第585話 滝(?)に打たれる
「やっぱ香奈さんが退魔師になるのは難しいかな?
遺伝子の確率的には黒魔術系の適性がある可能性は高いと思うけど」
それ程遅くはならなかったので電車で帰る道中、碧にそっと聞いてみた。
呪詛は黒魔術の適性がなくても使える術だが、身代わりの術は呪詛と黒魔術のハイブリッド的な技術っぽい感じがしたから、多分香奈さんの父親には黒魔術の適性があったんじゃ無いかと思う。
ほぼ確実に一族の長男にずっと適性が引き継がれて来たんだったら、かなり遺伝しやすい適性なのかも。
もしかしたら・・・適性がない長男は『病死』して適性がある子が引き継いできただけなのかもだけど。
親族を使い捨てる術なのだ。
『病死』の手配は簡単だろう。
却って妻が浮気して託卵した場合の方が対処が難しそう。
まあ、流石に家を継ぐ長男で託卵する妻は少ないとは思うけど。
「子供の頃からそれなりに親が術をやっているのを視ているとそれなりに霊力に対する感覚が敏感になると言うか、霊感が発達すると言うか、何かが鍛えられるんだと思う。
ウチの親族なんかだと白龍さまへ挨拶に行った時に霊感があるか教えてくれるんだけど、やっぱ家族に能力が無くって全然術とかを視ていなかった子って最初の能力の発現が大変みたいなんだよね〜」
碧が答える。
へぇぇ。
白龍さまが教えてくれるんだ。
だったら香奈さんに関しても適性があるかどうかだったら頼めば教えてくれたかも?
でも、最初の能力発現と修行とで合わせて十年だったら厳しいか。
しかも黒魔術だと地味だしねぇ。
「どうせだったら白魔術の才能があったら医学部に行って医師免許を取っている間にでも回復師の修行をしたら、大型医療機関の嫌がらせにも負けない資金が潤沢な診療所を開けたのにね。
黒魔術系じゃあ退魔協会に便利に使われるのがオチだから、下手に手を出さない方がいいか」
黒魔術系の適性だと決まった訳じゃあないけど。
でも、お金があっても権力や退魔師業界の旧家とのコネが無ければ退魔協会や国と対等にやり合えないだろう。
そう考えると権力者にとって便利な黒魔術師が一人で退魔協会に入るのは危険そうだ。
「もしかしたら香奈さんも母方の祖父母に伝手があるかもだけど。
考えてみたら、藤山家に黒魔術系の退魔師への伝手ってあるのかな?
父親に確認しておかなきゃ。
まあ、顔が広いから誰かが何とかなるとは思うけど」
ちょっと慌てた様に碧が言った。
「まあ、最悪どうしても誰も見当たらなかったら私が教えても良いよ。
最初の能力発現までの修行は誰か碧の親族にでも頼むけど」
何分どうやってこの魔素の薄い世界で能力を発現させるのか、私には分からない。
前世では発火とか程度の弱い魔術だったら比較的誰でも使っていたし、魔道具にも魔力の流れがあったから、魔力を視るのは誰でも慣れていたんだよねぇ。
「あ〜。
ウチの一族だと、聖域の渓流で少し段差が大きい所の下に座り込んで滝に打たれるっぽい感じでひたすら集中するって方法が多いかな。
特に水系だと霊気満載な聖域の水に打たれているとなんか感じる様になりやすいんだって。
私は白龍さまがなんかふいって息を吹き込んだ感じがしたら出来るようになったんだけど」
おい。
白龍さま、贔屓じゃん。
まあ愛し子なんだからそんなものかな?
滝に打たれるのもありがちな手段っぽいが、あの聖域の渓流ってかなりチョロチョロだったから滝って感じじゃあなかった気がするけど。
それでも水溜りに座って上からちょろちょろ水に打たれるのって夏じゃなきゃ辛すぎるだろうに。
まあ、この世界にしては濃厚な魔素をガンガンぶつけられる形になるから、それが刺激で能力が発現するのかも?
聖域の事を知っている一族相手じゃないと使い難い方法だね。
「まあ、どちらにせよ折角魔術が使える様になっても黒魔術じゃああまり見栄えのする術なんてないからねぇ。
親族しか故人の霊を呼び出しちゃいけないんじゃ、マジで目に見える術なんて黒魔術系だったらほぼ皆無だし。
かと言って元素系の適性があっても、火や水を飛ばしまくるのも周囲に迷惑だしね」
その点、回復術だったらそれなりに見応えがあるんだけどねぇ。
医師免許が必要っていうのは中々ハードルが高い。
まあ、まだまだ先は長いんだ。
それなりに潤沢にある資金を有意義に使って、香奈さんが生き甲斐がある人生を歩める事を期待しておこう。
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