第439話 進化と因果応報

「なんかさぁ、退魔師の技術は平安時代から然程変わって居ない印象だけど、呪符に関しては日々進化している感じだね」

厄祓いをして貰って無事呪詛返しが終わった愛理ちゃんを施設に送り返した後、家に帰ってきて源之助と遊んでいる碧を見ながらふと呟いた。


もう必要なさげだが、一応愛理ちゃんの気力アップの術も魔力を込め直しておいたので万が一再度呪われても暫くは大丈夫な筈。

そう考えると、来週にあの虐待女がどうなったかを確認する際は電話じゃなくって実際に会いに行く方が確実かな?


呪詛返しされて直ぐに死ななかったら、あの女が再度呪師にコンタクトして懲りずにもう一度呪詛を依頼する可能性もゼロでは無い。


「うん?

どう言う意味?」

リボンを振り回しながら碧が聞き返す。

最近は源之助もオモチャなら何でも飛びつくのでは無く、それなりに動きとか色に目新しいモノがないと直ぐに飽きるんだよねぇ。

これが成猫おとなになるって事なのかな。

ちょっと残念かも?

悪戯が減るのは有難いんだけどねぇ。


「以前、呪詛返しを移転させる呪師が増えてきて退魔協会も困っているって言っていたじゃん?

呪詛返しの移転を防いで呪師本人に返す様に退魔協会が頑張ると、次には呪詛返し目的な呪いの紙人形が出てきて。

その呪師っぽい人間を捕まえたと思ったら今度は依頼主が血で対価を払う呪いの藁人形もどきな言わば素人でも呪詛を掛けられる簡易呪符キットみたいのを売り出す様になってきてる訳じゃん?

なんか呪詛だけどんどん進化してるよね」

普通の退魔師の技術も進化しているのかもだが、退魔協会で見かける符は毎回変わり映えしない物ばかりだ。


「う〜ん、悪霊はそれ程変化しないからねぇ。

それに対して呪詛や呪詛返しは生きた人間同士の闘争に近いから、日々進化していくんじゃない?」

碧が答えた。


なるほど。

そう考えると納得だな。

前世でも、単なる魔物やアンデッド退治用の術はそれ程進化していなかったが、戦争用の魔術は軍部が金を注ぎ込んで研究させていたのでガンガン進歩していたと聞く。


魔物も場合によっては進化するが、人間同士の戦いの方が遥かに早くエスカレートするんだよね。

そう考えるとほぼ変化しない悪霊を対象とする祓いの技術はさして進化する必要は無いから古臭い技術を『伝統』って重んじて継いでいけばそれで良いが、呪詛の対応だけは日々進化が求められるのか。


依頼人が声を上げたり金を出さない限り呪師の捜査をしない当局や退魔協会って、考え様によっては無駄に技術を進化させなくて良い事をしているかな?

まあ、呪詛なんて掛けられるのは金持ちの場合が高いから、それなりの頻度で対処してるだろうし。


心情的には微妙だけどね。


◆◆◆◆


『あの人殺し女が拘置所で殺されたんだって!!』

そろそろ愛理ちゃんの所に行こうかな〜と思っていたら、向こうから電話があった。


「あら。

事故じゃなくって殺されたの?」

階段から落ちるとか、棚が倒れ込んできて大怪我するとか、そう言う系の因果応報になると思っていたんだけど。殺されたとはちょっと意外かも?


『うん。

なんか拘置所の怖い人に喧嘩を売っちゃって刺されたんだって』

へぇぇ。

不幸を招く呪詛って判断を誤らせる不幸も含まれていたんかね?

それとも呪詛を返されたせいで怪我をしまくって気が立っていたとか?

まあ人災だとしても、喧嘩で刺されて死ぬって言うのも招かれた不幸の一種か。

刺された場所が悪く無い限り、現代医療の治療を受ければそう簡単に死ななかっただろうし。


「自業自得だよね〜。

人を呪わば穴二つって言うし、愛理ちゃんも人を呪ったり不幸を祈ったりしない様にね」

呪いって必ずしも呪符や人形を使わなくても、全身全霊で誰かの不幸を望んでいるとうっかり自分の命を使って呪いが成立しちゃう事も稀にはあるし。


『そうだね〜。

ママを殺したあいつは不幸になったら良いって思っていたけど、実際に呪いっていうのが存在すると知ったらちょっと怖いと思ったから、気をつけるね。

何か問題があったら弁護士の先生を頼ることにする。

そう言えば、なんでこの話を知ったかって言うと、あのオバさんの近親者って又従兄弟とかが居るんだけどそっちが相続拒否したんだって。

遺産が全部私の所に来るんで、訴訟をやめますよって連絡が来たからなんだよ。

なんか皮肉だね』

愛理ちゃんが私の言葉にあっさり同意したあと、ふと付け加えた。


なるほどねぇ。

損害賠償請求は本人が死んでいたって遺産に対して続けられるから、裁判の結果がどうなるか分からない遺産相続なんて第三者にとっては放棄一択なのか。


愛理ちゃんは自分の損害賠償訴訟だからその点は心配ないよね。


「損害賠償の訴訟で根こそぎ奪い取る手間が省けて良かったね。

今まで訴訟の手続きをやってくれていた弁護士さんの報酬をどう計算するのかは知らないけど。

まあ、今後も何かあったらお世話になるかもって事で後見人さんにも相談してこれからも頼み事がしやすい程度に払うと良いかもね」

不幸を願う代わりに弁護士を使うつもりなら、それなりに民事訴訟が得意な弁護士の伝手は残しておいた方が良いだろうし。


愛理ちゃんのお母さんが亡くなってしまった事は不幸だったが、それ以外に関しては比較的丸く収まった感じかな?








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