宅街の交番のお巡りさんとかだったら、もっと生活に溶け込んでいて和やかな感じに挨拶とかされると期待したいねぇ。


少なくとも、渋谷では目を逸らす人の方が多い感じだ。

まあ、目を逸らすのにしても単に『絡まれたら面倒だから』っていう一般市民と『後ろ暗い事がある』犯罪者とでは動き方が違うんだろうけどね。

そう考えると、普通に道ゆく人が避ける程度はどうってことはないんだろう。

制服を着てなきゃ警察の人間だと分からないだろうし。


・・・考えてみたら、アメリカの警察ドラマなんかだと私服警官でもバッジをズボンのベルトとかそれなりに見えるところにしているが、日本の警官ってそういう事ってしないよね?

日本の警察はアメリカのみたいに大きなバッジじゃなくって社員章みたいな小さなピンバッジもどきをしているかもって感じだ。


私服警察で普通にセーターとか着ていたらああいうピンバッジなんて留められないだろうし、日本は警官であることをはっきりさせる必要がないのかね?


まあ、もしかしたらアメリカの場合は『銃を持っているけど正義の味方ですよ』って知らしめる為にバッジが必要なのかな?

日本の私服警官が銃を平時から持ち歩いているとは思えないから、バッジもそれ程重要ではないのかも。


そんなことを考えつつ歩いていたら、オークション会場へ到着。

まあ、警察はまだここでオークションをやっているとはわかって居ないだろうけど。

この建物が何に使われる事が多いかぐらいは調べてあるかな?


取り敢えずそこら辺は私の責任じゃあないという事で、急いで区画を一周してから結界を展開した。

「出来たよ!」


「じゃあ、今度は私ね」

碧が祝詞を唱え始める。


考えてみたら浄化効果なくても、白龍さまのヘルプだけで実はいいじゃんという事に気付いたが、まあ呪師も浄化したら少しは心を入れ替えるかも知れないし、そんな連中が集まる様な場所は清めておいて損はないよね。


さて。何人捕まるかな?


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