第441話 ゲームの世界

「前世持ち!?」

退魔協会からの電話が掛かってきたので、テレビの音量を下げていた私の耳に碧の素っ頓狂な声が入ってきた。


えぇ??!

慌ててテレビを消して電話の元へ行く。


『依頼主の娘さんが先日突然道端で気絶した後、ここは前世のゲームの世界で自分は悪役令嬢キャラだから断罪イベントの後に殺されると言い出して、怯えて家から出るのを拒否する様になったらしいです。

何かの呪いか、悪霊憑きか、洗脳系の術なのでは無いかと調査と解決の依頼が協会に来ました』

電話から淡々とした職員の声が流れてくる。

とんでもない話でも馬鹿にしたニュアンスになってないのは、プロフェッショナルだね。


それとも悪霊に憑かれてそう言う妄想を信じる様になる被害者もそれなりにいるのかね?


「前世を思い出した様に思い込む事は悪霊なり洗脳なるで有り得るとしても、流石にゲームの世界って言うのはラノベの読み過ぎではありません?

先に精神科医に掛かった方が良いのでは」

碧が冷静に指摘する。


だよねぇ。

前世の記憶が突然道端で覚醒したら気絶する可能性はあるし、びっくりしたら隠すのではなく迂闊な行動をとる可能性はゼロではないが、現世がゲームの世界だって言うのはないっしょ〜。


つうか、なんのゲームなのか聞きたいところだね。

乙ゲー?

それとも妖怪や魔物と人知れず異能力者が戦う現代ファンタジー系のゲームかな?

・・・考えてみたら、現代に基づくゲームだとしたら乙ゲーかエロゲーじゃ無い限り、そのうちゾンビとかが出てくるホラー系なんじゃ無いの??

イマイチ最近のゲームには詳しく無いんで想像が付かないけど。

いや、悪役令嬢だってんだったら乙ゲーか。


無いとは思うけど、ホラーな展開は嫌だよ〜。

もっとも、一番嫌なゾンビアポカリプス系だったら多分私は無敵だけど。

宇宙人による侵略で人類滅亡系はダメだな。

まあ、人が殺されまくったら死霊使いネクロマンサーとして戦えば人類が滅亡する前に宇宙人を叩き出せるかもだが。


『通常に統合失調症とは反応が違うと精神科医の診療結果が出た為、悪魔憑きを考えて教会にエクソシストを頼んだものの上手くいかず、悪霊に憑かれたか、もしくは洗脳系の術が疑われると言う事で退魔協会に話が来ました』

そっか、悪魔憑きに対応するエクソシストは退魔協会じゃないんだ?

そう考えると退魔協会も日本にライバル組織があるんだね。


教会じゃあウチらには更に役に立たないだろうけど。

キリストの神以外は認めない教会はローカルな神である氏神さまも当然否定するし、死霊を使う黒魔術師なんて下手をしたら悪魔の仲間扱いされそうだ。

悪魔って言っても現実には悪霊だろうにねぇ。やってる事は退魔師と同じなのに、宗教が関係すると色々複雑になって面倒だ。


「ちなみに、元に戻すのに成功しない場合はペナルティがあるのでしょうか?

何らかの術で妄想を強化している場合、術を解除しても妄想が消えるとは限りませんよね」

碧が指摘する。


『一応、調査部の報告では何らかの霊力的な負荷が掛かっているとの話ですので、それの解除を目標にお願いします。

負荷の解除すら出来なくてもペナルティは無し、完全に元に戻すのに成功した場合は成功報酬で50万円、完治できなかった場合は1日1万円ずつの日当で期限を二週間後とする形でどうでしょうか?』

退魔協会の職員が淡々と条件を言ってきた。


ふむ。

負荷とやらを解除しても完全に戻らなかった場合に損っぽい。

でもまあ、失敗のペナルティが無いなら面白そうかな?


登場人物とかの名前が現実の知り合いと一致しているからゲームの世界だって言っているんだろうが、どう考えても現世が本当に前世のゲームの世界って言うのは無理があると思うけどねぇ。

転生の時空軸が一方通行ではなくって過去に遡るのが可能で、魂の『ロールケーキ』素材が薄い人がゲームのシナリオライターになり、前世の記憶を『斬新なアイディア』だと思ってゲームを作ってそれが売れたとしても、名前まで一致っていうのは何十億人の地球の人口を考えると確率論的に無理でしょ〜。


まだアイドル育成ゲームとかならまだしも。

それともアイドル育成ゲームにも悪役令嬢っているの??

でも、令嬢っていうからには金持ちのお嬢様じゃないと名前負けしそうだ。


何かのゲームの夢中になっていたオタクが死んで未練を忘れられなくて悪霊になって取り憑いたにしても、やっぱり現実の知り合いに名前を合わせるのは難しいだろう。

そこら辺は意識誘導で誤魔化しているんかね?


洗脳だとしたら・・・何が目的なのか、気になるところだね。

娘さんだったら企業の跡取りって言う可能性も低そうな気がするが。


まあ、取り敢えずさっさと依頼主の娘さんに会って、どんなゲームの世界なのか聞いてみよう。


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