第617話 怖いよねぇ。
台所から出て玄関の方に向かったら、リビングらしき部屋で来た時に会った中年女性が雑誌をつまらなそうに捲っていた。
「お待たせしました、西橋さん」
刑事さんが声を掛ける。
「いえ、姪は子供もいますし変な話に関わりたく無いと言っているんで、しょうがないですから」
溜め息を吐きながら女性が立ち上がる。
やっぱ木島の叔母かなにかかな?
「ちなみに、木島は一人で写真を撮りに旅行に行ったりしたかどうか、ご存じですか?」
刑事さんが尋ねる。
「さぁ?
親族で集まったりしたら周りに合わせてにこやかにワイワイしていたけど、思い返すと自分の事をそれ程話す子じゃ無かったですからねぇ。
どこかに出掛けていたかどうかは姪の方がよく知っていると思いますよ。
急にパートで勤務延長を頼まれた時なんかに子供達をここに来させていたんで、遠出していた日は知っていたと思いますから」
肩を竦めながら女性が答える。
子供の世話を頼むほど親しくしていた筈なのに、玄関を開けるのには協力しないんだね。
まあ、木島を有罪にする為の調査に協力しないのは、親しくしていて無罪を信じているならありか。
「姪御さんは木島が無実だと信じているから捜査に協力しないんですか?」
碧がズバリ尋ねた。
「無実だと信じていると言うか・・・人を殺していると信じたく無いと言うのが本音でしょうね。
子供の世話をちょくちょく任せていたんだし、兄が人殺しだなんて事になったらここら辺にそのまま住んでいる訳にもいかなくなるでしょうし」
あっさりと西橋さん(だっけ?)が言った。
なるほど。
被害者よりも加害者を妙に守る日本の制度だが、流石に連続殺人で有罪になったらメディアに顔が出るだろうし、木島個人を知っている人間だったら誰だか分かってしまって家族は肩身が狭い思いをするだろう。
子供がいたら学校で虐めにあいそうだし。
そう考えると加害者の個人情報の保護ってある意味重要だね。
加害者個人では無く、加担していない周辺の人間を守る為に。
加害者を虐待して精神を捻じ曲げたせいで殺人者になったって言うんだったら虐待した親なり親戚なりもガッツリ居心地悪い思いをすればいいけど、木島は生まれつきどっか狂っていた感じだから、偶々血が繋がっていたと言うだけの親戚がバッシングに遭うのは不幸だし不公平だろう。
「西橋さんは彼が人殺しだと言う話を信じているようですね」
ちょっと好奇心が湧いたので話を向けてみる。
何か納得感と一緒に、虚脱感と言うか空しさというか疲れている感じと、仄かな罪悪感が感じられるんだよねぇ。
「・・・グレたりしないし、学校の成績も普通に良かった子だったんだけどねぇ。
時々、誰もいないとぽんっと表情が抜ける時があってね。
なんか薄ら寒く感じた事が何度かあったのよ。
兄の子だし、それなりに付き合いはあったんだから変な事を考えちゃいけないとは思ったけど、どうも近くにいると居心地が悪くって。でも甥っ子にそんな事を感じるのは悪いから気のせいだと自分に言い聞かせて出来るだけ普通に付き合ってきたんだけどねぇ。
あの子の妹以外の大人は皆微妙にこの感覚を覚えていたんじゃ無いかしら?
それなりに親戚付き合いをしてきたけど、どの家も家族旅行とかには絶対にあの子の都合が悪くて誘っても合流できない時期を選んでいたし」
そこまで居心地が悪い相手だったら親戚付き合いなんぞしなきゃ良いのに。
そうもいかないのが地方での暮らしなのかな?
完全に田舎って訳じゃあないけど、東京程は人付き合いが希薄ではないっぽい。
下手に忌避するのを見せたら報復されるかもって恐怖も無意識下にはあったんかもね。
「ちなみに起訴した後に、彼へ資金を貸すつもりはありますか?」
刑事さんが尋ねた。
「・・・あの子には悪いけどウチはちょっと最近お金が苦しくてね。
でも、フリーランスでそれなりに稼いでいたと思うから、本人で必要経費は払えるんじゃないかしら?」
一瞬躊躇してから西橋さんが答えた。
あれ?
もしかして、警察に玄関を開ける協力をしたから木島が保釈されたら殺されるかもって思った??
なんか一瞬、凄い恐怖感が西橋さんから噴き出したぞ。
連続殺人鬼でも裁判を待っている間って保釈されるの??
海外へ逃げる危険はあまり無いにしても、他の人を更に殺す危険があり過ぎでしょう!!
う〜ん、保釈されるようだったらハネナガでも付けておいて、ヤバそうな行動をしそうだったら裁判まで寝込むようにでもするべき??
連続殺人鬼なんてターゲットが誰でも良いような危険な殺人鬼を、裁判がまだだからって世に放つとは思い難いけど・・・後で確認してみよう。
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