カリスマ祈祷師と毒

第313話 カリスマ祈祷師(笑)

「なんかさあ、こう『ペットを救うカリスマ教祖』みたいな新興宗教を始めてお布施1万円につきペットの治療1回ってサービス始めちゃダメかなぁ」

甲府での仕事が終わり、家に帰ってきてテレビでニュースを見ていた碧が突然変なことを言い出した。


「はぁぁ?」

一体何を突然、と思ってテレビを見たら、怪しい宗教団体に入れ込んだ母親が家の財産を寄付しまくったせいで破産した、そのせいで妹も碌な病気の治療が出来ずに死んだと涙ながらに訴える女性のインタビューをやっていた。


「なんか最近、宗教にハマって寄付し過ぎた場合の救済措置の難しさに関する話が多いね。

で、何でそれが碧がペットを救う教祖になる話に繋がるの?」


「なんかさぁ、人間を治療するって話になると医療機関とかが執拗に邪魔してきそうじゃない?

そうじゃなくても折角病気になったんだからそのまま死んだ方が良い様な政治家とかヤクザとかも来そうだし。

その点、ペットだったらどの子も罪がないから命を救う事に葛藤がないし、大切な家族を救ったら感謝の気持ちとして1万円ぐらいお布施しても当然でしょ?

どうせ獣医に行ったって検査とか手術とかしたらそれ以上かかるんだし」

碧が説明する。


確かにね。

昔の近所のお姉さんは猫の手術で20万円以上掛かったって言ってたっけ?

スタンダードで簡単な筈の避妊手術とか去勢手術でも1万円では済まないのだ。

病気の治療で手術が必要になったりしたらもっと高くつくだろう。

・・・考えてみたら、あのお姉さんの猫は何が悪かったんだろ?

大学受験の時期だったせいでしっかり詳しく聞く暇がなかったんだよなぁ。

まだ猫ちゃんが生きていて、不調が残っているなら碧を紹介するのもありかも?

でも。

「獣医的な行為も医療行為と同じで、国家資格を持ってなきゃダメなんじゃないの?」


「ペットを治療しますって銘打ってお金を請求したらダメだけど、苦しんでいるペットの為に祈ったら奇跡が起きたんですって言う分には大丈夫だと思わない?

元々、宗教なんて始まりは貴方の魂を救いますって言う奇跡を売っているようなもんでしょ?

ペットに安寧を与えますって奇跡を売りにしたら『偶然』祈りが通りました〜ってシラを切っても良いじゃない。

宗教法人の行う祈祷だって主張したら法律上は罰せられないと思うんだよねぇ」

碧がゴロリとソファに寝転がりながら言った。


「まあ、碧だったらレントゲンも血液検査もエコーも要らないから、普通にカリスマ獣医をやるよりもカリスマなペット救世主をやる方が効率的かもだけど・・・それっぽく見せる施設とか見た目を準備するのにお金がかかるんじゃ無い?」

宗教法人の認可を取るのかとかも面倒そうだし。


「まあねぇ。

立ち行かなくなって宗教法人の法人格を譲りたがっている小さな神社とかなら父親に聞けば多分見つけられると思うけど・・・流石に確信犯的な脱法用新興宗教を始めるのは嫌がられるかなぁ」

溜め息を吐きながら碧が応じる。


「まあ、1件1万円とか2万円程度だったらある意味重篤なペットの駆け込み寺的な存在になって治してあげるのはありかもだから、実家の方に相談してみたら?

回復師としての力を現世で使う為に、宗教って言うハリボテを使うのも有りっちゃあ有りかもだし」

とは言え、宗教って微妙な問題だからねぇ。

しかも宗教の形にしていたら変に碧を信仰しちゃうようなトチ狂った人が出てくる可能性もあるし。


「つうか、考えてみたら実家の巫女って事にしてペットの健康のために祈祷サービスを知り合いに提供して、その布施を1万円って事にしたら普通の宗教の一環でやれそうじゃない?

青木氏とか、実家の知り合いとか経由の口コミだけになるけど」

碧がぴょんと身体を起こして言う。


「青木氏のとこのニャンコ達を助ける際にお金の支払いが合法化出来るのは良いけど、中途半端に患者数が少ないと拘束時間だけが増えて困らない?

ペットの病気って案外と『ある日突然』的な緊急事態が多いでしょ?

その度に電話で叩き起こされて呼び出されてたら大変だよ」

人間なら卒中や心臓発作でもない限り全く予兆なしに突然重病化する事はあまりないだろうが、ペットの場合は不調を口に出来ないから、単に歳をとって動きが鈍くなって食欲が衰えてきたと思っていたらある日急に血便をや血尿をして重症化なんて事もありえる。

そうなると治療日(と言うか祈祷日だね)を決めておいて週1日だけそっちをやると言う流れで上手く行くとは限らない。


「う〜ん。

そうだねぇ。

人間ならちょっと何処かが痛いとか、気持ちが悪いとか、眩暈がするとかの症状が出たら病院に行こうかなぁって思うけど、ペットの場合は目に見える症状が出るぐらい悪化しないと分からないからねぇ。

難しいか」

溜め息を吐きながら碧がボスンとソファに再び身を投げ出す


「取り敢えず巫女として神社に登録しておいて、青木氏に『祈祷』って名目で具合が悪そうなペットを癒すサービスも提供可能ですって言っておいてみたら?

あの人ならそれなりに上手く色々手配してくれるかも?」


まあ、まずは碧の両親に要相談だろうけど。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る