第587話 イイね?

「源之助ちゃん、ようこそいらっしゃ〜い!

碧と凛ちゃんもお久しぶり〜」

藤山家に着いた我々は碧ママに暖かく迎えられた。

熱烈に歓迎されたのが源之助で、私らはオマケ的な感じだったけど。


源之助はスンとした顔で碧ママをチラッと見ただけで、碧の腕から飛び降りて階段を駆け上がって碧の部屋に行ってしまったが。


「あら、碧の部屋を覚えていたのかしら?」

碧ママがちょっと意外そうに言った。


まあ、部屋を覚えていたと言うよりは、階段の下や一階の廊下に対源之助で前回施した認識阻害の術がまだ残っていたと言うのが正しいかな?

と言うか、認識阻害の中に立っていた碧ママはどんな風に見えたんだろ?

一応声をあげて近づいてくる様な存在は術を突き破って認識される筈だけど。


「猫って階段登るのが好きだからね〜。

・・・家の窓は全部閉まってるよね?」

碧が念を押す。


一応ピンバッチ型クルミとGPS付き首輪を着けているのでうっかりどこかが開いていて出てしまっても二重に追跡できる様にはなっているけど、外に出た瞬間に車に轢かれて即死しちゃったらいくら碧でも救えないからねぇ。


いざとなったらフレッシュな死体を使ってリビングデッドな源之助にしたら実質行動様式の変わらぬ源之助に戻るが、碧的にはそれでは嫌だろう。


・・・暑さ寒さに強くなるし、トイレも餌も要らないから遠出する時に連れ出しやすくなるんだけどねぇ。


いや、でも暖かい体温と生きているが故の艶やかな毛皮は重要だ。

変な事は考えずに、源之助に害が及ばない様に万全な対策をとっておくのが正解だよね。


「大丈夫よ〜ん。

こないだ屋根にソーラーパネルを設置したついでにちょっと家全体の断熱効果を良くしたから、窓を開けるよりも閉め切ってリビングと2階の一部屋でクーラーを使うぐらいの方が家全体が快適になるの。

暑い空気は天井側の換気口から小さなソーラーパネルに繋がったファンで出す様にしたし。

今日は朝食の後に家中を回って全部の窓の鍵が掛かっているのを確認したから万全よ!」

右手に猫じゃらし、左手に麦茶を乗せたお盆を持った碧ママがにっこり笑いながら二階へ上がりつつ教えてくれた。


準備が良いね!


「そう言えば、凛が明日にでも聖域で水垢離してみたいって言っているんだけど、水垢離用の行衣で丁度良さそうなサイズのってある?」

碧が碧ママに聞いてくれた、


一応水着も持ってきているんだけどね。

水垢離ってなんか、水着よりも行衣っぽいのを着た方が雰囲気が出て効果もありそうで。

病気は気からとか、薬のプラセボ効果とか、人間って『効く!』と思うと効果が出る事が多い。

そう考えると、霊験あらたかな水に打たれるなら水着よりも行衣の方が良いだろう。

ただでさえ、水がチョロチョロで本物の滝の迫力が無いのだ。

格好だけでも本物っぽくした方が効果を万全に味わえる・・・かも知れない。


まあ、それ以前に行衣の方が人に見られても恥ずかしくないしね!


「ええ、あるわよ。

ちょくちょく親戚の子とかがやりたがるし。

最近は試験前に水に打たれてスッキリした後に凛ちゃんの集中力アップのお守りを買って勉強するのが一族の流行りなの」

碧ママが教えてくれた。


おお〜?

集中力アップのお守りもよく売れてるって言ってたけど、碧の親戚の子が使ってるの??

「藤山家の人が使っているんでしたら、聖域の草をタダで分けて貰っているんですしこれらも無料で良いですよ?」


持ってきた納品用のお守りの入った箱をバッグから出しながら碧ママに言う。


「良いのよ〜。

行衣の洗濯をこっちでただでやってあげてる分を向こうはケーキで支払っているんだし。持ちつ持たれつって事で変に値引きしたり無料提供すると却って関係が可笑しくなるから。

・・・あら、これは新しいの?」

箱の中身を確認していた碧ママが自律神経調整用のお守りを見つけて手に取った。


「ああ、それはこないだ母へ更年期障害用に幾つか作ったついでの試作品なんですが、親戚や氏子さんで更年期障害とか鬱病とかで自律神経が上手く動かなくて不調になっている人がいたら、勧めてみて下さい。

夏バテにも良いかも?クーラーのせいで冷房病って言うんでしたっけ?で自律神経がおかしくなった場合にも効くかも知れませんね。

ただし更年期障害って言っても実際に女性ホルモンが減ることによる関節痛とかには効きませんが」


生理は止まっても、エストロゲンはそれなりに出る様に碧だったら調整出来ないかな?

そんなお守りが作れたら無敵かも。


「あら。

自律神経の調整が出来るだけでも素晴らしいじゃない。

イイわね!

そう言う不調って気の持ち様って考える人が多いから、お守りで落ち着かせると良いわよ〜って言い聞かせると本人的にも納得感があるし。

絶対売れると思うから、是非ともこれからも作って頂戴」


キラリと碧ママの目が光った。


おう。

売れそうか。

まあ、良かった。








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