第612話 地下室

「一応、現場に地縛霊になっている可能性もあるかもと言う事で木島の家に案内しますね。

証拠品も保管室から出して来ました」

仙台駅へ迎えに来てくれた刑事さんが車を運転しながら説明してくれた。


田端氏じゃないんだね。

まあ、彼は現場で動く刑事というよりは退魔師との間を取り持つ仲介役だから、事件の調査は仙台警察の人がやるんだろう。


「木島の地下室って名畑さん以外の血痕もあったんですか?」

木島の記憶って誰かや何かを痛めつけて悦に入っているシーンが多くて気持ち悪る過ぎたから、読もうと最初から思っていた事以外はできるだけ視ないようにしていたんだよねぇ。

お陰で他に誰か殺しているって分からなかった。


こう、意識に名前を囁く感じにして浮かんできた記憶を読んだから、ピンポイントな読み方になったんだけど・・・ある意味、殺人で捕まるだけの証拠が名畑さんの件だけで出て来そうだったから無理にそれ以上読まなかったのだ。


だけど考えてみたら死体が見つかっていないトロフィーらしき物が殺人鬼の家にあったら、警察にしてみれば見て見ぬ振りは出来ないよねぇ。


まあ、トロフィーで割り出せる殺人事件の概要だけ被害者の霊経由で分かれば良いんだったら木島の悪意に塗れた意識を読むよりマシだから、こういう形になって良かったけど。


木島にせよ、他の殺人者にせよ、前世の王族にせよ。

正気じゃ無いでしょ?!って思うほど悪意に塗れた人達って一体何なんだろう。

狂気って言って良いのか、それとも壊れているとでも思うべきなのか。

今の時代って精神異常で悪い事を悪いって認識できないと罪としないみたいだが、あれってちょっと納得いかない。

人間、やった行為に対して償うべきなんじゃないかねぇ?

王族なんぞは他の人間はオモチャ扱いだったからいくら壊しても良いと思っていたが、ああ言うのは根絶やしにすべきだったと今でも思う。


取り敢えず木島や他の現代の殺人鬼に関しては、責任能力があると認められる程度に正気だと期待しておこう。


それはさておき。


「壁にそれなりに血の痕跡らしき物がありましたが、DNAが解析できる程では無かったので他に誰かあそこに監禁されていたかは分かりません」

刑事さんが応じる。


そっかぁ。

なんか色々と試しているよねぇ。

痛めつけるのが好きなら自分の家の地下室に閉じ込めるのが一番だろうけど、木島って綺麗好き・・・と言うか潔癖症の気があるっぽかった。

地下室でトイレ代わりにバケツを使わせて自分でそれを処分したり、閉じ込められて汗とかその他諸々で悪臭がべったりこびりついてきた名畑さんの面倒を見るのが嫌だったみたいだから、一回やって懲りたのかも。


元々、半地下なガレージならまだしも、日本の家に地下室があるなんて珍しいよね。

収納場所として作ったらしいから水関連が無くて想定外に使い勝手が悪かったのかな。


戸建てだったら雨戸付きの部屋で雨戸を閉めっぱなしにして閉じ込めれば良さげな気もするけど・・・自分が留守の時に騒いで近所の人に見つけられるかもって心配だったのかね?

元々日本の家の防音ってあまり良く無いからねぇ。


そんな事を考えている間に何やら住宅地の中の一角で車が止まった。

「・・・普通な家ですね」

車から降りて周囲をまじまじと見回していた碧が呟く。


「何でもっと山奥の人が少ない場所に住まなかったんでしょう?」

そうすればそれこそ地下室以外の場所に人を監禁出来ただろうし、庭に遺体を埋められたんじゃ無い?


「田舎の人が少ない所だと人間関係が濃厚で、車の出入りとかも集落全員に把握されてしまいますからね。

人を連れ込んだりしたら直ぐに噂になりますよ」

刑事さんが教えてくれた。


そっか。

連れ込んだだけでなく、その女性が出てこないとなったら色々と憶測を呼びそうだね。


そんな事を考えていたらもう一台車が来て、疲れた顔をした50代ぐらいの女性が降りて来た。

「西橋さん。

今日も立ち会って頂きありがとうございます」

刑事さんが声を掛ける。


妹さんにしては年がいってるよね?

叔母とか?

それとも近所の人かな?


警察なら色々と木島の事を尋ねられるんだろうけど、霊の召喚に来ただけな私らに突っ込んだ事を聞く権利は無さげだよねぇ。


取り敢えず軽く頭を下げ、女性が開けてくれた玄関を通って奥の台所へ刑事さんの後へ続く。

台所の奥に納戸っぽい扉があり、そこを開けたら急な階段があって下に続いていた。


・・・空気が滅茶苦茶悪い。

カビとか変な悪臭とかが穢れと混ざってむっと吐き気がする様な空気になっている。


先に浄化しちゃいたいけど、駄目だよねぇ。







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