第650話 世代交代は重要だよね!

「儂を怒らせない方が賢いのでないか?当局へ訴えても良いのだぞ?」

巫女服から着替えた碧と合流して商店街の方に行こうとしたら、目の前にあの嫌味な黒塗りリムジンが停まり、窓を開けてジジイが声を掛けてきた。


「宗教行為はそれこそ公共を組織的に害しているんじゃない限り規制は掛からないもの。

ペットの健康を祈願する事のどこに害があるというの?

医療行為だとも治療できるとも謳ってないのに、祈りの効果があり過ぎるから取り締まるなんてあり得ないでしょ」

碧が冷たく言い返す。


と言うか、それだったら宗教法人で治療行為を含めた祈祷をしたって別に問題なく無い?

まあ、ちょっと怪しげな新興宗教っぽくなりそうだから風評被害は出そうだけど。


宗教の形でやると変に狂信的な信者が出てくる可能性もあるからちょっと微妙ではありそうだよね〜。

新興宗教を起こして金儲けに走ろうと思っているならまだしも、普通に客と回復師と言うドライなビジネスライクな関係を望んでいるなら宗教を絡めるのは変な反応を引き起こしそうで危険だ。


前世だったら回復とか治癒は神殿に属している白魔術師の『技能』って知れ渡っていたから宗教が関わってもせいぜい神殿の修繕積立金にでも使ってくださいってちょっと多めに寄進される程度だったけど、そう言う素養がない現世だと・・・マジもんの宗教として崇める人間が出てきそうで怖い。


下手をしてこないだのハウスマンみたいなトチ狂った執着心を向けられたら嫌すぎる。

愛情も信仰心も、要らない相手から過度に寄せられても迷惑なだけだ。


「ペットを癒すなら飼い主たる人間も癒すべきだろう!!

人を助ける能力がある者にはそれを使う義務がある!!」

ジジイが掠れ声を振り絞って非難の声を上げた。


「あら、だったら金の力で人を助けられるあなたはどれだけそれで人助けしてるの?

年金以外の全財産をユニセフに寄付したら考えてあげても良いわよ?

勿論親族への生前贈与はカウントしないからね」

碧が冷たく言い放って、そのまま足を進めた。


そうだよねぇ。

金があれば救える命は幾らでもある。

人を救う能力がある者にはそれを使う義務があるって言うなら、言っている側が『資金力』という能力を人を救う為にまず振り絞るべきだろう。


しっかし。

「碧を脅すなんて、白龍さまの天罰は怖く無いんかね?

あれだけヨボヨボの爺さんだったら下痢程度でも衰弱して死んじゃいそうな気がするけど」


「ああ、私に直接何か言う程度では白龍さまも天罰を下したりしないから。

実際に悪意や害意を持って誰かに話をしたり、命令したりしたらダメだけど単に直接脅すだけだったらその位は耐えて見せろって言うのが白龍さまのスタンスなの」

碧が横断歩道を渡る為に左右を確認しながら言った。


なるほど。

口で脅すだけなら大丈夫なんだ。

でも、口先だけだとしても碧や碧に近しい人へ害をなす為に人を誘導しようとしたり命じりしたら天罰が落ちると。


「そこら辺は過去の研究で解明してるの?」

経験則的な情報収集がされてるのかね?


「以前父親が言っていたけど、どうも国や退魔協会の上層部には現存する氏神様たちの愛し子へちょっかいを出した際のレッドラインに関する情報が蓄積されてるみたい?

一口に『愛し子』と言っても氏神さまによって反応が違うらしいし」

ちょうど私たちの目の前をゆっくりと通り過ぎて行った黒塗りリムジンを無視し、道を渡りながら碧が言った。


「あ〜。

確かにもっと過激だったりのんびりだったり、氏神さまによって対応は違いそうだね」

まあ、愛し子の反応にもよるだろうけど。


それこそ愛し子が脅されすぎて実害がないのに関わらず鬱になっちゃったりしたら氏神さまが激怒してアクションを取るだろう。


白龍さまだったらそう言う繊細なタイプを愛し子として選ばないだろうとは思うが、もしかしたら繊細でデリケートな人間を好む氏神さまだって居るかも知れない。


「つうか、祈祷って形を取れば治療して金を取っても大丈夫なんだったら、実家で回復師として働けない?

やっぱ変に拝まれるのが嫌なの?」

近所の爺さん婆さん連中だったらそこら辺はちゃんと分かってくれそうなものだが。


「う〜ん、私が助けたいようなご老人達って宗教観がもっと真面目だから、法律の穴をつく為に神様の名前を借りるのを嫌がるんだよねぇ。

どうでも良いさっきのジジイみたいのは『折角実家が宗教法人なんだから』ってちょくちょく提案してくるんだけど。

だから人間は一律お断りしてるの。

どうしても私に治療させたいなら法律を変えろって主張して。

どうせ病院にいる回復師に掛かればそれなりに治して貰えるんだし。

病院に借りを作りたくないからフリーな私のところにきて色々持ち掛けるなんて、虫が良すぎる!」

プリプリと怒りながら碧が商店街の方へ足を進めて行った。


なるほど。

他にも回復師はいるのになんで碧に拘る政治家が多いのかと思ったら、医療機関側に借りを作りたくないからか。


だったらマジで法律を変えれば良いのに。

ま、老害はさっさと死んだ方が資産や権力の世代交代が進むから、ああ言うのが治療してもらえないのはそれはそれで良い事かも?






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