第669話 オークション、ですかぁ。

「「うっわぁ〜」」

土曜日の午後、昼食後に渋谷に来て商用施設内の警察用スペースに来た私たちは思わず唖然としてしまった。


なんと、20人も呪師と思われる人間が寝かせられていたのだ。

「これでも2人ほど、目覚めて自分から出て来たので呪詛と関係の無い酔っ払いである事を確認して解放したんですよ」

案内してくれた警官の女性が教えてくれた。


「マジで今年のハロウィン前の週末って呪師のコンベンションでもあるのかも。

考えてみたら日本国内で唯一集団が顔を完全に隠して歩いても誰にも怪しまれない時期だからね。

不法行為に手を染める人間が集まるのに丁度いいのかも」

と言うか、呪師だけでなくテロリストとかも集まっているんじゃ??


「コンベンションがあるのにお祭り騒ぎが行き過ぎになるような呪詛をばら撒くなんて、おかしく無い?」

碧がちょっと首を傾げた。


「帰りは表参道とか恵比寿の方へ歩いて帰れば騒ぎに巻き込まれないし、渋谷駅の近辺で騒ぎが起きて警察が手一杯だったら変な職務質問をされるリスクも下がるじゃん」

まあ、ベテランの呪師が職務質問を受けるような怪しい格好で動き回るとは思わないが。


ばら撒きすぎたせいか未来見に引っ掛かって国の当局から例年以上に注目されてしまうなんてアホの極みだけどね。

まあ、実はばら撒かれた呪詛よりも、この呪詛や呪師の集まりが次に齎す危機がトリガーになって未来見の警告が出たのかもだから、大量に弱い呪詛をばら撒いた呪師のアホさ加減を嗤うのは間違いかも。


取り敢えず。

「碧、まずは全員が呪師かどうか確認していこう。

関係無い人が混じっていたら先に外すべきだから」

碧に声を掛け、ついでに念話で更に付け加える。

『碧が確認している間に、私はちょっとこいつらの記憶を読んでマジで何か企んでいないか確認するから、ちょっと時間を稼いでくんない?』


『分かった』

「じゃあ、私はこっち側から調べるから凛はそっち側からお願いね。

確認が終わって覚醒させる準備が出来たら声を掛けますんで、ちょっと集中する為に部屋の外で待っていて頂けます?」

碧が警官へ愛想よく声をかけて追い出しに掛かる。


監視カメラとかで確認しているだろうから迂闊なことは言えないが、側にいられると気が散るから追い出してくれるのは助かる。


碧に念話で監視カメラと盗聴の危険性を注意しつつ、部屋の隅から横たわっている男の頭に触れて記憶を読む。


意識がないものの死んではいないから、魂の色はしっかり見えていた。

こいつもほぼ確実に呪詛返しで死ぬだろう。

誰を殺したかとか誰の依頼だったかは取り敢えずどうでも良い。

呪詛返しで死ぬとなったら、依頼主の名前を八つ当たりにでも明かしてはどうかと警察が提案するかも知れないが、よほどしっかり証拠を残していない限りそれで依頼主を罪に問えるかはかなり怪しいところだろう。


今はそれよりも、何だってこんなに沢山呪師が集まっているかだ。


ヤバい事を計画しているなら何らかの形で田端氏か退魔協会へ伝える必要がある。

黒魔術師の能力を十全に使える事実を明らかにはしたくないが、惨事を防げるなら防ぐべきだろう。


最近の記憶、特に渋谷へ来た理由に関する記憶を探す。

既に呪師返しが表面下で始まっていて、呪詛による害意が反転・倍増しで呪師に集まりつつあるせいで魂の表面が徐々に波立ってきている感じでちょっと読みにくかったが、幸いにも直近の記憶だから読めた。


「マジかぁ」

思わず小声で呟く。


こいつの記憶によると、渋谷でハロウィン仮装が流行るようになって、都合よく顔を隠して集まれるということでもう10年以上も前から仮装した呪師たちが集まって最新の技術をオークションに掛けて教えあっていたらしい。


教えられる人間は毎回最大金額を示した1人だけだったが、それでも『こんな事が出来る』と示されるだけでも研究は進む。


下手をしたら平安時代が一番技術が進んでいたかも知れない退魔師業界と違って、呪師業界はかなり熱心に研究を続けて技術革新を重ねているようだ。


今回のゴミ箱を使った大規模呪詛発生は大掛かりな仕組みの割にやっている事がしょぼいと思ったら、あれは一種の販促デモだったのだ。


これをオークションに掛けて買った人間が何をするかは・・・想像するだけでも怖い。

未来見が警告を出す訳だ。

ついでにオークションに集まる呪師のかなりの人数を捕まえられたのはラッキーだった。

今日と明日に渡って行われるらしいが・・・流石に初日に大量にオークションの参加予定者が行方不明になったり駅を出た所で昏倒していたのを目撃されていたら、明日はあまり人が集まらなそうだ。


それでも、SNSで即座に情報が共有される訳でも無いのだ。行方不明者に関して不審を感じて警告を出せるような立場にいる人間と繋がりのある呪師以外は今日も無防備に渋谷に来る可能性が高いだろうから、是非とも一網打尽で呪師も只人のオークション関係者とかもガッツリ抑えてしまいたいところだ。


これだけの人数がいたら、お金の流れとかで呪師にサポートを提供しているような違法業者とかもある程度は検挙できるかも知れないし。

警察には是非とも頑張って貰わねば。


取り敢えず、オークションをやっている場所へも白龍さま天罰込み碧謹製浄化結界設置出来ないか、場所を探ってみよう。

問題は、呪詛の才が無いが金儲けに関与している様な人間はどうやって捕まえるかだなぁ・・・。











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