第632話 変な人?!

「May I have your name, please?

お名前をお伺いして宜しいでしょうか?」


結局、例年通り国際術師フォーラムのボランティアスタッフは十分に集まらず、退魔協会はアルバイトの募集を後日送って来た。


ので、私は入り口で参加者のIDカードを手渡している。

ICチップ入りで、各会議室の入り口に設置してあるリーダーに翳せば参加制限があるもの以外は満室になるまでそれだけで入れる。


予約も可能で予約してある場合は満室でも入れるので、去年満室になった様な人気講師レクチャラーの発表は予約しておくのが正解だが、2回以上予約した講習をすっぽかした場合は今年の会議全ての予約が取り消され次回のフォーラムでの予約も出来なくなるという、中々よく考えられた仕組みになっている。


なんでも、以前ライバル宗派による発表の邪魔をするために予約を入れまくってシステム上は満席状態にした上でサボる悪質な嫌がらせが横行したらしく、その対応策なんだそうだ。


取り敢えずどの参加者にも日本語と英語で名前を聞いてIDカードに名前を入力して渡している。

先に参加者のカードを作っておけば良いのにとも思ったのだが、入口と受付が4箇所もあるのでアルファベットで入口と受付を指定するかその場で発行するかで過去に試行錯誤した結果、その場での発行の方がまだマシという結論になったらしい。


まあ、受付に並んでやっと自分の順番になったと思ったのに『こちらに貴方のIDカードはありません、西口に行ってまた並んで下さい』なんて言われたら切れるよね。


幾ら名前と入口に関して書いた紙をあちこちに貼り出し、本人にも郵送していてもそう言うのを読まない人間は読まない。

しかも読まない人間に限って『どんだけ並んで時間を無駄にしたと思ってるんだ!!』とガチギレするタイプが多いんだよね〜。


それはさておき。

どんな人が来るか興味があったし、頭が可笑しかったり悪事を計画しているような人間が来ていてとばっちりを喰らったら困るので受付を立候補したのだが・・・取り敢えず現時点では意外と普通な人が多かった。


この人以外。


「リチャード・ハウスマン、デス」

目の前に立ったおっさんが答える。

エクソシストなのか、映画で見る様なローブとコートを合わせた様なキャソック(だっけ?)を着ている。


別に悪霊落としの案件中でもあるまいに、制服を着る必要なんてない気がするけどね。

9月後半になった今ならまだ良いが、1ヶ月前だったら茹って倒れてそうだ。


高校の頃なんかは私服を選ぶのが面倒だから制服で出歩くって言う子も居たが、おっさんも同じ事を考えているのかな?


まあ教会の権威を高める為の制服だから、お腹が出てきたりしても目立たないデザインになっていて、普通にシャツとズボンを着るよりは見た目が格好良くなるのだろう。

多分。

正式な時に着るのはキャソックになるだろうから態々スーツを仕立てる意味もないしね。

吊るしのスーツは値段相応の見栄えになると言うし。


考えてみたら、退魔協会も人材不足だからハニトラ(と言うか日本に移住するタイプの国際結婚と言うべき?)を目指してあの無駄に綺麗にお化粧している受付嬢とかを嗾けているんだろうか?

日本じゃなくても他の国の魔術師団体とかも、人を引き抜けるなら引き抜きたいと美女や美男子を送り込んでいるのかも。


だとしたら女性に擦り寄られたくないならキャソックは丁度いいかもね。

この人はそれとは別な意味で女性に擦り寄られたくないっぽいが。


「どうぞ。

各部屋の入口リーダーにこれを翳していただけたら、空きがある場合はドアが開いて中に入れます」

英語、フランス語、中国語、アラビア語で同じ内容が書かれた紙をIDカードと一緒に渡す。


流石に日本で開催するフォーラムに、これらの言語全てが分からない人は来ないだろうと言うのが退魔協会の期待だ。

発表は基本的に日本語か英語がメインらしいから、英語だけでも良い気がするんだけど。

ただ、そうするとフランス人とか中国人とかが英語だけを示すのは非英語圏の参加者に失礼だと苦情をガンガン入れてくるらしい。


スペイン語を話す人口の方がフランス語を話す人よりも多い筈だが、フランス人の方がプライドが高くて文句を言う人間が多いと聞く。

まあ、国に提出する文書(だったっけ?)を英語で記載すると罰金って法律が通ったか提案されたかしたらしいお国柄だからねぇ。


そのうちもっと技術が進んできたら、IDカードを発行する際にPCが自動で登録された参加者の居住国の公用語でアナウンスするようになるかな?

でもまあ、国によっては言語が複数ある国も多いから普通に紙を差し出す程度で済ますかもだが。


「どうもデス」

日本語フレーズを学んできたのか、お礼を日本語で言いながら離れるおっさんを見つつ、隠密型のクルミを取り出す。


『あのおっさんの後ろを視界に入るギリギリぐらいな距離からそっと見張っていて。

もしも地下とか屋上とか、普通の会議参加者が入らない様な場所に入って行ったら直ぐに教えて』


『了解にゃ〜』


ヤバい人が居たら迷惑だし危険だからと思って立候補した受付だが。

本当に変な人が来るとはちょっと想定外だったな。


さっきからずっと『Elisa! Elisa my love, I am here!! We can be together again!!』

とか何とか、別れた恋人っぽい相手にひたすら魔力を込めまくった念話で呼びかけているんだよね。


不気味過ぎる!!




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